僕の白い蝶【完結】

ちゃむにい

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羽化

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マリオンは他の奴隷を見たが、欲しいと思えるような奴隷は居なかった。ただ、可愛い獣人の女の子が居たので、メイドとして購入することにした。
やや反抗的な態度ではあったが、マリオンに仕えるメイドは優秀だ。侯爵家の屋敷にも獣人のメイドは居たから、きっと彼女達が、獣人を優秀なメイドに仕立て上げてくれるだろう。

そしてマリオンの殺伐とした生活に潤いを与えてくれるに違いなかった。

想定外の掘り出し物があったことに満足しつつ、マリオンは奴隷商の男に尋ねた。

「ねぇ。この女以外に、胸の大きい女は居ないの?」
「残念ながら、胸の大きな奴隷は需要が高く、希少でして。この頭が少々いかれた女でも、あと1週間も経たずに売れるかと思います」
「だよねえ……学校でも、大きい子いないもん」

マリオンに告白してくる女の子は、胸が小ぶりな子ばかりで、一夜を共に過ごしたいと思えるような、セリーヌ以上に魅力がある女の子は居なかった。

「その奴隷がお気に召さないのなら、いちから育ててみるというのは如何ですか? 飼育は難しいですが、蝶人間の雌なら、胸が大きいですから。雄だったとしても、私に売ればいいだけの話ですし」
「何それ。面白そうだね」

奴隷商人の勧めもあり、マリオンは流行りの蝶人間の卵を買って、育て始めた。

蝶人間の飼育は難しくて、殆どが蝶に羽化する前に死んでしまった。

「やっとサナギになったけど……。なんとか羽化してくれないかな……」

飼育は難しいと、奴隷商に念押しされても、高い壁があればあるだけ、マリオンの心は燃え盛った。まずは侯爵家に財政的な支援を要請し、蝶人間専用の部屋を作った。そして蝶人間を飼育している他の貴族に話を聞いたり、書物を読み漁って試行錯誤を繰り返し、飼育のための知識を増やしていった。

だが、その結果はあまり芳しいものではなかった。ただ無為に失われていく命を前に、もう育てるのをやめようかと、心が折れかかっていた。

これが最後だと思いながら、卵を3つ買って、2つは卵から孵化することなく死んでしまった。

最後の卵は孵化し、順調にサナギになったが、数日前に、サナギのひび割れを確認したのに、一向に出てこなかった。
またサナギの中で死んでしまったのではないかと心配で、昨日からは心配のあまり学校も休んでしまった。毛布を被って、蝶人間用に改築した部屋の中で泊まり込み、そして、ついにその瞬間が訪れた。

「頑張れ……! あと少しだよ……!」

手に汗を握る。声援をかけ続けて数十分を過ぎる頃、ずるり、と待望の蝶人間が出てきた。

「やった!!!」

かつて、これ程までに感動した事があるだろうか。それはマリオンにとって、素晴らしい経験だった。

「うわぁ、女の子だったのか。それに、すごい綺麗な白い羽根だ……可愛いなあ」

睫毛が長く、目も大きい。卵から育てた欲目かもしれないけど、その蝶人間は今まで見た、どの女の子よりも可愛く思えた。

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