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妹の身代わりに嫁いだら、寵愛されました。【R15】
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目が眩むような壮大な結婚式は終わり、夫となったユリアスに「もっと顔を見せて」と言われたので、おずおずとアリエルは顔を上げた。
「……これは。息を呑むような美しさだな」
「もったいないお言葉です」
「カロリーヌ、こっちにおいで。愛してやろう」
アリエルは大きなベットの上で、国王ユリアスに「こんなに愛しく思える女は初めてだ」と褒め称えながら情熱的に抱かれ、夜が明けるまでに何回も愛の証を身に受けて、初夜を済ませた。
ユリアスは「昨夜は素晴らしい夜であった」とアリエルを抱き締めながら囁いた。
「――で、貴方は誰なんだ? カロリーヌではないだろう?」
一呼吸を置いて、アリエルは答えた。
「何を仰っているのか、私には分かりかねます」
心の動揺を隠すように表情を失くすアリエルに、ユリアスはは慌てて補足した。
「あぁ、誤解のないように言っておくが、貴方は我が妻だ。貴方が何者であれ、手放すつもりはない。ただ、愛している人の名前が知りたい。それだけだ」
アリエルはユリアスの言葉に困惑した。
(どうしよう。ユリアス様は、私がカロリーヌではないことを察しているご様子だわ)
カロリーヌとユリアスが婚約者として逢ったのは、数年ほど前の話だ。たった1度、顔合わせのために逢っただけで、それ以降はカロリーヌの読み書きが不出来であったため、文通すらしていなかった。
「ばっかみたい。お母様とお父様のために人生を終わらせるつもり?」
カロリーヌは引っ込み思案なアリエルを常に見下しており、お世辞にも、それほど仲が良くなかった。けれども、カロリーヌの姉として、アリエルのことは知っているつもりだった。
(カロリーヌらしく振舞ったつもりだけど、気が付かない内に、カロリーヌらしくないことをしてしまったのかしら……)
一世一代の演技をしたつもりだった。カロリーヌでないと露見してしまうと、アリエルが愛している祖国に災いをもたらしてしまう。
それほど、この結婚には国同士の威信がかかっていた。アリエルの国は大国間に挟まれて領土を狙われており、大国に嫁ぎ、縁を結ぶということは国防上、重要なことだった。
本来嫁ぐのはカロリーヌの役目だった。それが秘かに想いを寄せ、付き合っていた貴族の青年と駆け落ちをしてしまい、両親が手を尽くして探していたが、いまだ行方不明だった。
「……私はカロリーヌです」
本当のことを言うべきなのか逡巡し、アリエルは口を噤むことを選んだ。アリエルは幼い頃から体が弱く、明るく活発なカロリーヌの影に立つようにして育った。
アリエルは気弱で慎み深く、カロリーヌとは似てにつかない性格をしていが、容姿はカロリーヌと瓜二つで両親さえも間違えるほどだった。
(もしかして、鎌をかけただけかもしれない。まだ陛下の中では、疑惑でしかないかもしれないわ。……ここで正体を晒すわけにいかない)
アリエルとしての自分は忘れ、よりカロリーヌらしく振舞えば、印象も変わるかもしれない。
(大丈夫。カロリーヌのように、自分に自信を持たなきゃ。臆病な私は死んだのよ。……今からでも取り繕えば、まだ間に合うわ)
一縷の望みを賭けて、アリエルはユリアスの瞳を見詰め、その視線から目を逸らさなかった。
「……そうか」
ユリアスは、それ以上聞かなかった。
だが、その口から立て続けに出てきた言葉に、アリエルは凍り付いた。
「私は以前、貴方と喋ったことがある。その時も貴方はカロリーヌと名乗っていたね。……私が結婚したかったのは、カロリーヌではなく、貴方だった。違和感は感じていた。けれど、緊張しているからだと思ったんだ。婚約した時は貴方と結婚出来るのかと思って喜んでいたんだよ」
ユリアスの言葉に、アリエルはある少年のことを思い出した。
(……あぁ、なんで忘れていたんだろう)
