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故郷※C視点
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「C! 安全そうなルートを開拓したから、エルサド行かない?」
久しぶりに勇者が顔を出したと思ったら、第一声はそれだった。その内容に、傍に居たDも身を乗り出して「エルサド! 懐かしいねぇ。あたしも行っていいかい?」と聞いた。
「Dが居たら百人力だからね。もちろんだよ。目的地はエルサドだし、旅にトラブルはつきものだからね」
やるべき事も、ひと段落していたため、私とD、それに話を聞きつけたAとEが付いてきた。「別に国を落とすわけじゃないんだけど……過剰戦力だね」と、勇者は苦笑いして荷造りをした。
エルサドとの国境付近までは最近ラストヘルムで調教され始めた飛龍に騎乗して移動した。馬車だと数日かかるところを、ものの数時間で到着する事が出来た。
雑食性らしいので、ご褒美として、以前海に行った時に捕獲して血抜きした魚をやった。
「可愛いですね」「良い子ですね」と言って撫でると、鼻先を手の平に擦り付けて、グルグル喉を鳴らす。
「私専用に1匹欲しいですね」と言ったら、調教師の兄弟が「C様なら1匹と言わずに、2匹でも3匹でも」と言ってきたので「いえ、1匹で十分です」と伝えると残念そうな顔をした。
「そうですか……ご必要な時がありましたら、何時でもご相談下さい。何しろ、空を飛ぶということに抵抗感を示す兄弟が多すぎて、こいつらのご主人様を見つけられないんです。何とかならないですかね」と揉み手して頼み込んできた。
流石に即答は出来ないので「ラストヘルムに戻ってから、検討します」とだけ返答した。今後の議題となるだろう。
調教師と飛龍達は、私たちが戻って来るまで、国境近くにある宿屋で待って貰うことにした。そのまま飛龍で飛んでいけたら最短のルートになるらしいが、人が居なくなった後に龍族が棲むようになったらしく、その縄張りが途中にあるため、オススメ出来ないらしい。
「ぶっ殺すか?」
「龍の縄張りが空白地帯になって、ややこしいことになりそうなので迂回して行きましょう。あそこにいるのは龍だけじゃないですし」
間違えると空中戦になる可能性もあり危険らしいので、徒歩で行く事になった。野宿しながら、数日かかって、なんとなく見覚えのある場所に差し掛かった。
だが、そこは、かつて「魔法の都」と呼ばれ栄えていた頃の面影は殆ど残されていなかった。かつての住居跡は、木とレンガで作られた家が多かったため、殆どが崩れ落ち、森となっていた。
「私の家は、この辺りにあったはずですが……これでは分からないですね」
周囲を見渡して、かつて遊び場としていた大木と精霊の泉を探す。精霊の泉は私の家、グステル家にとっても、エルサドにとっても、特別な場所だった。グステル家は、代々精霊の泉の祀りごとや管理を国から任されていた。グステル家は精霊の加護を受け、隔世遺伝で天眼を持つ子が産まれた。
それが男であれば次男であってもグステル家の当主に、女であれば王族に嫁ぐ決まりだった。私は女だったから、魔王がエルサドに侵攻しなければ、王族に嫁ぐ事になっただろう。当時私は16歳で、婚約者も居たはずだが、顔も名前も思い出せない。
きっと、私にとって、どうでも良い男だったのだろう。
私の家の敷地は広く、大木と精霊の泉も、敷地内にあったため、父や母と共に良く遊びに行った。精霊の泉の近くに生える大木は精霊たちが立ち止まる場所とされ、信仰の対象だった。
春には白い花を咲かせて目を楽しませ、夏には葉を茂らせて、その下で本を読んだ。秋には葉を落として、綺麗な色の落ち葉を集めた。その葉を腐葉土にすると、素晴らしい肥料になると庭師から教えてもらった。冬になると寒くなるからあまり通わなかったのだが、精霊たちがあの手この手で私を家から連れ出そうとしてくるから、それが楽しみだった思い出がある。
屋敷からも良く見えた、背の高い木はなかった。
やはり魔王に燃やされてしまったのだろうかと、憂鬱な気分になった。
「見つけたぞー、これじゃないのか? 鑑定で朽ちた神木の切り株って出てる」
そんな時、Aが念話で喋りかけてきた。
「……Aってどこに行きました?」
「あれ? さっきまで一緒に居たのに、どこに行ったんだろうね?」
念話はAしか持っていないスキルだ。距離は関係なく、思ったことを伝えることが出来るらしいが、その会話は一方通行のため、聞きたい事があっても、こちらから喋りかけることが出来ない。
私とDは手分けして迷子になったAを探した。ようやく見つけることが出来たのは、Aが念話で連絡してきて、30分が経った頃だった。
(Aの迷子対策を、本格的にやらないとまずいですね……!)
