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『鳥籠迷宮(3)』
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「つまらない。つまらないわぁ」
口寂しかったので、パリポリとトカゲに似た魔物の丸焼きを、骨ごと食べる。
近くに、古代遺跡のダンジョンが出現したせいか、私が管轄する迷宮は人気が凋落していた。 せっかく上層は、駆け出しの冒険者と遊べるような魔物を配置したのに、これでは意味がない。
「嗚呼、来たら可愛がってあげるのに」
予想外のドジをしてくれる駆け出しの冒険者は、私にとって数少ない娯楽の1つだった。何か餌でも置かないとだめかなぁと思いつつ、まるでやる気が出ないので様子見を続けている。
「やっと来たと思ったら、義妹だなんて、最悪」
水晶に映し出されたものは、自分が人間だったころに、煮え湯を飲まされた相手だった。
「そもそも、ハイエルフの姫君が、こんな迷宮に、何の用事なのよ」
そりゃぁ美人だし、スタイルは抜群だけど、肝心の性格は最低だ。顔も見たくなかった女だったので、自然としかめっ面になる。
(というか、男の趣味、変えたのかしら……)
義妹が連れている男は毛深いドワーフと、盗賊風の小汚い人間だった。
男はアクセサリーだと豪語していた義妹は、私に見せびらかすようにイケメンばかりを連れ歩いていたものだった。 だから、私は違和感を感じていた。
そして、その違和感の正体はすぐに判明することになる。
「……あら、仲間割れ?」
他人の不幸は蜜の味だ。
災厄の魔女と呼ばれる私も例外なく、その手のものは大好物なので、ワクワクしながら見守った。
だが、それは思いもしない方向に転がっていった。
「最近の若い人は……大胆ねぇ……」
僧侶の女が裸に剥かれ、義妹が連れていたドワーフと盗賊風の男に犯されていた。女は悲痛な声を上げて泣き叫んでおり、どう見ても合意の上での行為ではない。義妹はその様子を笑って眺めていた。
それを見て、私は感心していた。
流石は義妹である。
考えることがあくどい。
自分で言うのも何だけれども、この迷宮に入ったところで、得るものはそれほどないはずだ。
そのため、途中で引き返す人が多い。
人間が立ち寄ることがなく、証拠も残らない。
これ以上に、犯罪を犯すに適している場所もないだろう。
何か追求されたら、魔物に責任を転嫁すればいいのだ。魔物は言葉を喋ることが出来ないから、反論することも出来ない。
「完全犯罪の加担するのは嫌なんだけど……しかも、あのサーシャのためとか……」
苛々して、爪をかじる。
この迷宮の最深部に棲む精霊を人間から守るために、強い魔物を配置したのは自分だが、こんなことに利用されるのは癪だった。
しかし、人間嫌いで悪名を馳せている自分がサーシャの所業を訴えても、説得力がない。何しろ、災厄の魔女である。私自身がお尋ね者なので、人間たちは耳を貸さないどころか、私を討伐しに来るに違いない。
「あっ、やばい……逃げて!」
人の匂いに、気がついたのだろうか。
男たちに犯されて動けない女に、魔物が近づくのを見て、私は叫んだ。けれども、私の声は彼女には届かない。
「うっわぁ……」
私は頭を抱えた。
どうやら魔物は、女を獲物として認識したようだ。
子種を注ぎ込もうと魔物が群がり、先ほどとは比べ物にならないほど、女は激しく蹂躙されていた。
なんという負の連鎖だろう。
「不運ねぇ~…」
それは、女が意識を失っても、終わることがなかった。たまに女は意識を戻したが、感情の削がれた虚ろな目をしていた。死ぬより辛いであろう責め苦を受けている女に、数年前までは人間の女だった生き物として、流石に同情する。
