ゴブリン転生【完結】

ちゃむにい

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窮地に陥る

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「ギャー(鑑定)」

度々使うこのスキルは、腹の出たハートリアを見て「あとどのくらいで生れるのかな」と楽しみにしていたら、自然と身についたものだ。
この便利なスキルで色々なことを知ることが出来るようになったが、好奇心に駆られるまま多用していたら、女が妊娠したかどうかまで把握できるようになってしまった。

「……ギャ?」

ハートリアが出産して感動していると、なんとなく活力が沸いてくることに気が付いた。ふと、自分のステータスを見ると、ほんの少しだが能力が強化されていることに気が付いた。
どうやら俺は、息子が増えれば増えるほど、強くなるスキルを持っているようだった。おそらくは、ゴブリンの英雄という称号の影響だと思う。
他にも同様のスキルはないかと思ってステータスを見ると、魂廻たまめぐりという見慣れないスキルを見つけた。

人間であった頃から、俺は人の魂が見えていた。だから死後の世界に興味は強かった。
普段はぼんやりと見える魂は、生活している中で精神的ストレスや肉体的疲労がたまるとよりはっきりと見えるようになった。
おそらくは死の世界へと近づくからだろう。
なぜ自分には見えるのか、なぜ他の人には見えないのか。
幼い心ながらに不思議であった。

ゴブリンに転生しても、なお魂は見えている。
それも人間であった頃は死者のみであったが、ゴブリンになってからは生者の魂も見えることが出来た。
そして得た「鑑定」というスキル。

俺は辺りに漂う魂を「鑑定」してみた。
かつて自分が何者であったなど忘れてしまったような、時が経ては消失するほど弱体化したものでは鑑定出来ないようだ。
もしやと思い、先日死んだ女の魂を鑑定してみた。
この世に強い未練を残した自我のある魂であれば鑑定可能のようだ。

魂廻は特殊なスキルだ。
色々と試してはみたが、このスキルに関しては未だ分からない事も多い。というか分からない事だらけだ。鑑定で調べても大雑把な説明だけで詳細が不明だからである。魂を食べたら何かが起きるというのは分かるが、情報不足すぎて二の足を踏んでいた。
説明不足も甚だしい。

「ギャー…、ギャギャ??(これを食うのか…、食えるのか??)」

思わず呟くほど、滑稽な話だった。

そもそも魂を掴むことは出来るのだろうか? 素通りにならないか?
丸飲みになるのだろうか? 
けっこう大きいのだが、咀嚼できるのか? 喉に詰まらないだろうか。
水で魂を押し流すってのも変な話だな、と思いながら、女の魂を掴んでみた。

女の魂は逃げることなく、触れることが出来た。

「ギャギャ…(あたたかい…)」

まるで乳房のような柔らかさだった。
ふと、この女を犯した時のことを思い出す。
尻のでかい、いい女だった。

なんだか魂が美味そうに見えてきて、ごくり、と喉を鳴らす。

「……ギャーア(いただきまーす)」

魂は文句なしに美味かった。
腹も膨れる。
人間の肉の次ぐらいには。
とにかくのど越しがいい。つるりとした感じが最高だ。
そのまま踊り食いも良いが、噛み砕くことも出来て、コリコリとした歯ごたえがある。
味付けはなくともデザート感覚で、さっぱり美味しく食すことが出来た。

「ギィ、ギィ、ギャアー(これは癖になりそうだなー)」

そうなると生者の魂のほうも気になり始めた。
味の違いはあるのか?
美味しいのか?
丁度人間の男を捕らえたので、色々と試してみたのだが、食えなかったし、魂に触れることも出来なかったので時間の無駄かと思い、優先順位を下げた。

何かしら方法はありそうな気がするのだが、今やる事ではないだろう。なにしろ、ゴブリンのボスとして、他にやるべきことは山ほどあるのだから。

「ギャア、ギャア、ギャ…(ふんふん、なるほどね)」

男が持っていた紙に、学んだことを書き記していく。

死者の魂を食えば、生前持っていたスキルがランダムで1つだけ奪うことが出来る。
そして、子を孕ませた時、奪ったスキルを子に与えることが出来るようだ。

人間を2人喰らって、得たスキルは2つ。
その後の性交でハートリアから生まれた子は5匹。2匹は奪ったスキルを得ていたが、他3匹はただのゴブリンだった。
2匹はスキルを持っていた魂の、性格や記憶も一部引き継いでいるようだった。ただ、ゴブリンに食われたというマイナスな情報は抜け落ちてるようだ。
試行錯誤を繰り返した結果、命中率低下や盲目という弱体化スキルを持ったゴブリンも産まれたが、使い勝手の良いレアスキルを重複して得るゴブリンもいた。
スキルがあるなしは、そのゴブリンにとって生死すら分ける。
知性が低いからこそ、スキルに依存するところが大きいのだ。

