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結婚式 ※獣人視点
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「ルナと言ったな。……今後、お前は俺の伴侶となる。」
「伴侶?」
「獣人でいうところの番だな」
「番だか。……え? おらの番になってくれるだ? おら、あまり出自は良くねぇだよ? 見ての通り、チビだし使えないスキルばっかり持ってるから、冒険者にもなれなかっただよ。力が無いから野良仕事も無理だし、でも家は貧乏だから、お金を稼がないと、路頭に迷ってしまうだ。だから、娼婦になって身を売るしかなかっただ……」
「ある程度の説明はエリーから受けた。娼婦の伴侶は、我々ゴブリンにとって普通のことだ。過去のお前のことを詮索する気はない。誰しも完璧な者など居ないだろう。俺は、最初から伴侶にするつもりでルナを抱いた。今のお前が欲しいから、俺は伴侶にするのだしな。……エリーが世話を買って出ているみたいだから、こちらでの生活に慣れるまで、しばらくはエリーと同室でいいか? 他に欲しいものがあれば、用意させる」
「欲しいものだべか……そんな事、考えたこともなかったべ」
親の代わりに子守りをしないといけない妹や弟が多く、何時も自分の事は後回しだった。色々と欲しいものはあったはずなのに、いざ欲しいものはないかと問われると、すぐには思い浮かばなかった。
「なんでもいいぞ」
「……そうだなぁ……出来たら、勉強がしたいだ。おらの村にはお医者様がいなくて、毎年何人も助かるはずの病で死人が出てるんだ。おら、素養はあるらしいんだけど、勉強するにはお金がいるって……だから、おら、みんなのために回復魔法を覚えたいだ。それが夢なんだべ」
「賢者がいるから、素養があるなら師事すればいいだろう。あとは?」
「……それと、結婚式、してみたかっただなあ……」
近所の裕福な獣人が結婚式を挙げているのを、兄弟とこっそり見に行った日から、ずっと憧れていた。あんな綺麗な婚礼衣装を、大きくなったら纏って、おっとぅみたいな素敵な旦那様と結婚式をしたいと夢見ていたが、自分の人生でその機会はなさそうだ。
「結婚式か。するか?」
「い、いや、めっそうもねぇだ! こげな強そうなゴブリンなんか連れて行ったら、おっかぁも、おっとぅも卒倒してしまうだ!!」
とてもではないが、父どころか母や兄弟、そして親族にも逢わせられない。ゴブリンを番にしたなんて知られたら、侮蔑の視線を浴びるかもしれない。自分だけならいいが、まだ幼い妹や弟に後ろ指を指されるような、そんな思いを味合わせたくない。
それに、間違えると村八分で家族が追い出されるかもしれない。あの村は結束力が強いだけに、ゴブリンへの偏見が強い。
「俺がゴブリンじゃなきゃ良いんだろう? 息子の中で、変化の術に長けてるやつがいてな。そいつに協力してもらえれば、人間に変化出来るぞ。で、それ以外には、何か欲しいものあるか? ……ないのか? じゃぁ決まりだな。お前は俺の伴侶だ。もう腹いっぱいになっただろ、そろそろ俺の相手をしてくれ。まだ抱き足りないし」
「まだ、するべか……!? ……ふぁ!?」
ミゲルに押し倒され、愛撫も無しに奥まで挿入され、その日は終始、ミゲルに抱かれる事となった。
後日、あれよあれよという間に結婚式となったのだが、人間に変化したミゲルを見て、おらは叫んだ。
「だ、誰だべ……!?」
「俺だよ、ミゲルだ。人間に変化したんだけど……。 ……変か?」
そこに居たのは、金髪碧眼の美形の男だった。
「ちょっと、どこでこんな男見つけてきたんだい」って近所の人に聞かれた。こんないい男、村どころか、見たことすらない。
「ミゲル、ちょっとやりすぎだべ……なんで金髪碧眼なんだ?」
