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最終話

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「……きらきらした目で見られると、つい甘やかしてしまいたくなるのです。子供たちには寂しい思いをさせてしまっていますしね」
「ほとんど毎日入り浸っていたのに、寂しいわけないでしょ。陛下の寵愛も深いから、最近ここに来れる日も少ないのに、子供たちばっかり相手にして……」

失態の弁明に回っていたアドルフだが、エカテリーナの不機嫌な様子に、ようやく気が付く事が出来た。

「エカテリーナ? ……もしかして子供たちに嫉妬しています?」

エカテリーナは、アドルフが子供たちを可愛がる行為そのものに対して怒ったのではない。エカテリーナとの時間を減らしてまで、子供たちと接することに対して怒っていたのだ。

「心配しなくとも、私がいちばん甘やかしたいのはエカテリーナ、貴方です。私の心は貴方のものです」
「そんなこと、知っているわ。もう何人、貴方の子を産んでると思っているのよ」

エカテリーナはアドルフの肩に頭を乗せ、呟いた。エカテリーナの、長いウェーブのかかった、豪奢な金髪を撫でながらアドルフは言った。

「エカテリーナ。時間はかかりましたが、私は伯爵になりました。そしてクリストフ様がお亡くなりになって、3年が経ちます」
「そうね。時間が経つのってあっという間ね。私は、まだ彼がそばで見守ってくれている気がするの」

アドルフの意図を敏感に察してか、エカテリーナは密着していた体を離した。そして、はぐらかすかのように視線を外すエカテリーナの腕を捕まえ、アドルフは、その横顔をじっと見詰めた。

「……20年ほど前に貴方にした申し出を、またしてもいいですか? 私と結婚してください、エカテリーナ」
「私は……クリストフを愛しているわ。それは死んでも変わらない」
「エカテ、リーナ……」
「だって腹違いの兄だもの……クリストフも同じ気持ちだったはずだわ」
「兄……!?」
「一目惚れだったの。他人なのに、誰よりも私のことを理解してくれるって、そんな確信があって。この人は他の人と違うと思ったわ。クリストフとの結婚は父に反対されたけど、今思うと当然ね。クリストフの知り合いにね、いとこ同士で結婚した人が居たんだけど、産まれた子供は普通の人間ではなかった。だからこそ、クリストフは他の人間との間の子を望んだの。私とクリストフの間に子が産まれたら、血が濃すぎて子供が不幸になるかもしれないからって」

長年の疑問が、ようやく腑に落ちた気がした。クリストフは、エカテリーナが妊娠したら、アドルフを寝室には入れず、エカテリーナを抱いて愛した。もしかすると、そういった変わった性癖があるのかもしれないと思っていたのだが、クリストフがふと零した「キスをしたら最後までしたくなるからね」と言っていたことを思い出した。

「……私もクリストフも、甘やかされて育ったわ。子供のまま大人になり、他人の痛みを理解できなかった。……貴方も変わりものね。魔物に抱かれて喜ぶ女なんてほっとけば良かったのに。私を人間に戻したのは、アドルフ、貴方よ。アドルフ、これからも私を愛してくださる? 私、貴方と再婚したいわ」

「エカテリーナ……! 必ず、貴方を幸せにしてみせます……!」
「もう私は幸せよ、アドルフ、貴方のおかげでね」

蕩けるような笑顔で、エカテリーナはアドルフの頬にキスをした。
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