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誇り ※C視点

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「……美里みさと。私はどのくらい寝ていましたか?」

ここはAエイの部屋だろうか。美里みさとの声がしたので、私は体を起こそうとした。頭はすっきりしており、なぜか体は軽かった。

鑑定してみると、体力と魔力が共に全快していた。

(何ですか、これ。レベルが大幅に増えてる……)

レベルを1増やすだけでも至難の業なのに、100以上増えている。

(ステータスが倍以上になってる。私、スピカに変化して、魔力不足で倒れただけですよね……? パヌトスを倒したわけでもないですし……)

鑑定がおかしくなったのかと思って、何度も見直すが、その数字は変わらなかった。

「あぁっ、Cシー様、お目覚めになられましたか……! 3日も眠り続けてたんですよ……。もう目が覚めないのかと、私、心配で心配で……」
「心配かけましたね、美里みさと。もう大丈夫です」
「いったい何が大丈夫なのか分かりません! もっとご自身の命を、お体を、ご自愛ください……! 美里みさとは生きた心地がしませんでしたよ! Aエイ様にも、お叱り頂きますからね!」

美里みさとは走って部屋から出て行った。

(……美里みさと、泣いていましたね……。後で謝らないと……)

感情の起伏の激しい美里みさとだが、泣いている美里みさとなんて見たことがない。この部屋は1年前と変わらない。隅々まで掃除が行き届いている。1年も留守にしたのだ。その間、美里みさとがどんな気持ちで、この部屋を掃除していてくれたのだろう。

Cシー……!」

そして、Aエイが来た。どうやら食事中だったみたいで、ある程度は拭いたようだが、頬に血がついている。

「食事中のところすみませんね、Aエイ。あの、スピカの体はどうなりました……?」

目が覚めて、真っ先に思ったのは、スピカの腹に居た子の行方だった。私がゴブリンの肉体に戻った時、スピカの肉体は呼吸もしていたし、脈もあった。はたから見ると、ただ眠っているだけのように見えた。その時は誰も見向きはしなかったが、その腹の中には子が育まれていたのだ。

堕神パヌトスの血を継ぐが、赤子には罪はないと思っていた。赤子が産まれるまで、スピカの肉体を行き来すれば、赤子も産まれることが出来るのではないだろうか。ゴブリンの肉体は、魂がなくとも、1年も生き延びることが出来たのだ。あと数か月不在にしたところで、死ぬほど軟じゃないだろう。

Cシーが戻らないように、食った」

あっさりと求める回答が返ってきた。……食われたなら、もう手遅れだ。

「もしかして、今食べていたそれですか……?」

Aエイがこれ見よがしに人間の肉を食べているのは珍しい。きっとそうなんだろうな、と思いながら私はAエイに聞いた。

「これはスピカって女のほうだな。どうせお前が目ぇ覚めたら、赤子を産みたいとか言うかもしんねーだろ? 俺は嫌だからな、他の男との間に出来た赤子なんて。胎児は親父殿が食ったから、上手くいけば兄弟に転生するかもしんねーけど……」
「そうですか……。きっと、転生出来ると思いますよ」
「何でそう思う? 赤子は大したスキルを持っていなかったらしいぞ?」

私が以前見ていた悪夢には続きがあった。

(あの夢の通りになるとは限りませんが……。何となく、そうなる気がするんですよね……)

柔らかな手が私の手を握り、私は産んで良かった、と心の底から思う。そんな夢だった。

(きっと、また逢えますよね……)

この肉体に戻るまで、毎日胎動を感じていた。ずっとパヌトスには暴力を受けていたが、その時だけは安らぎを感じていた。

Aエイに言えば、赤子は取り上げられるだろう。父上に聞いても、教えてくれないだろう。詮索するべきではないのだ。
だから、私に出来ることは何もない。

(父上や母上のように……あの子が、誇りに思うような親になりたい……)

その子が逢いに来てくれるまで、私自身を鍛えて成長させ、エルサドをより良き国に発展させようと思うのだった。


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