人間は獣人にとって持ちつ持たれつの関係ではあるが、金髪碧眼の人間は獣人にとって特別だ。なぜなら獣人の王族は金髪碧眼だからだ。そのため、金髪碧眼の人間に対しても敬意を払うことが多い。ゴブリンから人間に変化すると聞き、ゴブリンだから髪の毛とかも緑色なのかなと思っていたけど、予想とは全然違った。
「仕方がないだろう、これが俺の人間の姿なんだから。……せめて、髪染めたほうが良かったかな?」
「もう手遅れだ」
騒ぎにするつもりはなかった。普通の人間で良かったのに、まるで白馬の王子様のようなミゲルの出で立ちに、村の女という女が目を輝かせてミゲルを見ていた。女たちの記憶を改竄するのでない限り、今更髪の色を変えても、後の祭りだろう。
そして、用意された婚礼衣装に度肝を抜かれた。どこぞの国の姫様が着るような、目も覚めるような美しい純白のドレスだったからだ。
「こんなの、おらが着ていいだべか……!」
「むしろ着てくれ。ルナのために、特別にオーダーしたドレスだ。世界に1着しかないぞ」
ミゲルに聞くと、ウェディングドレスという婚礼衣装らしい。異世界から取り寄せたのだという。
「これを取り寄せたら、他の女も結婚式やりたいって言いだしたけどな」
「そらそうだべ……」
「まさか合同で行うわけにもいかんしな。後で1人ずつやる予定だ」
「……おらも結婚式、見たいだなぁ」
ミゲルの女は、どの女も美しく、さぞや見ごたえがあるだろうと思う。特にエリーには良くしてもらっているから、エリーの結婚式はぜひ参加したい。
「まぁ、ラストヘルムでやるなら、俺は人間の姿ではなくゴブリンだけどな」
「なぜだ?」
「俺が人間の姿になったら、笑い者になるだろ。しかもこんな筋肉もない男女に」
「おらは、人間のミゲルも、ゴブリンのミゲルも好きだべ?」
「……そうか。なんかお前みたいに真っすぐなやつ、今までに居なかったから、ちょっと気恥しいな」
結婚式が終わり、友人と別れの挨拶をする時になって、「ルナ。あの人間の、どこが好きなの?」と聞かれたけど、咄嗟にミゲルと抱き合った時のことを思い出し、エメラルドグリーンの瞳が綺麗だと思っただなんて、口が裂けても言えなかった。
「伴侶?」
「獣人でいうところの番だな」
「番だか。……え? おらの番になってくれるだ? おら、あまり出自は良くねぇだよ? 見ての通り、チビだし使えないスキルばっかり持ってるから、冒険者にもなれなかっただよ。力が無いから野良仕事も無理だし、でも家は貧乏だから、お金を稼がないと、路頭に迷ってしまうだ。だから、娼婦になって身を売るしかなかっただ……」
「ある程度の説明はエリーから受けた。娼婦の伴侶は、我々ゴブリンにとって普通のことだ。過去のお前のことを詮索する気はない。誰しも完璧な者など居ないだろう。俺は、最初から伴侶にするつもりでルナを抱いた。今のお前が欲しいから、俺は伴侶にするのだしな。……エリーが世話を買って出ているみたいだから、こちらでの生活に慣れるまで、しばらくはエリーと同室でいいか? 他に欲しいものがあれば、用意させる」
「欲しいものだべか……そんな事、考えたこともなかったべ」
親の代わりに子守りをしないといけない妹や弟が多く、何時も自分の事は後回しだった。色々と欲しいものはあったはずなのに、いざ欲しいものはないかと問われると、すぐには思い浮かばなかった。
「なんでもいいぞ」
「……そうだなぁ……出来たら、勉強がしたいだ。おらの村にはお医者様がいなくて、毎年何人も助かるはずの病で死人が出てるんだ。おら、素養はあるらしいんだけど、勉強するにはお金がいるって……だから、おら、みんなのために回復魔法を覚えたいだ。それが夢なんだべ」
「賢者がいるから、素養があるなら師事すればいいだろう。あとは?」
「……それと、結婚式、してみたかっただなあ……」
近所の裕福な獣人が結婚式を挙げているのを、兄弟とこっそり見に行った日から、ずっと憧れていた。あんな綺麗な婚礼衣装を、大きくなったら纏って、おっとぅみたいな素敵な旦那様と結婚式をしたいと夢見ていたが、自分の人生でその機会はなさそうだ。