あの魔物はオスしか生まれない。他の魔物を襲って子供を作る習性があるが、人間を襲うなんて初めて見た。
「今更助けに行っても手遅れだろうな~…」
見殺しにするのは不本意だが、私の居る最深部から、その場所まで行くには、少なくとも1日以上かかる。
「あぁ~……、もう!」
なんて厄日だろう。
仕事を放りだして行ってみたが、やっぱり手遅れだった。女は、魔物に揺さぶられる肉塊と化していた。
いくら魔力があるとはいえ、人間が魔物の子を孕むにはやはり無理があるのだ。
「ですよねー……やっぱり無駄足だったかぁ……」
魔物を追い払ってみたが、女は息をしていなかった。奇跡を願っていたけれども、どうやら死んでしまったようだ。
「可哀想に……」
湧き水で遺体を清めて近くで見てみると、驚くほど美しい少女だった。きっと、この美しさにサーシャは妬んだんだな、と思った。
助けられなかったのは残念だけど、これも縁だ。後でちゃんと埋葬してあげようと思って、私は遺体を持ち帰ることにした。残念ながら、私は攻撃魔法しか使えない。私より背の大きい遺体を抱えて、魔物に遭遇したら蹴っ飛ばして追い払い、なんとか仮住まいまで戻った。
「災厄の魔女様、大変です!」
「今度は何なの!?」
しかし、戻った直後にトラブルが発生した。 保護していた精霊が暴走したのだ。もしかすると、魔物の異変も、それが原因だったのかもしれない。事後処理に追われて、遺体の事を忘れて数ヶ月がたった。久しぶりに上層に通じるドアを開けたところ、全裸の遺体が崩れ落ちてきて、心臓が止まりそうになった。
「ごめん……。すっかり忘れてたわ……」
不思議なことに、その肉体は、ちっとも腐ってなかった。それはつまり、完全には死んでいないことを意味していた。
だが、このままでは、生きる屍に他ならない。
女が、男たちに犯されていた時の事を思い出して気分が悪くなる。自分の手は汚さずに、高みの見物をするサーシャの笑顔は、見ていられなくなるほど、醜悪なものだった。
口寂しかったので、パリポリとトカゲに似た魔物の丸焼きを、骨ごと食べる。
近くに、古代遺跡のダンジョンが出現したせいか、私が管轄する迷宮は人気が凋落していた。 せっかく上層は、駆け出しの冒険者と遊べるような魔物を配置したのに、これでは意味がない。
「嗚呼、来たら可愛がってあげるのに」
予想外のドジをしてくれる駆け出しの冒険者は、私にとって数少ない娯楽の1つだった。何か餌でも置かないとだめかなぁと思いつつ、まるでやる気が出ないので様子見を続けている。
「やっと来たと思ったら、義妹だなんて、最悪」
水晶に映し出されたものは、自分が人間だったころに、煮え湯を飲まされた相手だった。
「そもそも、ハイエルフの姫君が、こんな迷宮に、何の用事なのよ」
そりゃぁ美人だし、スタイルは抜群だけど、肝心の性格は最低だ。顔も見たくなかった女だったので、自然としかめっ面になる。
(というか、男の趣味、変えたのかしら……)
義妹が連れている男は毛深いドワーフと、盗賊風の小汚い人間だった。
男はアクセサリーだと豪語していた義妹は、私に見せびらかすようにイケメンばかりを連れ歩いていたものだった。 だから、私は違和感を感じていた。
そして、その違和感の正体はすぐに判明することになる。
「……あら、仲間割れ?」
他人の不幸は蜜の味だ。
災厄の魔女と呼ばれる私も例外なく、その手のものは大好物なので、ワクワクしながら見守った。
だが、それは思いもしない方向に転がっていった。
「最近の若い人は……大胆ねぇ……」
僧侶の女が裸に剥かれ、義妹が連れていたドワーフと盗賊風の男に犯されていた。女は悲痛な声を上げて泣き叫んでおり、どう見ても合意の上での行為ではない。義妹はその様子を笑って眺めていた。
それを見て、私は感心していた。