金の瞳、金の髪。成長し、精悍な顔立ちとなったが、そこにはアリエルが入り浸っていた書庫に迷い込んだ、かつての少年と同じ面影があった。
その時、アリエルは正体を隠すために、カロリーヌと名乗ったことを思い出した。両親に、もし誰かに名前を聞かれたら、カロリーヌということにしなさいと言いつけられていたからだ。
カロリーヌがお喋りを好むように、アリエルは本を好み、あまり人前に立つことを好まなかった。
今は、乗馬出来るほどに体調も良くなったが、姉妹が多かったことから、そのまま結婚はせずに忘れられた存在として、両親の老後の良き話し相手として傍にいることを選んだし、気持ちの優しいアリエルを愛した両親もそれを望んだ。
「頭の出来は良くないと思っていたが、ここまで愚かな娘だったとは……!」
だからこそ、カロリーヌの失踪と、その身代わりとして嫁がせる予定のなかった長女アリエルを供せなければなくなったことは、両親にとっては予想外であり、衝撃的な出来事だった。
「貴方を迎える前に、どんなものが好きなのか知りたくて、カロリーヌのことを調べさせたんだ。そこで愕然としたよ、姿形は良く似ているけど、私が恋した少女とは、まるで別人だったのだから。その時に、やっと貴方がカロリーヌでないことを知ったけど、その時には婚約を撤回することが出来なくなっていた。政略結婚でもあったからね」
ユリアスは、じっとアリエルの目を見詰めて、抱き締めた。
(もうこれ以上隠せない。陛下は真実を知っていらっしゃる)
自分が何者かなど関係ない。カロリーヌでなければならなかったのだ。
(お母様、お父様、ふがいない娘でごめんなさい。ご期待に添えることは出来ませんでした)
ポロポロと涙を零しながらアリエルは白状した。
「……アリエルと、申します」
「アリエル。……カロリーヌの姉君か……! よく似ているから血縁だろうと思って調べていたが、姉君の情報は殆どなかったんだよな……。やっと貴方の本当の名前を知ることが出来て嬉しいよ。泣く必要はない。私の愛はアリエル、貴方のものだ」
ユリアスはアリエルが泣いている理由を勘違いしていた。どんな理由があっても、己の愛情さえあれば解決すると思っていた。
大国の王であるがゆえの過信だった。
ユリアスはアリエルに愛を囁くと、深く口付けた。
(なぜだ? たまに、アリエルは物憂げな顔をするな……。カロリーヌの代わりに嫁いできたことは不問にすると約束しているのに、それ以外に何か不安なことでもあるのだろうか。やはりこれは調べておいたほうが良さそうだ)
いくら愛しても、アリエルの物憂げな顔が消えないことに心を痛め、ユリアスはカロリーヌではなくアリエルが嫁いできた事情を探った。
アリエルの心情を思い、なるべく触れないようにしていたが、目に見えてやつれていくのを見て、心配になったためだ。
(理由は把握したが……。これは公表できないし、私にとっても都合が悪いな)
ユリアスが愛しているのはカロリーヌではなくアリエルだが、世間的にはカロリーヌを娶っていることになっている。
(いまさらカロリーヌを娶る気などないし、アリエルを国に戻すことなど出来ない……。私のことを、まだ心から信用出来ていない証だろう。私のことを心から愛してもらえればいいだけの話だ。気が付かぬふりをして、この問題には触れないようにしよう)
ユリアスは見て見ぬふりをし、アリエルの信頼を勝ち取れるように努力をした。アリエルを変わらず寵愛し、その寵愛は年々深まっていった。
その結果、2人の間には子供が産まれた。それは、幼くして賢い子供だった。
「もうそんな本を読めるの?」
「うん。お母様、この本、面白いよ。お母様もお読みになりますか?」
アリエルは子供の勧めで、久しぶりに本を読んだ。
(懐かしい。久しぶりに読んだけど、また読みたいな……)
歳月が流れても、本の世界は変わらずアリエルを迎えてくれた。本はアリエルの心を大いに慰めてくれた。
(か、可愛い……! そうか、たしか初めて出逢った時も、本を持っていた……! 宝石やドレスを贈ってもあまり喜ばなかったが、これなら喜ぶかもしれない……!)
