僕の白い蝶【完結】

ちゃむにい

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子供

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「困りましたね。どうしましょう、メイリン?」
「もう少し様子を見たらどうかしら……。ニーナが卵を産んだとしても、どうせ蝶人間が増えるだけよ。貴方も、あの侍従みたいに、ご主人様の怒りを受けたくないでしょう?」
「それは勿論。私にも養わないといけない家族が居ますから……」
「学校の欠席が続けば、侯爵家に手紙が届くでしょう。それまでに、どうやって報告するかを考えないといけませんね」

少し前にマリオンが侍従に下した強烈な罰は、メイド達にとっては恐怖でしかなかった。解雇された侍従が送り込まれた先は、死んだほうがマシだと噂される場所だったからだ。それこそ人としての尊厳を踏みにじるような行為が平然と行われているのだという。

(きっとご主人様はご存知ないんでしょうね……)

知っていたら、そんな場所に送り込まなかったはずだ。
マリオンは貴族の子息ではあるが、メイドなどの使用人にも、分け隔てなく接する優しさがあった。侍従がニーナを凌辱していた事が発覚した時に、侍従が少しでも反省の態度さえ示してくれていたら、そんな場所に侍従を送ることはなかっただろう。

侍従は項垂れながら、この屋敷を去っていった。きっと今頃、自分が犯した罪を――同意なしの性行為が、どれほどの重い罪なのか、ニーナと同じ立場になって、ようやく理解したのではないだろうか。

「……ご主人様、明るくなられましたよね」
「私もそう思うわ。今のご主人様があるのは蝶人間のおかげよ。だから、蝶人間を無暗に取り上げるような行為は控えないといけないわ」

(ご主人様には、セリーヌ様よりもニーナのほうがお似合いかもしれない……。蝶人間を飼い始める前よりも、ずっと表情が明るいわ。きっとニーナが、心の支えとなっているのね)

勤続年数の長いメイリンは、幼い頃からマリオンが婚約者に冷たくあしらわれ、落ち込んでいる姿を見続けていたため、マリオンとニーナの関係を好意的に受け止めていた。ふさぎ込んで部屋に閉じこもるマリオンに、元気になって欲しかったけれど、ただのメイドであるメイリンは無力だった。

これだけ夢中になれる存在は、今後現れないかもしれない。ニーナは、今のマリオンにとって希望であり、生きる意味でもあった。そのような存在を取り上げてしまえば、どのような変化がマリオンに訪れるのか想像するだけで、メイリンは恐ろしかった。

ニーナに見せる、輝くような笑顔は、学校に通い始めてから見ることもなくなってしまった。だからこそ、メイリンは嬉しかった。

(私、ご主人様の笑顔を見るためにメイドをしているようなものだもの……)

子供の居ないメイリンにとって、マリオンは子供同然の存在だった。マリオンの幸せを守ることが、メイリンにとって生き甲斐だった。

メイド達が様子見を始めてから2か月後、ニーナは大きな葉の裏に卵を3個産み付けた。侍従の子という可能性もあったが、そうでないことをマリオンは確信していた。

マリオンは、蝶人間の資料は片っ端から集めていて、蝶人間の妊娠期間なども調べ上げていた。そのため、ニーナが産んだ卵は、有精卵であるならマリオンの子で間違いなかった。

マリオンは歓喜して、ニーナを抱き上げ「絶対孵化させてみせるからね!」と叫んだ。
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