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蝶人間
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「ブラッド王子が国王になるとは、思いもしませんでしたよ」
先代の国王が崩御する少し前に、第一王子と第二王子が立て続けに亡くなってしまい、跡継ぎとなる男児が居なかったため、国王の座は第三王子だったブラッドに転がってきた。
ブラッドは、ルークスとの間に男児が居たため、その座は確固たるものとなった。
第一王子は学校に通えないほど病弱で、第二王子は女に興味がない性癖の持ち主だった。
国王としては世継ぎとなるはずの男児が、揃いも揃って男好きということが、悩みの種だっただろう。だからこそ、健康で、ルークスという想い人のいる第三王子に目を付けて、秘薬を渡したのかもしれない。
その狙い通り、ルークスは王子の妃として、立派に勤めを果たした。何しろ、1人目も2人目も健康な男児を産んだからだ。
ルークスの妻クローディアは「浮気性で、どうしようもない人だけど、ルークスは私にとって、優しくて素敵な夫だわ。私は心から、夫を愛しているし、死ぬまで妻でありたいの。だから、ルークスが女になったとしても、離婚はしないのよ」と粘ったらしいが、王家からの圧力と、クローディアに危害が及ぶことを恐れたルークス本人や周囲の説得に、白旗をあげたらしい。
「子供が居なければ、最後まで戦ったんだけど……」と悔しそうに零していた。
今は、ただの親しい友人として、王妃主催のお茶会に招かれては、楽しんでいるらしい。――ただし、その場には、必ず陛下が同席して睨みを利かせているため「時々、お茶の味が分からなくなるよ」と、ルークスは苦笑いをしていた。
「跡継ぎは産んだから、私の役目は終わったはずなんだよね。はやく男の体に戻りたいけど、ブラッドが許してくれないんだ」
「お許しになるわけありませんよ……」
「私は突っ込まれるより、マリオンのような可愛い男の子に突っ込むほうが好きなんだよ。ブラッドも、幼い頃は目も大きくて可愛かったけど、性格はマリオンと真逆だよねえ。なんであんな我儘に育ってしまったんだろう。やっぱり、私の育て方が悪かったのかな? 可愛いからって、甘やかし過ぎたのから? もっと厳しくすれば良かったよ」
「……兄様、やっぱり酔ってます?」
「ワインはいっぱい飲んだね。ふふ、あのワイン、結構高いワインでね。美味しかったよ、マリオンもどう? 取ってきてあげようか?」
「要りませんよ。……陛下の目が怖いですし」
先ほどから、陛下に聞かれたら不味い発言ばかりだ。大丈夫だろうとは思いつつも、マリオンはブラッド国王との距離を確認しながら、ルークスと雑談を続け、帰り際に長男のグリフと陛下に挨拶をしてから、セリーヌの待つ家に戻って行った。
「今日はくたびれたよ、セリーヌ。慣れないことはするものじゃないね。ずっとドレス縫ってるほうが、よっぽど気が楽だったよ」
「おかえりなさい、マリオン。大変だったわね」
ルークスの仲介で、王族ともコネクションの出来たマリオンとセリーヌは、蝶人間の仕立て屋として巨万の富を得ることになる。
蝶人間の飼育を続ける内に、蝶人間がマリオンとセリーヌに懐くようになり、鎖で繋がずに温室から出しても、夫婦から逃げもせず、まるで寄り添うように傍らに付き従い、蝶人間を愛好する貴族から賞賛されることになった。
「今までに得た知識を、僕らだけで留めるには勿体ないよね」
マリオンはサロンを開き、身分に関係なく蝶人間の愛好家を集わせて、知識を共有することにした。
マリオンの人生は蝶人間と共にあった。マリオンの屋敷の中は、蝶人間が棲みやすいように改築され、蝶人間屋敷と呼ばれた。
「僕が死んだら、きっと迎えに来てね、ニーナ」
出会いもあれば別れもあり、思い入れの深かったニーナという蝶人間の雌が死んだ時、マリオンの心は壊れそうになってしまったけれど、乗り越えられたのはセリーヌという存在があったからだった。
ニーナが死んでからも、マリオンはニーナの子孫に囲まれながら、幸せな生活を送った。
「セリーヌ、ありがとう。こんなに充実した、楽しい人生を謳歌出来たのは、君が僕を支えてくれたからだよ」
夫婦が老衰で、穏やかな最後を迎えた後も、温室と屋敷、それに蝶人間は、夫婦の子供たちが、代々管理し続け、温室では、蝶人間という生物の営みが脈々と受け継がれていったのだった。
先代の国王が崩御する少し前に、第一王子と第二王子が立て続けに亡くなってしまい、跡継ぎとなる男児が居なかったため、国王の座は第三王子だったブラッドに転がってきた。
ブラッドは、ルークスとの間に男児が居たため、その座は確固たるものとなった。
第一王子は学校に通えないほど病弱で、第二王子は女に興味がない性癖の持ち主だった。
