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魔剣 ※C視点

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数分後、見事に頬が腫れたエルが足取り重く、店に戻ってきた。

「……で、何の用なんだ? この間、ベット直したとこだろ? もう壊れたのか?」

武器職人のエルだが、本職以外の物作りにも興味があって、片手間に色々な物を作っては、父上やアルファベットの要望に応えている。遊びの範疇を超えることはないが、手を抜くこともない。最近はベット作りに嵌っているらしい。私の部屋にあるベットも、元々は獣人国の質の良い木材をエル自ら切り出して作った、最高品質の物だった。ただ、木材なだけあって、色々な補修はしていたけれど耐久性は低く、壊れやすかった。鉄や鋼を使ったベットに変更したがそれもだめで、ついにはミスリルを混ぜて使うようになったらしい。

「ベットは壊れていません。今日は私の用事ではなく、ルナの武器を新調しようかと思いまして、相談を兼ねて下見しに来ました。だいぶレベルも上がりましたし、何時までもAエイのお下がりではねぇ」
Aエイのお下がりって遺跡の出土品だろ? かなり良い物なんじゃないか?」
「武器の性能が良すぎて困るんですよ。武器に頼っていては強くなれません。……それと、そろそろ狩場を変えようかと思っていましてね。ルガの森に行こうと思っています」
「ルガか。大きいネズミがうようよいるとこだな」
「出来れば小さいネズミから狩りたいところですけどねぇ」

今年、昨年と森の恵みが豊作だったとみえ、ぶくぶく太ったネズミが目撃されている。動きは遅く狩りやすいが、その分パワーが段違いだ。突進でもされたら小さな体のルナでは先ほどのエルみたいに吹き飛ばされてしまうかもしれない。

「何がいいでしょうか。ルナはあまり力が無くって……大きめの魚を捌くことすら厳しいんですよ」
「……俺の店、ほとんどゴブリンにしか売ってねぇから、いいやつだと大剣か長剣しか置いてねぇんだよなあ。こん棒とか斧なら、割とあるけど……」

店の品揃えを見ると、ゴブリン相手の商売だからか、偏りが大きい。小柄なルナが使えそうな武器はなさそうだ。

「ねぇ、ルナだったら、護身用に魔剣の帯刀も許されるんじゃないの?」

私とエルの会話を聞いていたアイリーンが、話に加わってきた。

「……魔剣ですか。まだ彼女には早い気もしますが」
「ほら、そこのシュバルツなんてオススメよ」
「ぼ、ぼくですかぁ!? 出来たらルナ様でなく……シア様のお傍に置かせてもらえたら嬉しいんですが……」
「大胆な告白ねぇ。でも主を選ぶのは貴方じゃなくてよ」
「私は魔剣は……」

話が思わぬ方向に逸れ始めて、困惑する。魔剣の帯刀の件については、父上にも口を酸っぱくして言われていることだ。

「アルファベットは魔剣を帯刀する事になっているでしょう?」
「……魔剣が素晴らしく強いというのは分かっているんですけど、強い魔剣は全部喋るじゃないですか……どうしても物扱い出来ないんですよ。喋らない魔剣ってないんですか?」
「……ないわね。喋らない魔剣は魔剣とは呼べないわ。自我意識すら目覚めていないということだもの」
ワイも目覚まし時計みたいだって返してきたんでしょう?」
「相性が良ければ、その辺りも気にならなくなると思うんだけどねぇ……まぁ、Aエイが貴方の剣みたいなものなのかしら?」

確かに24時間付き纏って他者を威嚇するのだから、剣に近いものがあるかもしれない。剣というよりは鎖に近い気がするが。

「あ、そうそう。奇病の話は聞いてる?」
「奇病?」
「――まだミゲルにも報告していない話なんだけどね。直前まで元気だったゴブリンが突然倒れて、意識が回復しないのよ。ピオラで、ここ1か月の間に10件ぐらい発生しているわ。シアもゴブリンなんだから、気を付ける事ね」
「ピオラ。確か大陸の真ん中にある国ですよね。……エルサドでは発生していませんが、ゴブリンだけに罹る疫病ですか……? 聞いたことがありませんね。ゴブリンは人間に比べると、病気に対する抵抗もかなり高いのに、なぜ我々だけが」
「ピオラの隣国に像を破壊しに行ったんだけど、奇病の噂話が聞こえてきてね。気になって、ついでに見に行ったのよ。わらわの本体は剣だし、奇病にはかからないもの」
「まだ像を破壊して回っているのですが……執念深いですねぇ」
「それだけの事を、わらわにしたもの。当然の報いだわ」

アイリーンはむくれながら、魔剣シュバイツが運んできたお茶を飲みほし、「これお土産よ。食べる? 見た目はあれだけど意外に美味しいわよ」と言って、焼き菓子を頬張った。



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