まるで出逢った頃のような、あまりにも眩い笑顔を見せるアリエルに、ユリアスの心は射抜かれた。
ユリアスは国中から本を買い集め、アリエルに贈った。
「陛下。いくらなんでも、こんなには読めません」
一生かけても読めなさそうな本の山に、アリエルは気が遠くなった。
「いいんだよ。アリエルの好きなものを読むといい。欲しい本があれば言っておくれ。必ずや手に入れてあげよう」
「で、では、この本とか、お借りしてもいいですか……? 続編があるなんて知らなくて……。あ、でも、この本も読みたい……」
「何冊でも持って行って良いんだよ。ここにある本は全てアリエルのものだからね」
ユリアスは笑顔で、どの本を読むか吟味するアリエルを見守った。
「……これは。息を呑むような美しさだな」
「もったいないお言葉です」
「カロリーヌ、こっちにおいで。愛してやろう」
アリエルは大きなベットの上で、国王ユリアスに「こんなに愛しく思える女は初めてだ」と褒め称えながら情熱的に抱かれ、夜が明けるまでに何回も愛の証を身に受けて、初夜を済ませた。
ユリアスは「昨夜は素晴らしい夜であった」とアリエルを抱き締めながら囁いた。
「――で、貴方は誰なんだ? カロリーヌではないだろう?」
一呼吸を置いて、アリエルは答えた。
「何を仰っているのか、私には分かりかねます」
心の動揺を隠すように表情を失くすアリエルに、ユリアスはは慌てて補足した。
「あぁ、誤解のないように言っておくが、貴方は我が妻だ。貴方が何者であれ、手放すつもりはない。ただ、愛している人の名前が知りたい。それだけだ」
アリエルはユリアスの言葉に困惑した。
(どうしよう。ユリアス様は、私がカロリーヌではないことを察しているご様子だわ)
カロリーヌとユリアスが婚約者として逢ったのは、数年ほど前の話だ。たった1度、顔合わせのために逢っただけで、それ以降はカロリーヌの読み書きが不出来であったため、文通すらしていなかった。
「ばっかみたい。お母様とお父様のために人生を終わらせるつもり?」
カロリーヌは引っ込み思案なアリエルを常に見下しており、お世辞にも、それほど仲が良くなかった。けれども、カロリーヌの姉として、アリエルのことは知っているつもりだった。
(カロリーヌらしく振舞ったつもりだけど、気が付かない内に、カロリーヌらしくないことをしてしまったのかしら……)
一世一代の演技をしたつもりだった。カロリーヌでないと露見してしまうと、アリエルが愛している祖国に災いをもたらしてしまう。
それほど、この結婚には国同士の威信がかかっていた。アリエルの国は大国間に挟まれて領土を狙われており、大国に嫁ぎ、縁を結ぶということは国防上、重要なことだった。
本来嫁ぐのはカロリーヌの役目だった。それが秘かに想いを寄せ、付き合っていた貴族の青年と駆け落ちをしてしまい、両親が手を尽くして探していたが、いまだ行方不明だった。
「……私はカロリーヌです」
本当のことを言うべきなのか逡巡し、アリエルは口を噤むことを選んだ。アリエルは幼い頃から体が弱く、明るく活発なカロリーヌの影に立つようにして育った。
アリエルは気弱で慎み深く、カロリーヌとは似てにつかない性格をしていが、容姿はカロリーヌと瓜二つで両親さえも間違えるほどだった。
(もしかして、鎌をかけただけかもしれない。まだ陛下の中では、疑惑でしかないかもしれないわ。……ここで正体を晒すわけにいかない)
アリエルとしての自分は忘れ、よりカロリーヌらしく振舞えば、印象も変わるかもしれない。
(大丈夫。カロリーヌのように、自分に自信を持たなきゃ。臆病な私は死んだのよ。……今からでも取り繕えば、まだ間に合うわ)
一縷の望みを賭けて、アリエルはユリアスの瞳を見詰め、その視線から目を逸らさなかった。
「……そうか」
ユリアスは、それ以上聞かなかった。
