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独白※C視点
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これだけスキルをコピーしておいて、使えるものは何ひとつない現実に、憂鬱になる。
(忘却スキルなんてものがあったら良かったのに……)
馬鹿だとは思っていたが、ここまで馬鹿だとは思わなかった。ゴブリンは奪う者だ。自分とは異なり、純粋なゴブリンのAにとっては性行為など些細なことだし、日常茶飯事だろう。だが、人間だった頃、箱入り娘として育てられた、潔癖症の傾向がある私にとっては、性行為とは忌むべきものだった。どうしても体がきつくなって耐えられない時だけ、女を抱いた。
それでも、口付けだけはしなかった。愛し合う人にだけするものだと死んだ母親に教えてられていたから。それを守りたかった。私はゴブリンになったけれども、人間だった時の名残が、今も息づいていたし、秘かに大事にしていた。それが母親との残された絆のような気がしていたからだ。
心の柔らかい部分を傷つけられ、私の気分は最悪だった。
Aだって悪気はなかったというのは分かっている。だからこそ忘れようとしているのに、Aの顔を見るだけで、意識してしまう。唇と唇が触れた感触が、Aの舌の感触が、頭にこびりついて離れない。
それなのにAは吞気にツマミを食べながら酒を飲んで、楽し気だ。味覚は人間なのだから、唐辛子でも買ってきて、混入してやろうかと思う程には苛々している。何時ものことだが、私だけが気にして病むのだ。神経質と言われたらそれまでだが、一矢報いてやらなくては気が済まない。
しかし今回に限って言えば、Aがキスしたのは私の窮地を助けるためでもあったのだから、自分の中で消化するしかない。
「A、そろそろ私は寝ますからね。あまり夜更かしせずに、はやく寝てくださいよ」
「分かった」
ゴブリンの時はそれほど睡眠は必要としないが、人間に変化してるので人間と同じだけ睡眠は必要だ。私はお風呂に入ると、寝間着に着替えて、むかむかしながら、眠りについた。
寝つきが悪く、ようやく眠れたかと思った私を襲ったのは、悪夢だった。
頬を手で包まれたかと思うと、柔らかなものが唇に落とされ、何度か軽いキスをされた。その内に、口内に舌が差し込まれ、唾液が絡み合うような深い口付けになる。
ああ、昼間にAにされたことが夢の中にまで出てきたのかな、と思った。夢に出てきてしまう程に衝撃的だったのだろうか。
だが、胸を揉まれるような感覚に違和感を感じ、ふっと意識が戻って驚愕する。
寝間着は肌蹴ており、意味をなしていなかった。私はほとんど全裸で足を大きく広げさせられ、Aに犯されそうになっているところだった。
それは冗談や悪戯の範囲を大幅に超えており、すっかり眠気はどこかへ飛んで行ってしまった。切羽詰まったようなAの表情、それと普段は黒い瞳が赤く変色しているのを見て、危機感が警鐘を鳴らした。
「……A、何時から女を抱いていないんですか……!?」
性衝動で間違いないだろう。Aがなるのは初めて見た。
そういえば、ゲームや漫画ばかり読んでいて、女を抱いている気配は全くなかった。
Aがあの世界からこちらに来てから、もう2週間近くは経とうとしている。その間、ずっと女を抱いていなかったということなのか?
そして返ってきた、Aの言葉に別の意味で不安が高まった。
「Cどうしよう……吐きそう……」
「ここで吐くのはやめてくださいよ!?」
「もう、動けねえ……」
再び唇が重ねられ、私は異常を察した。体内の魔力が急激に減っていくからだ。原因はすぐにわかった。Aにスキルで吸い取られているのだ。
行為の最中、何度も殺そうと思った。
男と女で体格差があるとはいえ、お互いに人間に変化してるからステータスは弱体化しているはずなのに、Aの愚行を止めることが出来なかった。隙だらけのように見えて、殺意に呼応するように、こちらの打つ手を封じてくる。魔力も全部吸い尽くされてしまった。相変わらず馬鹿げたステータスの持ち主だ。ゴブリンに私が戻ったとしても、力という一点のみに限れば、人間のAにすら劣るかもしれない。
だが、魔力がなくとも、今のAなら、首を刎ね飛ばそうと思えば出来た。だが、手加減が出来ない。残された選択肢は奥の手に近いもので、Aを殺す覚悟で挑まないといけない。もちろん失敗すれば私が死ぬ可能性もあった。Aを殺すというのは、生易しいものではない。今はまだ人間だが、危機に陥ったら当然変化を解き、ゴブリンに戻るだろう。そうなれば、ゴブリンに戻ることが出来ない私では、とても手に負えなくなる。
だからこそ、Aが人間であるうちに殺すしかない。
けれど、その度に昼間の嬉しそうな顔ばかり思い浮かんで、手が止まる。殺すならいつでも殺せる。だが、Aが死んだら父上は嘆き悲しむだろう。私の一存で殺していいものだろうか。性衝動は、一過性のものだ。不幸中の幸いにも、私はAの受け皿になるようだ。私が受け止めて我慢すれば、その内もとのAに戻るかもしれない。
どうしたら良いか分からずに「A」と呼びかけると、「なんだ? C?」と耳障りの良い声が耳を通り抜ける。
長い時を兄弟として生きてきた。とっくに人間だった時間を超えるほどに。Aの純粋な強さは超えられないと、かなり前から思っていた。「俺に追いつきたければ魂をあと1万ぐらい食わないとなあ」と言われたけど、魂を食えるのは父上とAぐらいだろう。
