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『鏡の檻(1)』 

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「ただいま~」 

学校から帰宅し、靴を脱いで、何時ものように家に入る。 
曲がりくねった階段を上がって、自分の部屋に入ろうとしたら、見知らぬ男が居た。
私はビクリとして、そっと部屋の扉をしめた。 

「おばあちゃん、私の部屋に不審者がいる!」 

カバンを持つたまま、階段を下りると、祖母が振り返りもせずに、こう言った。 

「ああ、家庭教師をお願いしたのよ」 

私の両親は、戦争で死んでしまったから、今は祖父母の世話になっている。野菜をリズミカルに切る祖母の回答に、私は目を丸くした。 

「か、家庭教師?」 

祖母が言うには、私の志望校に現役で合格させたいらしい。先生には粗相のないようにしてね、と言われて私は頷いた。 

生活も楽でないのに、家庭教師を雇ってくれるだなんて、感謝しないといけない。 
本当は進学自体、渋々認めてくれているので、すごくありがたい。 
実際、伸び悩みというやつなのか、いくら勉強しても、あまり成果がなくて悩んでいた。 

もうすぐ期末テストだし、わかりやすく教えてもらえるなら、これ以上に助かることはない。 

「あ、ミコト。これを、先生に持って行って頂戴」 
「は~い」 

ジュースが乗ったお盆を手に、自分の部屋に戻ろうとしたら、廊下の突き当たりにゴソゴソとした怪しい物体がいた。 
何時もは何事もないふりしてスルーするのに、私は、うっかりソレを見てしまった。 

それは双子の妹が、男とセックスしているところだった。 

「あっ、あっ、あんッ! ……セベルの、すごぉい!」 

それは目を覆いたくなる光景で、まさに無法地帯だった。 頭頂部分の寂しい、中年太りの男にズンズンと突かれて、妹は喘いでいた。 

「出してぇ! ミユの中に、出しちゃってぇ!」 

ズプンズプンと男は激しく腰を使って、妹と交わる。 

「出る! ミユちゃんの中に、出るぞぉ!」 
「ああぁぁぁぁ!」 

妹の身体が、魚のように、ビクビクと跳ね上がった。この近辺で、妹にお世話になっていない中年男性はいないんじゃないだろうか。 
何しろ、小学生の頃から淫行を重ねている、筋金入りのビッチだ。 
この間は公園でホームレスと合体しているのを目撃してしまって、飲んでた牛乳を吹き出してしまった。 
しかし、こんなところでも盛るとは。流石はビッチだ。 

なんか床に、男の精液っぽいのが落ちてるんだけど、ちゃんと掃除してよね。 

まる。 

「……って、何してるのよぉぉ!」 

この件について、何度、妹と話し合いをしても平行線のままだった。誰と寝ようと、個人の自由だというのは分かっているが、私と同じ顔の妹がアヘ顔晒して男に抱かれているのを見るのはキツい。 

それに、こんなとこでやっていたら、家庭教師にも聞こえてしまっているかもしれないじゃないか。 

それは、顔から火が噴くほど恥ずかしいことだった。 

「え? 何って、セックスに決まってるじゃん。お姉ちゃん、視力悪いの?」 

ビッチの明瞭な回答に、私は言葉を失った。 
腰振りマシーンと化していた男の肉棒に、チュッチュッとキスをするビッチに頭が痛くなってきた。 
やめろ、私に汚いものを見せるんじゃない。 

妹は幼い頃に父を失ったからかもしれないが極度の年上好きで、あちこちで男を作っては持ち帰る。
というか、どこかで見たことのある顔だと思ったら、校長先生じゃないか。 
こんなところで何してるんだ、このハゲ。

「何がいけないっていうの? こんなに気持ちいいのに、お姉ちゃん、人生損してるよぉ」 

呆気にとられていると妹は、校長に抱きついてベロチューする。おい、そこの生徒に手を出しているエセ教育者。

スケベな顔をするんじゃない。 

「今夜は寝かせないよ……」 
「あん、やだ、せんせったら」 

イケメン限定な事を口走りながら、校長は妹のスカートを捲り、腹を押し付けて性行為に励む。 

もちろん、この校長は、妻子ある身の上だ。 

今すぐ、この破廉恥野郎を家から追い出したいところだが、この国では恐るべきことに浮気は合法だ。 
祖母が家に入れたということは、公認ってことだろう。 
そりゃそうだ、誰とわからない子を産むよりも、せめて社会的地位のある男を望むに違いない。 

だから、私が出来ることと言えば、勢い良く自分の部屋の扉を閉めることぐらいなものだ。 

「お姉ちゃん、ほんっと奥手で、心配になるわぁ」 
「お姉さんの分も、君が頑張ればいいんだよ」 
「そうね、私はエッチ大好きだもん」 

聞こえてる。聞こえてるからな。 

ビッチから心配されるなんて世も末だ。 
そりゃ、この世界では貞操観念が軽くて、私の持つ価値観とは異なるというのは知っている。 
それにも、ちゃんとした原因があるから尚更だ。 
長く続いた戦争で、人間は絶滅危惧種になってしまった。 

人口が激減したから、それを取り戻そうとしているのだ。自然の摂理と言えば、そうかもしれない。例え、妊娠したとしても、国から手厚い保護があるから、国民は子作りに励む。 
むしろ、どんどん産まないと、非国民と言われて、肩身が狭くなる。そのため、出生率は異常に高く、私の友人も、半数近くが既にお腹を大きくしている。 

だから、私は進学したいのだ。 
この世界の負のループから離脱するためには、エリートになるしかない。幸いにも、この国でも合意のない性行為は犯罪だ。
たとえ級友が授業中に性行為をしていても、そっと目を伏せてればいいだけの話だ。 
この計画が失敗すれば、お見合い妊娠コースは免れない。 
だから、私は必死になって勉強をしていた。

それしか、私の生き残る道は、ない。 

「すみません、お待たせしました」 
「いや、そんなに待ってないし」 

視線が合う。 

家庭教師は、金髪金目の見目麗しい青年だった。不審者扱いをしたことを、心の中で詫びる。 
私が目指す学校に通う学生は、貴族のお坊ちゃんかお嬢さんが多い。そのため美男美女が多いと聞くが、確かに私の同級生とは違うようだ。 
こんなのが同じ教室にいたら、速攻で玉の輿狙いの痴女に襲われていると思う。 

「ここは、こうすればいいんだよ」 
「あっ、そうか……」 

そして、家庭教師と勉強をしていると祖父が入ってきた。 

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