スキルを覚えていけば、その内、役に立つようなものを覚えるだろうと思っていたのに、未だにそのようなスキルは習得することが出来なかった。正確には覚えてはいるのだが、Aには効果がなかった。Aが隠遁などの追跡から逃れるスキルを覚えてしまっているから、マッピングなどのスキルは使えないのだ。
Aは切り株の前に立っていた。うろうろされるよりは、よっぽど良い。
「これは……」
泉は荒れ果てており、かつての美しい姿を知っている私からすると悲惨な状態だった。大木は朽ち果て、倒れていた。
切り株や倒れた木から、新たな芽が芽吹いていたが、喋りかけてくるような霊格の高い精霊の姿はなかった。
だが、切り株を守るように、小さな精霊が宿っていた。
「こんな状態になっても、精霊が居るんですね……」
私は嬉しくなって、精霊を驚かせないように人間に変化すると、かつて精霊に教えてもらった精霊語で、小さな精霊たちに話しかけた。
久しぶりに勇者が顔を出したと思ったら、第一声はそれだった。その内容に、傍に居たDも身を乗り出して「エルサド! 懐かしいねぇ。あたしも行っていいかい?」と聞いた。
「Dが居たら百人力だからね。もちろんだよ。目的地はエルサドだし、旅にトラブルはつきものだからね」
やるべき事も、ひと段落していたため、私とD、それに話を聞きつけたAとEが付いてきた。「別に国を落とすわけじゃないんだけど……過剰戦力だね」と、勇者は苦笑いして荷造りをした。
エルサドとの国境付近までは最近ラストヘルムで調教され始めた飛龍に騎乗して移動した。馬車だと数日かかるところを、ものの数時間で到着する事が出来た。
雑食性らしいので、ご褒美として、以前海に行った時に捕獲して血抜きした魚をやった。
「可愛いですね」「良い子ですね」と言って撫でると、鼻先を手の平に擦り付けて、グルグル喉を鳴らす。
「私専用に1匹欲しいですね」と言ったら、調教師の兄弟が「C様なら1匹と言わずに、2匹でも3匹でも」と言ってきたので「いえ、1匹で十分です」と伝えると残念そうな顔をした。
「そうですか……ご必要な時がありましたら、何時でもご相談下さい。何しろ、空を飛ぶということに抵抗感を示す兄弟が多すぎて、こいつらのご主人様を見つけられないんです。何とかならないですかね」と揉み手して頼み込んできた。
流石に即答は出来ないので「ラストヘルムに戻ってから、検討します」とだけ返答した。今後の議題となるだろう。
調教師と飛龍達は、私たちが戻って来るまで、国境近くにある宿屋で待って貰うことにした。そのまま飛龍で飛んでいけたら最短のルートになるらしいが、人が居なくなった後に龍族が棲むようになったらしく、その縄張りが途中にあるため、オススメ出来ないらしい。
「ぶっ殺すか?」
「龍の縄張りが空白地帯になって、ややこしいことになりそうなので迂回して行きましょう。あそこにいるのは龍だけじゃないですし」
間違えると空中戦になる可能性もあり危険らしいので、徒歩で行く事になった。野宿しながら、数日かかって、なんとなく見覚えのある場所に差し掛かった。
だが、そこは、かつて「魔法の都」と呼ばれ栄えていた頃の面影は殆ど残されていなかった。かつての住居跡は、木とレンガで作られた家が多かったため、殆どが崩れ落ち、森となっていた。
「私の家は、この辺りにあったはずですが……これでは分からないですね」
周囲を見渡して、かつて遊び場としていた大木と精霊の泉を探す。精霊の泉は私の家、グステル家にとっても、エルサドにとっても、特別な場所だった。グステル家は、代々精霊の泉の祀りごとや管理を国から任されていた。グステル家は精霊の加護を受け、隔世遺伝で天眼を持つ子が産まれた。
それが男であれば次男であってもグステル家の当主に、女であれば王族に嫁ぐ決まりだった。私は女だったから、魔王がエルサドに侵攻しなければ、王族に嫁ぐ事になっただろう。当時私は16歳で、婚約者も居たはずだが、顔も名前も思い出せない。
きっと、私にとって、どうでも良い男だったのだろう。
私の家の敷地は広く、大木と精霊の泉も、敷地内にあったため、父や母と共に良く遊びに行った。精霊の泉の近くに生える大木は精霊たちが立ち止まる場所とされ、信仰の対象だった。
春には白い花を咲かせて目を楽しませ、夏には葉を茂らせて、その下で本を読んだ。秋には葉を落として、綺麗な色の落ち葉を集めた。その葉を腐葉土にすると、素晴らしい肥料になると庭師から教えてもらった。冬になると寒くなるからあまり通わなかったのだが、精霊たちがあの手この手で私を家から連れ出そうとしてくるから、それが楽しみだった思い出がある。
屋敷からも良く見えた、背の高い木はなかった。
やはり魔王に燃やされてしまったのだろうかと、憂鬱な気分になった。
「見つけたぞー、これじゃないのか? 鑑定で朽ちた神木の切り株って出てる」
そんな時、Aが念話で喋りかけてきた。
「……Aってどこに行きました?」
「あれ? さっきまで一緒に居たのに、どこに行ったんだろうね?」
念話はAしか持っていないスキルだ。距離は関係なく、思ったことを伝えることが出来るらしいが、その会話は一方通行のため、聞きたい事があっても、こちらから喋りかけることが出来ない。
私とDは手分けして迷子になったAを探した。ようやく見つけることが出来たのは、Aが念話で連絡してきて、30分が経った頃だった。
(Aの迷子対策を、本格的にやらないとまずいですね……!)
スキルを覚えていけば、その内、役に立つようなものを覚えるだろうと思っていたのに、未だにそのようなスキルは習得することが出来なかった。正確には覚えてはいるのだが、Aには効果がなかった。Aが隠遁などの追跡から逃れるスキルを覚えてしまっているから、マッピングなどのスキルは使えないのだ。
Aは切り株の前に立っていた。うろうろされるよりは、よっぽど良い。
「これは……」
泉は荒れ果てており、かつての美しい姿を知っている私からすると悲惨な状態だった。大木は朽ち果て、倒れていた。
切り株や倒れた木から、新たな芽が芽吹いていたが、喋りかけてくるような霊格の高い精霊の姿はなかった。
だが、切り株を守るように、小さな精霊が宿っていた。
「こんな状態になっても、精霊が居るんですね……」
私は嬉しくなって、精霊を驚かせないように人間に変化すると、かつて精霊に教えてもらった精霊語で、小さな精霊たちに話しかけた。
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