そもそも、私には魂すら見えないからだ。
(忘却スキルなんてものがあったら良かったのに……)
馬鹿だとは思っていたが、ここまで馬鹿だとは思わなかった。ゴブリンは奪う者だ。自分とは異なり、純粋なゴブリンのAにとっては性行為など些細なことだし、日常茶飯事だろう。だが、人間だった頃、箱入り娘として育てられた、潔癖症の傾向がある私にとっては、性行為とは忌むべきものだった。どうしても体がきつくなって耐えられない時だけ、女を抱いた。
それでも、口付けだけはしなかった。愛し合う人にだけするものだと死んだ母親に教えてられていたから。それを守りたかった。私はゴブリンになったけれども、人間だった時の名残が、今も息づいていたし、秘かに大事にしていた。それが母親との残された絆のような気がしていたからだ。
心の柔らかい部分を傷つけられ、私の気分は最悪だった。
Aだって悪気はなかったというのは分かっている。だからこそ忘れようとしているのに、Aの顔を見るだけで、意識してしまう。唇と唇が触れた感触が、Aの舌の感触が、頭にこびりついて離れない。
それなのにAは吞気にツマミを食べながら酒を飲んで、楽し気だ。味覚は人間なのだから、唐辛子でも買ってきて、混入してやろうかと思う程には苛々している。何時ものことだが、私だけが気にして病むのだ。神経質と言われたらそれまでだが、一矢報いてやらなくては気が済まない。
しかし今回に限って言えば、Aがキスしたのは私の窮地を助けるためでもあったのだから、自分の中で消化するしかない。
「A、そろそろ私は寝ますからね。あまり夜更かしせずに、はやく寝てくださいよ」
「分かった」
ゴブリンの時はそれほど睡眠は必要としないが、人間に変化してるので人間と同じだけ睡眠は必要だ。私はお風呂に入ると、寝間着に着替えて、むかむかしながら、眠りについた。
寝つきが悪く、ようやく眠れたかと思った私を襲ったのは、悪夢だった。
頬を手で包まれたかと思うと、柔らかなものが唇に落とされ、何度か軽いキスをされた。その内に、口内に舌が差し込まれ、唾液が絡み合うような深い口付けになる。
ああ、昼間にAにされたことが夢の中にまで出てきたのかな、と思った。夢に出てきてしまう程に衝撃的だったのだろうか。
だが、胸を揉まれるような感覚に違和感を感じ、ふっと意識が戻って驚愕する。
寝間着は肌蹴ており、意味をなしていなかった。私はほとんど全裸で足を大きく広げさせられ、Aに犯されそうになっているところだった。
それは冗談や悪戯の範囲を大幅に超えており、すっかり眠気はどこかへ飛んで行ってしまった。切羽詰まったようなAの表情、それと普段は黒い瞳が赤く変色しているのを見て、危機感が警鐘を鳴らした。
「……A、何時から女を抱いていないんですか……!?」
性衝動で間違いないだろう。Aがなるのは初めて見た。
そういえば、ゲームや漫画ばかり読んでいて、女を抱いている気配は全くなかった。
Aがあの世界からこちらに来てから、もう2週間近くは経とうとしている。その間、ずっと女を抱いていなかったということなのか?
そして返ってきた、Aの言葉に別の意味で不安が高まった。
「Cどうしよう……吐きそう……」
「ここで吐くのはやめてくださいよ!?」
「もう、動けねえ……」
再び唇が重ねられ、私は異常を察した。体内の魔力が急激に減っていくからだ。原因はすぐにわかった。Aにスキルで吸い取られているのだ。
行為の最中、何度も殺そうと思った。
男と女で体格差があるとはいえ、お互いに人間に変化してるからステータスは弱体化しているはずなのに、Aの愚行を止めることが出来なかった。隙だらけのように見えて、殺意に呼応するように、こちらの打つ手を封じてくる。魔力も全部吸い尽くされてしまった。相変わらず馬鹿げたステータスの持ち主だ。ゴブリンに私が戻ったとしても、力という一点のみに限れば、人間のAにすら劣るかもしれない。
だが、魔力がなくとも、今のAなら、首を刎ね飛ばそうと思えば出来た。だが、手加減が出来ない。残された選択肢は奥の手に近いもので、Aを殺す覚悟で挑まないといけない。もちろん失敗すれば私が死ぬ可能性もあった。Aを殺すというのは、生易しいものではない。今はまだ人間だが、危機に陥ったら当然変化を解き、ゴブリンに戻るだろう。そうなれば、ゴブリンに戻ることが出来ない私では、とても手に負えなくなる。
だからこそ、Aが人間であるうちに殺すしかない。
けれど、その度に昼間の嬉しそうな顔ばかり思い浮かんで、手が止まる。殺すならいつでも殺せる。だが、Aが死んだら父上は嘆き悲しむだろう。私の一存で殺していいものだろうか。性衝動は、一過性のものだ。不幸中の幸いにも、私はAの受け皿になるようだ。私が受け止めて我慢すれば、その内もとのAに戻るかもしれない。
どうしたら良いか分からずに「A」と呼びかけると、「なんだ? C?」と耳障りの良い声が耳を通り抜ける。
長い時を兄弟として生きてきた。とっくに人間だった時間を超えるほどに。Aの純粋な強さは超えられないと、かなり前から思っていた。「俺に追いつきたければ魂をあと1万ぐらい食わないとなあ」と言われたけど、魂を食えるのは父上とAぐらいだろう。
そもそも、私には魂すら見えないからだ。
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