上 下
56 / 112

再生 ※エリー視点

しおりを挟む
CシーAエイの伴侶となり、私の部屋に訪れない日が増えた。

たまに逢う時もAエイの目を逃れるように、お茶会の名目で、ルシーの部屋で顔を合わせることになった。メンバーはその時々によって変わり、ルシーや美里みさと、そしてアルファベットの女を招いては、お茶を飲んでお喋りをしたが、特にルシーが居る時は仕事の延長線上のような感じで、気詰まりだった。
嫉妬深いAエイへの警戒心ゆえの事であるとは分かっていても、以前のようには逢えないのだと、悲しく思えた。

お茶会に呼ばれず、このまま逢えなくなってしまうのではないかと、焦燥に駆られる日も増えた。AエイCシーに見せる熱量の高さを考えると、私のCシーへの気持ちは友人止まりであり、伴侶になることを断る決断は正しかったと、今でも思っているが、あの時、Cシーの伴侶になって欲しいとの申し出を、よく考えもせず断った事を、後悔するようになっていった。

もし、伴侶になって居たら、Cシーは今も私の傍に居たのだろうか。

とても真面目で誠実なCシーの事だから、きっと必死になって私のことを守ってくれていただろうと思う。もしAエイが危害を加えようとしても、私がルシーのように強くなり、彼に認められるだけの働きをすれば別なのではないのか、と迂闊にも、そんな事を考えてしまって、ぽっかりと心に穴があいてしまったかのように寂しく、落ち込んでしまうのだった。

もっともっと、Cシーの傍に居たい。

そして、その笑顔を見ていたい。

欲ばかりが膨らんで、苦しくなった。

(人は、変わるものね)

Cシーに、こんなにも心動かされてしまうだなんて、思いもしなかった。

「私は、私で、Cシーのために出来ることをしよう」

呟くことで、その気持ちが嘘偽りないことが分かった。

ゴブリンを殺したいほど憎む負の気持ちはまだ残っている。けれど、Cシーに慈しまれたことで、その気持ちも上書きされていった。

Cシーがエルサドに引っ越すという話になり、私もCシーに付いて行きたかったが、私の仕事を引き継げるような女も居なかったため、ラストヘルムに残ることになった。「Cシーも居なくなるのに、貴方も居なくなるなんて……」と言う何時になくしおらしいルシーの様子が心配だったのも大きい。
Cシーがラストヘルムから居なくなってから、ボスが再び私の部屋に訪れるようになった。以前のように頻繁に抱いてくるようになったのは腹立たしいが、ボスから色々な情報を得る事が出来るし、なんだかんだ言ってボスの女という立場は強いカードなので、死ぬほど嫌だしボスのあそこをちょん切りたいけど、割り切ることにした。

そして、運命の出会いが訪れた。

「私が、この子を育てるの?」
「ええ、こんなこと、エリーにしか頼めません。私が育てたかったんですが、そうも言ってられなくなってきたんですよ……私の見てないところで、アグリエルを食べようとするんですよ。こんなに可愛いのに」
「ハーフゴブリンがどんな味するのか食べてみてぇんだよ。あんなスキル持ってるんだから、腕食べても生えるかもしれねぇだろ」
「生えなかったらどうするんですか!? まだ進化もしてないんですよ!?」
「それで死んだって別にいいだろ。俺からシアを盗ってるんだから。これでも食い殺すのを我慢してんだからな?」
「……この通り、悪びれもしませんしね。どうやらアグリエルが近くにいると目に毒みたいなんです。このままだとアグリエルがAエイに殺されかねないので……」

アグリエルと名付けられたそのゴブリンは、人間の子供と変わらないように見えた。
だが、鑑定するとハーフゴブリンと表示される。
そして私は驚愕する。

「……スキル再生? エルナンド? エルナンドなの……?」

それはエルナンドの固有スキルだった。

人間がゴブリンになる事があるという話はCシーから聞いていた。
だが、こうやって実際に目の辺りにしてして、その言葉の信憑性が高まった。

「エルナンド……? 確か、エリーの……。Aエイ、私がアグリエルを妊娠する前に、暗闇の洞窟で人間の魂食べました?」
「覚えてねーよ、そんな昔の話。親父じゃあるまいし、俺の魂食いには、そんな効果ねぇよ。どちらかというと俺のスキルというより、こいつのスキルの影響なんじゃねーの?」
「再生ですか……確かにあり得る話ですね」

Aエイがエルナンドの魂を食べることで、エルナンドのスキル、再生が効果を出し、ゴブリンとして再生した……ということなのかもしれない。

「……私、育てます」

小さな手。鑑定で見ると、まだ1歳ぐらいらしい。けれど、ハーフゴブリンだからか、成長が早いのだろう。5歳ぐらいに見えた。
やんちゃそうな顔立ちをしているのに、Cシーの愛情を受けて育ったせいか、礼儀正しい子供だった。
エルナンドとしての記憶は喪失していたが、それは私にとっては好都合だった。だって、あんな記憶は私1人が持っていれば十分だから。

「エリー。私のアグリエルを、お願いしますね」

あの時は何も出来なかった。

「はい。お任せ下さい、Cシー

今度は、私が守ろう。命を懸けて。

そう、心に誓った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

下品な男に下品に調教される清楚だった図書委員の話

神谷 愛
恋愛
クラスで目立つこともない彼女。半ば押し付けれられる形でなった図書委員の仕事のなかで出会った体育教師に堕とされる話。 つまらない学校、つまらない日常の中の唯一のスパイスである体育教師に身も心も墜ちていくハートフルストーリー。ある時は図書室で、ある時は職員室で、様々な場所で繰り広げられる終わりのない蜜月の軌跡。 歪んだ愛と実らぬ恋の衝突 ノクターンノベルズにもある ☆とブックマークをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。

雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。 ——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない) ※完結直後のものです。

【R18】幼馴染な陛下は、わたくしのおっぱいお好きですか?💕

月極まろん
恋愛
 幼なじみの陛下に告白したら、両思いだと分かったので、甘々な毎日になりました。  でも陛下、本当にわたくしに御不満はございませんか?

前世変態学生が転生し美麗令嬢に~4人の王族兄弟に淫乱メス化させられる

KUMA
恋愛
変態学生の立花律は交通事故にあい気付くと幼女になっていた。 城からは逃げ出せず次々と自分の事が好きだと言う王太子と王子達の4人兄弟に襲われ続け次第に男だった律は女の子の快感にはまる。

うちの娘と(Rー18)

量産型774
恋愛
完全に冷え切った夫婦関係。 だが、そんな関係とは反比例するように娘との関係が・・・ ・・・そして蠢くあのお方。 R18 近親相姦有 ファンタジー要素有

【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話

もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。 詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。 え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか? え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか? え? 私、アースさん専用の聖女なんですか? 魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。 ※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。 ※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。 ※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。 R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

処理中です...