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罠※C視点
しおりを挟む幻聴だろうか。遠くでAの声が聞こえたような気がして、ルシーの部屋の扉を見る。するとバタン、と蹴破る勢いでAが現れて、息を呑んだ。
「おい、ルシー。こっちにCが来てるって聞いたんだけど? ……おい、何をやってんだ!? 俺のCに触れるな!」
「無粋ねぇ。せっかく、いいところだったのに……」
ルシーは露骨に嫌そうな顔をして、舌打ちをした。
「ふざけんな、こいつは俺の伴侶だ。俺以外に触れられてたまるか。帰るぞ、C」
私は強く手を握られ、Aが歩く速度が速いため、引きずられるようにして自室に戻った。Aの体や腰ミノはボロボロで、あちこちに怪我しているようだ。
「限界だ。抱かせろ」
ベットに放り込まれた。私が限界だったように、Aも限界だったようで、瞳は赤く変色していた。返答を待たずに口付けられ、半ば強引に抱かれた。魔力が底を付いていると言われ、マジックドレインされたため、私の魔力は、ほとんどAに吸い尽くされてしまった。
「――で、この2週間何があったのですか?」
話の核心に触れることが出来たのは、翌日だった。
「やばい罠踏んだ」
どうやら冒険者として遺跡に立ち寄ったら、即死級の罠を踏んでしまったらしい。Aにとって、大抵の罠は効果がないが、その罠は暗闇の洞窟にあった空間遮断系の結界で囲まれた隠し部屋だった。それだけだったら特に問題はないが、その隠し部屋は出口がなく、1度入ってしまったら閉じ込められてしまうらしい。
その結果、念話すら出来なくなり、連絡手段が無くなってしまったのが事の顛末だそうだ。
「……よくそんなものから抜けてきましたね」
「あー、これで空気がなかったら、死んでただろうなあ……」
隠し部屋の製作者は性格が悪いようで、物見席らしいものも見えたそうだ。おそらくは、飢餓に苦しむ冒険者を見て楽しむような場所だったのだろう。
「いやー、いっぱい骨が転がってたし、魂が浮かんでいたから、それ食って、気合で頑張った」
……味方である内は良いが、敵に回ったらと考えると、恐ろしい男だ。
過去の被害者たちの魂を食べては、新たなスキルを入手し、骨をかじりながらAが持っている全部のスキルを試したらしい。
「踏破済みのダンジョンに、まさかあんなものがあると思わないだろ。俺が留守の間に、Cを他のやつに盗られるとたまんねぇから、俺も必死だった」
ほとんどこの2週間寝ずに脱出を試みていたらしい。
安心したように欠伸するAに、私は「私はAの伴侶ですよ? 他の男に抱かれるわけないじゃないですか……」と言うと、「男はそーかもしんねぇけど、ルシーを抱こうとしてたろ? ギリギリだったなぁ」と言って痛いぐらいに私を抱きしめた。
「……女を抱くのも、ダメなんですか? たまには私も女を抱きたいのですが……」
「あったり前だろーが。今度したら、ぶち殺すからな」
躁を立てるわけではないけど、Aの伴侶である以上、ある程度は、その気持ちに寄り添う姿勢を見せないといけないのかもしれない。余計な争いごとは望ましくない。何より、ルシーに危害が及ぶのは嫌だ。
私はAに「分かりましたよ。ですが、私と別れたくなければ、行動を改めて欲しいですね。どこに行くかは貴方の自由ですが、どこに行くのかぐらいは、せめて誰かに伝えて下さいね?」と答えた。
「それ、親父殿にも言われるだろうなぁ……」
「今回、貴方を探すために尽力した方々にもお礼を言わないといけませんよ。本来は私のところに来るより、そちらが先です」
「分かってる」
今後のやるべき事に思いを馳せたのか、Aはげんなりとした表情になった。
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