「結婚式か。するか?」
「い、いや、めっそうもねぇだ! こげな強そうなゴブリンなんか連れて行ったら、おっかぁも、おっとぅも卒倒してしまうだ!!」
とてもではないが、父どころか母や兄弟、そして親族にも逢わせられない。ゴブリンを番にしたなんて知られたら、侮蔑の視線を浴びるかもしれない。自分だけならいいが、まだ幼い妹や弟に後ろ指を指されるような、そんな思いを味合わせたくない。
それに、間違えると村八分で家族が追い出されるかもしれない。あの村は結束力が強いだけに、ゴブリンへの偏見が強い。
「俺がゴブリンじゃなきゃ良いんだろう? 息子の中で、変化の術に長けてるやつがいてな。そいつに協力してもらえれば、人間に変化出来るぞ。で、それ以外には、何か欲しいものあるか? ……ないのか? じゃぁ決まりだな。お前は俺の伴侶だ。もう腹いっぱいになっただろ、そろそろ俺の相手をしてくれ。まだ抱き足りないし」
「まだ、するべか……!? ……ふぁ!?」
ミゲルに押し倒され、愛撫も無しに奥まで挿入され、その日は終始、ミゲルに抱かれる事となった。
後日、あれよあれよという間に結婚式となったのだが、人間に変化したミゲルを見て、おらは叫んだ。
「だ、誰だべ……!?」
「俺だよ、ミゲルだ。人間に変化したんだけど……。 ……変か?」
そこに居たのは、金髪碧眼の美形の男だった。
「ちょっと、どこでこんな男見つけてきたんだい」って近所の人に聞かれた。こんないい男、村どころか、見たことすらない。
「ミゲル、ちょっとやりすぎだべ……なんで金髪碧眼なんだ?」
人間は獣人にとって持ちつ持たれつの関係ではあるが、金髪碧眼の人間は獣人にとって特別だ。なぜなら獣人の王族は金髪碧眼だからだ。そのため、金髪碧眼の人間に対しても敬意を払うことが多い。ゴブリンから人間に変化すると聞き、ゴブリンだから髪の毛とかも緑色なのかなと思っていたけど、予想とは全然違った。
「仕方がないだろう、これが俺の人間の姿なんだから。……せめて、髪染めたほうが良かったかな?」
「もう手遅れだ」
騒ぎにするつもりはなかった。普通の人間で良かったのに、まるで白馬の王子様のようなミゲルの出で立ちに、村の女という女が目を輝かせてミゲルを見ていた。女たちの記憶を改竄するのでない限り、今更髪の色を変えても、後の祭りだろう。
そして、用意された婚礼衣装に度肝を抜かれた。どこぞの国の姫様が着るような、目も覚めるような美しい純白のドレスだったからだ。
「こんなの、おらが着ていいだべか……!」
「むしろ着てくれ。ルナのために、特別にオーダーしたドレスだ。世界に1着しかないぞ」
ミゲルに聞くと、ウェディングドレスという婚礼衣装らしい。異世界から取り寄せたのだという。
「これを取り寄せたら、他の女も結婚式やりたいって言いだしたけどな」
「そらそうだべ……」
「まさか合同で行うわけにもいかんしな。後で1人ずつやる予定だ」
「……おらも結婚式、見たいだなぁ」
ミゲルの女は、どの女も美しく、さぞや見ごたえがあるだろうと思う。特にエリーには良くしてもらっているから、エリーの結婚式はぜひ参加したい。
「まぁ、ラストヘルムでやるなら、俺は人間の姿ではなくゴブリンだけどな」
「なぜだ?」
「俺が人間の姿になったら、笑い者になるだろ。しかもこんな筋肉もない男女に」
「おらは、人間のミゲルも、ゴブリンのミゲルも好きだべ?」
「……そうか。なんかお前みたいに真っすぐなやつ、今までに居なかったから、ちょっと気恥しいな」
結婚式が終わり、友人と別れの挨拶をする時になって、「ルナ。あの人間の、どこが好きなの?」と聞かれたけど、咄嗟にミゲルと抱き合った時のことを思い出し、エメラルドグリーンの瞳が綺麗だと思っただなんて、口が裂けても言えなかった。
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