流石は義妹である。
考えることがあくどい。
自分で言うのも何だけれども、この迷宮に入ったところで、得るものはそれほどないはずだ。
そのため、途中で引き返す人が多い。
人間が立ち寄ることがなく、証拠も残らない。
これ以上に、犯罪を犯すに適している場所もないだろう。
何か追求されたら、魔物に責任を転嫁すればいいのだ。魔物は言葉を喋ることが出来ないから、反論することも出来ない。
「完全犯罪の加担するのは嫌なんだけど……しかも、あのサーシャのためとか……」
苛々して、爪をかじる。
この迷宮の最深部に棲む精霊を人間から守るために、強い魔物を配置したのは自分だが、こんなことに利用されるのは癪だった。
しかし、人間嫌いで悪名を馳せている自分がサーシャの所業を訴えても、説得力がない。何しろ、災厄の魔女である。私自身がお尋ね者なので、人間たちは耳を貸さないどころか、私を討伐しに来るに違いない。
「あっ、やばい……逃げて!」
人の匂いに、気がついたのだろうか。
男たちに犯されて動けない女に、魔物が近づくのを見て、私は叫んだ。けれども、私の声は彼女には届かない。
「うっわぁ……」
私は頭を抱えた。
どうやら魔物は、女を獲物として認識したようだ。
子種を注ぎ込もうと魔物が群がり、先ほどとは比べ物にならないほど、女は激しく蹂躙されていた。
なんという負の連鎖だろう。
「不運ねぇ~…」
それは、女が意識を失っても、終わることがなかった。たまに女は意識を戻したが、感情の削がれた虚ろな目をしていた。死ぬより辛いであろう責め苦を受けている女に、数年前までは人間の女だった生き物として、流石に同情する。
あの魔物はオスしか生まれない。他の魔物を襲って子供を作る習性があるが、人間を襲うなんて初めて見た。
「今更助けに行っても手遅れだろうな~…」
見殺しにするのは不本意だが、私の居る最深部から、その場所まで行くには、少なくとも1日以上かかる。
「あぁ~……、もう!」
なんて厄日だろう。
仕事を放りだして行ってみたが、やっぱり手遅れだった。女は、魔物に揺さぶられる肉塊と化していた。
いくら魔力があるとはいえ、人間が魔物の子を孕むにはやはり無理があるのだ。
「ですよねー……やっぱり無駄足だったかぁ……」
魔物を追い払ってみたが、女は息をしていなかった。奇跡を願っていたけれども、どうやら死んでしまったようだ。
「可哀想に……」
湧き水で遺体を清めて近くで見てみると、驚くほど美しい少女だった。きっと、この美しさにサーシャは妬んだんだな、と思った。
助けられなかったのは残念だけど、これも縁だ。後でちゃんと埋葬してあげようと思って、私は遺体を持ち帰ることにした。残念ながら、私は攻撃魔法しか使えない。私より背の大きい遺体を抱えて、魔物に遭遇したら蹴っ飛ばして追い払い、なんとか仮住まいまで戻った。
「災厄の魔女様、大変です!」
「今度は何なの!?」
しかし、戻った直後にトラブルが発生した。 保護していた精霊が暴走したのだ。もしかすると、魔物の異変も、それが原因だったのかもしれない。事後処理に追われて、遺体の事を忘れて数ヶ月がたった。久しぶりに上層に通じるドアを開けたところ、全裸の遺体が崩れ落ちてきて、心臓が止まりそうになった。
「ごめん……。すっかり忘れてたわ……」
不思議なことに、その肉体は、ちっとも腐ってなかった。それはつまり、完全には死んでいないことを意味していた。
だが、このままでは、生きる屍に他ならない。
女が、男たちに犯されていた時の事を思い出して気分が悪くなる。自分の手は汚さずに、高みの見物をするサーシャの笑顔は、見ていられなくなるほど、醜悪なものだった。
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