93 / 112
誇り ※C視点
しおりを挟む
「……美里。私はどのくらい寝ていましたか?」
ここはAの部屋だろうか。美里の声がしたので、私は体を起こそうとした。頭はすっきりしており、なぜか体は軽かった。
鑑定してみると、体力と魔力が共に全快していた。
(何ですか、これ。レベルが大幅に増えてる……)
レベルを1増やすだけでも至難の業なのに、100以上増えている。
(ステータスが倍以上になってる。私、スピカに変化して、魔力不足で倒れただけですよね……? パヌトスを倒したわけでもないですし……)
鑑定がおかしくなったのかと思って、何度も見直すが、その数字は変わらなかった。
「あぁっ、C様、お目覚めになられましたか……! 3日も眠り続けてたんですよ……。もう目が覚めないのかと、私、心配で心配で……」
「心配かけましたね、美里。もう大丈夫です」
「いったい何が大丈夫なのか分かりません! もっとご自身の命を、お体を、ご自愛ください……! 美里は生きた心地がしませんでしたよ! A様にも、お叱り頂きますからね!」
美里は走って部屋から出て行った。
(……美里、泣いていましたね……。後で謝らないと……)
感情の起伏の激しい美里だが、泣いている美里なんて見たことがない。この部屋は1年前と変わらない。隅々まで掃除が行き届いている。1年も留守にしたのだ。その間、美里がどんな気持ちで、この部屋を掃除していてくれたのだろう。
「C……!」
そして、Aが来た。どうやら食事中だったみたいで、ある程度は拭いたようだが、頬に血がついている。
「食事中のところすみませんね、A。あの、スピカの体はどうなりました……?」
目が覚めて、真っ先に思ったのは、スピカの腹に居た子の行方だった。私がゴブリンの肉体に戻った時、スピカの肉体は呼吸もしていたし、脈もあった。はたから見ると、ただ眠っているだけのように見えた。その時は誰も見向きはしなかったが、その腹の中には子が育まれていたのだ。
堕神パヌトスの血を継ぐが、赤子には罪はないと思っていた。赤子が産まれるまで、スピカの肉体を行き来すれば、赤子も産まれることが出来るのではないだろうか。ゴブリンの肉体は、魂がなくとも、1年も生き延びることが出来たのだ。あと数か月不在にしたところで、死ぬほど軟じゃないだろう。
「Cが戻らないように、食った」
あっさりと求める回答が返ってきた。……食われたなら、もう手遅れだ。
「もしかして、今食べていたそれですか……?」
Aがこれ見よがしに人間の肉を食べているのは珍しい。きっとそうなんだろうな、と思いながら私はAに聞いた。
「これはスピカって女のほうだな。どうせお前が目ぇ覚めたら、赤子を産みたいとか言うかもしんねーだろ? 俺は嫌だからな、他の男との間に出来た赤子なんて。胎児は親父殿が食ったから、上手くいけば兄弟に転生するかもしんねーけど……」
「そうですか……。きっと、転生出来ると思いますよ」
「何でそう思う? 赤子は大したスキルを持っていなかったらしいぞ?」
私が以前見ていた悪夢には続きがあった。
(あの夢の通りになるとは限りませんが……。何となく、そうなる気がするんですよね……)
柔らかな手が私の手を握り、私は産んで良かった、と心の底から思う。そんな夢だった。
(きっと、また逢えますよね……)
この肉体に戻るまで、毎日胎動を感じていた。ずっとパヌトスには暴力を受けていたが、その時だけは安らぎを感じていた。
Aに言えば、赤子は取り上げられるだろう。父上に聞いても、教えてくれないだろう。詮索するべきではないのだ。
だから、私に出来ることは何もない。
(父上や母上のように……あの子が、誇りに思うような親になりたい……)
その子が逢いに来てくれるまで、私自身を鍛えて成長させ、エルサドをより良き国に発展させようと思うのだった。
ここはAの部屋だろうか。美里の声がしたので、私は体を起こそうとした。頭はすっきりしており、なぜか体は軽かった。
鑑定してみると、体力と魔力が共に全快していた。
(何ですか、これ。レベルが大幅に増えてる……)
レベルを1増やすだけでも至難の業なのに、100以上増えている。
(ステータスが倍以上になってる。私、スピカに変化して、魔力不足で倒れただけですよね……? パヌトスを倒したわけでもないですし……)
鑑定がおかしくなったのかと思って、何度も見直すが、その数字は変わらなかった。
「あぁっ、C様、お目覚めになられましたか……! 3日も眠り続けてたんですよ……。もう目が覚めないのかと、私、心配で心配で……」
「心配かけましたね、美里。もう大丈夫です」
「いったい何が大丈夫なのか分かりません! もっとご自身の命を、お体を、ご自愛ください……! 美里は生きた心地がしませんでしたよ! A様にも、お叱り頂きますからね!」
美里は走って部屋から出て行った。
(……美里、泣いていましたね……。後で謝らないと……)
感情の起伏の激しい美里だが、泣いている美里なんて見たことがない。この部屋は1年前と変わらない。隅々まで掃除が行き届いている。1年も留守にしたのだ。その間、美里がどんな気持ちで、この部屋を掃除していてくれたのだろう。
「C……!」
そして、Aが来た。どうやら食事中だったみたいで、ある程度は拭いたようだが、頬に血がついている。
「食事中のところすみませんね、A。あの、スピカの体はどうなりました……?」
目が覚めて、真っ先に思ったのは、スピカの腹に居た子の行方だった。私がゴブリンの肉体に戻った時、スピカの肉体は呼吸もしていたし、脈もあった。はたから見ると、ただ眠っているだけのように見えた。その時は誰も見向きはしなかったが、その腹の中には子が育まれていたのだ。
堕神パヌトスの血を継ぐが、赤子には罪はないと思っていた。赤子が産まれるまで、スピカの肉体を行き来すれば、赤子も産まれることが出来るのではないだろうか。ゴブリンの肉体は、魂がなくとも、1年も生き延びることが出来たのだ。あと数か月不在にしたところで、死ぬほど軟じゃないだろう。
「Cが戻らないように、食った」
あっさりと求める回答が返ってきた。……食われたなら、もう手遅れだ。
「もしかして、今食べていたそれですか……?」
Aがこれ見よがしに人間の肉を食べているのは珍しい。きっとそうなんだろうな、と思いながら私はAに聞いた。
「これはスピカって女のほうだな。どうせお前が目ぇ覚めたら、赤子を産みたいとか言うかもしんねーだろ? 俺は嫌だからな、他の男との間に出来た赤子なんて。胎児は親父殿が食ったから、上手くいけば兄弟に転生するかもしんねーけど……」
「そうですか……。きっと、転生出来ると思いますよ」
「何でそう思う? 赤子は大したスキルを持っていなかったらしいぞ?」
私が以前見ていた悪夢には続きがあった。
(あの夢の通りになるとは限りませんが……。何となく、そうなる気がするんですよね……)
柔らかな手が私の手を握り、私は産んで良かった、と心の底から思う。そんな夢だった。
(きっと、また逢えますよね……)
この肉体に戻るまで、毎日胎動を感じていた。ずっとパヌトスには暴力を受けていたが、その時だけは安らぎを感じていた。
Aに言えば、赤子は取り上げられるだろう。父上に聞いても、教えてくれないだろう。詮索するべきではないのだ。
だから、私に出来ることは何もない。
(父上や母上のように……あの子が、誇りに思うような親になりたい……)
その子が逢いに来てくれるまで、私自身を鍛えて成長させ、エルサドをより良き国に発展させようと思うのだった。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる