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再生 ※エリー視点
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CはAの伴侶となり、私の部屋に訪れない日が増えた。
たまに逢う時もAの目を逃れるように、お茶会の名目で、ルシーの部屋で顔を合わせることになった。メンバーはその時々によって変わり、ルシーや美里、そしてアルファベットの女を招いては、お茶を飲んでお喋りをしたが、特にルシーが居る時は仕事の延長線上のような感じで、気詰まりだった。
嫉妬深いAへの警戒心ゆえの事であるとは分かっていても、以前のようには逢えないのだと、悲しく思えた。
お茶会に呼ばれず、このまま逢えなくなってしまうのではないかと、焦燥に駆られる日も増えた。AがCに見せる熱量の高さを考えると、私のCへの気持ちは友人止まりであり、伴侶になることを断る決断は正しかったと、今でも思っているが、あの時、Cの伴侶になって欲しいとの申し出を、よく考えもせず断った事を、後悔するようになっていった。
もし、伴侶になって居たら、Cは今も私の傍に居たのだろうか。
とても真面目で誠実なCの事だから、きっと必死になって私のことを守ってくれていただろうと思う。もしAが危害を加えようとしても、私がルシーのように強くなり、彼に認められるだけの働きをすれば別なのではないのか、と迂闊にも、そんな事を考えてしまって、ぽっかりと心に穴があいてしまったかのように寂しく、落ち込んでしまうのだった。
もっともっと、Cの傍に居たい。
そして、その笑顔を見ていたい。
欲ばかりが膨らんで、苦しくなった。
(人は、変わるものね)
Cに、こんなにも心動かされてしまうだなんて、思いもしなかった。
「私は、私で、Cのために出来ることをしよう」
呟くことで、その気持ちが嘘偽りないことが分かった。
ゴブリンを殺したいほど憎む負の気持ちはまだ残っている。けれど、Cに慈しまれたことで、その気持ちも上書きされていった。
Cがエルサドに引っ越すという話になり、私もCに付いて行きたかったが、私の仕事を引き継げるような女も居なかったため、ラストヘルムに残ることになった。「Cも居なくなるのに、貴方も居なくなるなんて……」と言う何時になくしおらしいルシーの様子が心配だったのも大きい。
Cがラストヘルムから居なくなってから、ボスが再び私の部屋に訪れるようになった。以前のように頻繁に抱いてくるようになったのは腹立たしいが、ボスから色々な情報を得る事が出来るし、なんだかんだ言ってボスの女という立場は強いカードなので、死ぬほど嫌だしボスのあそこをちょん切りたいけど、割り切ることにした。
そして、運命の出会いが訪れた。
「私が、この子を育てるの?」
「ええ、こんなこと、エリーにしか頼めません。私が育てたかったんですが、そうも言ってられなくなってきたんですよ……私の見てないところで、アグリエルを食べようとするんですよ。こんなに可愛いのに」
「ハーフゴブリンがどんな味するのか食べてみてぇんだよ。あんなスキル持ってるんだから、腕食べても生えるかもしれねぇだろ」
「生えなかったらどうするんですか!? まだ進化もしてないんですよ!?」
「それで死んだって別にいいだろ。俺からシアを盗ってるんだから。これでも食い殺すのを我慢してんだからな?」
「……この通り、悪びれもしませんしね。どうやらアグリエルが近くにいると目に毒みたいなんです。このままだとアグリエルがAに殺されかねないので……」
アグリエルと名付けられたそのゴブリンは、人間の子供と変わらないように見えた。
だが、鑑定するとハーフゴブリンと表示される。
そして私は驚愕する。
「……スキル再生? エルナンド? エルナンドなの……?」
それはエルナンドの固有スキルだった。
人間がゴブリンになる事があるという話はCから聞いていた。
だが、こうやって実際に目の辺りにしてして、その言葉の信憑性が高まった。
「エルナンド……? 確か、エリーの……。A、私がアグリエルを妊娠する前に、暗闇の洞窟で人間の魂食べました?」
「覚えてねーよ、そんな昔の話。親父じゃあるまいし、俺の魂食いには、そんな効果ねぇよ。どちらかというと俺のスキルというより、こいつのスキルの影響なんじゃねーの?」
「再生ですか……確かにあり得る話ですね」
Aがエルナンドの魂を食べることで、エルナンドのスキル、再生が効果を出し、ゴブリンとして再生した……ということなのかもしれない。
「……私、育てます」
小さな手。鑑定で見ると、まだ1歳ぐらいらしい。けれど、ハーフゴブリンだからか、成長が早いのだろう。5歳ぐらいに見えた。
やんちゃそうな顔立ちをしているのに、Cの愛情を受けて育ったせいか、礼儀正しい子供だった。
エルナンドとしての記憶は喪失していたが、それは私にとっては好都合だった。だって、あんな記憶は私1人が持っていれば十分だから。
「エリー。私のアグリエルを、お願いしますね」
あの時は何も出来なかった。