この魂廻というスキルさえあれば、本来ゴブリンは得ることが出来ないとされる、人間やエルフのスキルでも、得ることが可能になる。
治癒、魔術を持った息子たちがいることは確認済だ。
治癒や魔術は、もっと特殊な進化をしたゴブリンが何年もかけて得ることが出来るものであり、生まれてすぐのゴブリンが扱うことが出来るというのは、人間にとっては驚異でしかないだろう。

つまり、このスキルの恩恵で、いくらでも強いゴブリンが産み出せることになるのだ。

少し調子に乗った俺は、新たなる雌を求めて遠征してみる事にした。

そこで思い知ったのだが、どうやら井の中の蛙であったらしい。

「ギャー、ギャギャ……!(くっそ、ミスった……!)」

うぬぼれもあっただろう。

腕力だけでは飛ぶ相手には何も出来ないし、魔物でもない大きな猪に体当たりされたら、打ちどころが悪ければ死ぬ。
強力なスキルがあるとはいえ、ゴブリンはゴブリンだ。
しかも最もレベルが高い自分でさえ、レベル15ほどしかない。
得るところもあったが、遠征により5匹ほど精鋭のゴブリンを失ってしまった。
これは群れとしても痛手だった。

「ギャアギャ!(おい、しっかりしろ!)」

俺は、怪我らしい怪我はない。
だが、息子は虫の息だ。返事がない息子を背負って、崖をよじ登った。

幸いなことに気象に恵まれた。
この辺りは頻繁に濃霧が発生して、1メートル先も見えぬほどになる。
それで敵の目を何とか撒いて巣穴へ帰還出来た。
この程度の傷なら、時間が経てば癒えるだろう。息子はそんなに弱い男じゃない。
だが、ズタズタにされたプライドは、俺に火をつけた。

この世は弱肉強食。
もっと頭を使って、強くないと生き延びれないと思い知らされた。
俺にはゴブリンの仲間という、守るべきものがある。
慎重すぎるぐらいのほうが良いのだ。

――もう誰からも奪われたくない。

ゴブリンの群れは、自分にとって大事な居場所だった。

仲間と息子達に頼られるのが心地よかった。

そのためには強くなくてはならない。
俺から奪おうとさえ思えなくさせるほど、圧倒的に。

だが、1人では限界がある。
地道に鍛えていけば強くなれるのかと思って、スライムなど比較的危険性の低い魔物や人間を殺してみたが、次第に経験値も低くなり、最終的にはゼロとなった。
弱いものをたくさん狩ったところで、強くはなれないのだ。

そこで目を付けたのは「ゴブリンの英雄」スキルだった。
それは息子が多ければ多いほど強くなるものだった。

魂廻を使ってゴブリンをたくさん産ませたら、自分のように特異種が生まれるかもしれない。そして、俺はそれを見極める目を持っている。
他のゴブリンの群れやってることを参考に、手っ取り早く仲間を増やそうと思った。

強くなるのには女がいる。
それもたくさんの女が。
この辺りには自分以外にも、複数のゴブリンの集団がいた。
それらすべてを倒して支配下に置き、捕らえられてる女を管理した。
既に妊娠してる女も複数いたが、まだまだ使える女も多かった。

群れに有益な魂のストックがある場合、女は、まずボスである俺が孕ませる。
孕んだ女には手出しはせず、世話役のゴブリンを付けて母体の生存率を上げ、出産を待つ。
それがルールとなった。
他のゴブリンは払い下げを待つ。
反発する者はいなかった。
実力差を体で理解させたのだ。
ここでは俺が王だった。
嫌なら出て行けばいいのだ。

そうやって、少しずつ仲間を増やして、縄張りを広げていった。

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