国王としては世継ぎとなるはずの男児が、揃いも揃って男好きということが、悩みの種だっただろう。だからこそ、健康で、ルークスという想い人のいる第三王子に目を付けて、秘薬を渡したのかもしれない。
その狙い通り、ルークスは王子の妃として、立派に勤めを果たした。何しろ、1人目も2人目も健康な男児を産んだからだ。
ルークスの妻クローディアは「浮気性で、どうしようもない人だけど、ルークスは私にとって、優しくて素敵な夫だわ。私は心から、夫を愛しているし、死ぬまで妻でありたいの。だから、ルークスが女になったとしても、離婚はしないのよ」と粘ったらしいが、王家からの圧力と、クローディアに危害が及ぶことを恐れたルークス本人や周囲の説得に、白旗をあげたらしい。
「子供が居なければ、最後まで戦ったんだけど……」と悔しそうに零していた。
今は、ただの親しい友人として、王妃主催のお茶会に招かれては、楽しんでいるらしい。――ただし、その場には、必ず陛下が同席して睨みを利かせているため「時々、お茶の味が分からなくなるよ」と、ルークスは苦笑いをしていた。
「跡継ぎは産んだから、私の役目は終わったはずなんだよね。はやく男の体に戻りたいけど、ブラッドが許してくれないんだ」
「お許しになるわけありませんよ……」
「私は突っ込まれるより、マリオンのような可愛い男の子に突っ込むほうが好きなんだよ。ブラッドも、幼い頃は目も大きくて可愛かったけど、性格はマリオンと真逆だよねえ。なんであんな我儘に育ってしまったんだろう。やっぱり、私の育て方が悪かったのかな? 可愛いからって、甘やかし過ぎたのから? もっと厳しくすれば良かったよ」
「……兄様、やっぱり酔ってます?」
「ワインはいっぱい飲んだね。ふふ、あのワイン、結構高いワインでね。美味しかったよ、マリオンもどう? 取ってきてあげようか?」
「要りませんよ。……陛下の目が怖いですし」
先ほどから、陛下に聞かれたら不味い発言ばかりだ。大丈夫だろうとは思いつつも、マリオンはブラッド国王との距離を確認しながら、ルークスと雑談を続け、帰り際に長男のグリフと陛下に挨拶をしてから、セリーヌの待つ家に戻って行った。
「今日はくたびれたよ、セリーヌ。慣れないことはするものじゃないね。ずっとドレス縫ってるほうが、よっぽど気が楽だったよ」
「おかえりなさい、マリオン。大変だったわね」
ルークスの仲介で、王族ともコネクションの出来たマリオンとセリーヌは、蝶人間の仕立て屋として巨万の富を得ることになる。
蝶人間の飼育を続ける内に、蝶人間がマリオンとセリーヌに懐くようになり、鎖で繋がずに温室から出しても、夫婦から逃げもせず、まるで寄り添うように傍らに付き従い、蝶人間を愛好する貴族から賞賛されることになった。
「今までに得た知識を、僕らだけで留めるには勿体ないよね」
マリオンはサロンを開き、身分に関係なく蝶人間の愛好家を集わせて、知識を共有することにした。
マリオンの人生は蝶人間と共にあった。マリオンの屋敷の中は、蝶人間が棲みやすいように改築され、蝶人間屋敷と呼ばれた。
「僕が死んだら、きっと迎えに来てね、ニーナ」
出会いもあれば別れもあり、思い入れの深かったニーナという蝶人間の雌が死んだ時、マリオンの心は壊れそうになってしまったけれど、乗り越えられたのはセリーヌという存在があったからだった。
ニーナが死んでからも、マリオンはニーナの子孫に囲まれながら、幸せな生活を送った。
「セリーヌ、ありがとう。こんなに充実した、楽しい人生を謳歌出来たのは、君が僕を支えてくれたからだよ」
夫婦が老衰で、穏やかな最後を迎えた後も、温室と屋敷、それに蝶人間は、夫婦の子供たちが、代々管理し続け、温室では、蝶人間という生物の営みが脈々と受け継がれていったのだった。
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ファンタジー大好きです!((´∀`)) むしろファンタジー以外殆ど書いてない…
驚かせてしまってすみません! ブラッドとルークスの関係は僕の白い蝶というタイトルからは離れた、本編にあまり関係のない話なので、番外編に隔離したほうがいいのかなって迷ったんですが、侍従の件(犬)を、どうしても本編に組み込みたかったので隔離しませんでした。
好き勝手に書き散らしていますが、またお気に召されるような作品が出てくる日が来ればいいなと思います。
まさにそれですね!
ある意味、人身御供です!(ドン
いわゆる王子は「狂犬」のような性質で、ルークスはお目付け役のような役割を果たしていました。タイトルが「僕の白い蝶」なので、ニーナの話をメインに持っていくつもりだったので、ここまで詳細に書くつもりはなかったんですけど(セリーヌの話も大半すっ飛ばす予定だった)結局詳細に書いてしまったということは作者がこの世界観を気に入ったってことなのかもしれませんね。