「はい。お任せ下さい、C」
今度は、私が守ろう。命を懸けて。
そう、心に誓った。
たまに逢う時もAの目を逃れるように、お茶会の名目で、ルシーの部屋で顔を合わせることになった。メンバーはその時々によって変わり、ルシーや美里、そしてアルファベットの女を招いては、お茶を飲んでお喋りをしたが、特にルシーが居る時は仕事の延長線上のような感じで、気詰まりだった。
嫉妬深いAへの警戒心ゆえの事であるとは分かっていても、以前のようには逢えないのだと、悲しく思えた。
お茶会に呼ばれず、このまま逢えなくなってしまうのではないかと、焦燥に駆られる日も増えた。AがCに見せる熱量の高さを考えると、私のCへの気持ちは友人止まりであり、伴侶になることを断る決断は正しかったと、今でも思っているが、あの時、Cの伴侶になって欲しいとの申し出を、よく考えもせず断った事を、後悔するようになっていった。
もし、伴侶になって居たら、Cは今も私の傍に居たのだろうか。
とても真面目で誠実なCの事だから、きっと必死になって私のことを守ってくれていただろうと思う。もしAが危害を加えようとしても、私がルシーのように強くなり、彼に認められるだけの働きをすれば別なのではないのか、と迂闊にも、そんな事を考えてしまって、ぽっかりと心に穴があいてしまったかのように寂しく、落ち込んでしまうのだった。
もっともっと、Cの傍に居たい。
そして、その笑顔を見ていたい。
欲ばかりが膨らんで、苦しくなった。
(人は、変わるものね)
Cに、こんなにも心動かされてしまうだなんて、思いもしなかった。
「私は、私で、Cのために出来ることをしよう」
呟くことで、その気持ちが嘘偽りないことが分かった。
ゴブリンを殺したいほど憎む負の気持ちはまだ残っている。けれど、Cに慈しまれたことで、その気持ちも上書きされていった。
Cがエルサドに引っ越すという話になり、私もCに付いて行きたかったが、私の仕事を引き継げるような女も居なかったため、ラストヘルムに残ることになった。「Cも居なくなるのに、貴方も居なくなるなんて……」と言う何時になくしおらしいルシーの様子が心配だったのも大きい。
Cがラストヘルムから居なくなってから、ボスが再び私の部屋に訪れるようになった。以前のように頻繁に抱いてくるようになったのは腹立たしいが、ボスから色々な情報を得る事が出来るし、なんだかんだ言ってボスの女という立場は強いカードなので、死ぬほど嫌だしボスのあそこをちょん切りたいけど、割り切ることにした。
そして、運命の出会いが訪れた。
「私が、この子を育てるの?」
「ええ、こんなこと、エリーにしか頼めません。私が育てたかったんですが、そうも言ってられなくなってきたんですよ……私の見てないところで、アグリエルを食べようとするんですよ。こんなに可愛いのに」
「ハーフゴブリンがどんな味するのか食べてみてぇんだよ。あんなスキル持ってるんだから、腕食べても生えるかもしれねぇだろ」
「生えなかったらどうするんですか!? まだ進化もしてないんですよ!?」
「それで死んだって別にいいだろ。俺からシアを盗ってるんだから。これでも食い殺すのを我慢してんだからな?」
「……この通り、悪びれもしませんしね。どうやらアグリエルが近くにいると目に毒みたいなんです。このままだとアグリエルがAに殺されかねないので……」
アグリエルと名付けられたそのゴブリンは、人間の子供と変わらないように見えた。
だが、鑑定するとハーフゴブリンと表示される。
そして私は驚愕する。
「……スキル再生? エルナンド? エルナンドなの……?」
それはエルナンドの固有スキルだった。
人間がゴブリンになる事があるという話はCから聞いていた。
だが、こうやって実際に目の辺りにしてして、その言葉の信憑性が高まった。
「エルナンド……? 確か、エリーの……。A、私がアグリエルを妊娠する前に、暗闇の洞窟で人間の魂食べました?」
「覚えてねーよ、そんな昔の話。親父じゃあるまいし、俺の魂食いには、そんな効果ねぇよ。どちらかというと俺のスキルというより、こいつのスキルの影響なんじゃねーの?」
「再生ですか……確かにあり得る話ですね」
Aがエルナンドの魂を食べることで、エルナンドのスキル、再生が効果を出し、ゴブリンとして再生した……ということなのかもしれない。
「……私、育てます」
小さな手。鑑定で見ると、まだ1歳ぐらいらしい。けれど、ハーフゴブリンだからか、成長が早いのだろう。5歳ぐらいに見えた。
やんちゃそうな顔立ちをしているのに、Cの愛情を受けて育ったせいか、礼儀正しい子供だった。
エルナンドとしての記憶は喪失していたが、それは私にとっては好都合だった。だって、あんな記憶は私1人が持っていれば十分だから。
「エリー。私のアグリエルを、お願いしますね」
あの時は何も出来なかった。
「はい。お任せ下さい、C」
今度は、私が守ろう。命を懸けて。
そう、心に誓った。
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