だが、その口から立て続けに出てきた言葉に、アリエルは凍り付いた。
「私は以前、貴方と喋ったことがある。その時も貴方はカロリーヌと名乗っていたね。……私が結婚したかったのは、カロリーヌではなく、貴方だった。違和感は感じていた。けれど、緊張しているからだと思ったんだ。婚約した時は貴方と結婚出来るのかと思って喜んでいたんだよ」
ユリアスの言葉に、アリエルはある少年のことを思い出した。
(……あぁ、なんで忘れていたんだろう)
金の瞳、金の髪。成長し、精悍な顔立ちとなったが、そこにはアリエルが入り浸っていた書庫に迷い込んだ、かつての少年と同じ面影があった。
その時、アリエルは正体を隠すために、カロリーヌと名乗ったことを思い出した。両親に、もし誰かに名前を聞かれたら、カロリーヌということにしなさいと言いつけられていたからだ。
カロリーヌがお喋りを好むように、アリエルは本を好み、あまり人前に立つことを好まなかった。
今は、乗馬出来るほどに体調も良くなったが、姉妹が多かったことから、そのまま結婚はせずに忘れられた存在として、両親の老後の良き話し相手として傍にいることを選んだし、気持ちの優しいアリエルを愛した両親もそれを望んだ。
「頭の出来は良くないと思っていたが、ここまで愚かな娘だったとは……!」
だからこそ、カロリーヌの失踪と、その身代わりとして嫁がせる予定のなかった長女アリエルを供せなければなくなったことは、両親にとっては予想外であり、衝撃的な出来事だった。
「貴方を迎える前に、どんなものが好きなのか知りたくて、カロリーヌのことを調べさせたんだ。そこで愕然としたよ、姿形は良く似ているけど、私が恋した少女とは、まるで別人だったのだから。その時に、やっと貴方がカロリーヌでないことを知ったけど、その時には婚約を撤回することが出来なくなっていた。政略結婚でもあったからね」
ユリアスは、じっとアリエルの目を見詰めて、抱き締めた。
(もうこれ以上隠せない。陛下は真実を知っていらっしゃる)
自分が何者かなど関係ない。カロリーヌでなければならなかったのだ。
(お母様、お父様、ふがいない娘でごめんなさい。ご期待に添えることは出来ませんでした)
ポロポロと涙を零しながらアリエルは白状した。
「……アリエルと、申します」
「アリエル。……カロリーヌの姉君か……! よく似ているから血縁だろうと思って調べていたが、姉君の情報は殆どなかったんだよな……。やっと貴方の本当の名前を知ることが出来て嬉しいよ。泣く必要はない。私の愛はアリエル、貴方のものだ」
ユリアスはアリエルが泣いている理由を勘違いしていた。どんな理由があっても、己の愛情さえあれば解決すると思っていた。
大国の王であるがゆえの過信だった。
ユリアスはアリエルに愛を囁くと、深く口付けた。
(なぜだ? たまに、アリエルは物憂げな顔をするな……。カロリーヌの代わりに嫁いできたことは不問にすると約束しているのに、それ以外に何か不安なことでもあるのだろうか。やはりこれは調べておいたほうが良さそうだ)
いくら愛しても、アリエルの物憂げな顔が消えないことに心を痛め、ユリアスはカロリーヌではなくアリエルが嫁いできた事情を探った。
アリエルの心情を思い、なるべく触れないようにしていたが、目に見えてやつれていくのを見て、心配になったためだ。
(理由は把握したが……。これは公表できないし、私にとっても都合が悪いな)
ユリアスが愛しているのはカロリーヌではなくアリエルだが、世間的にはカロリーヌを娶っていることになっている。
(いまさらカロリーヌを娶る気などないし、アリエルを国に戻すことなど出来ない……。私のことを、まだ心から信用出来ていない証だろう。私のことを心から愛してもらえればいいだけの話だ。気が付かぬふりをして、この問題には触れないようにしよう)
ユリアスは見て見ぬふりをし、アリエルの信頼を勝ち取れるように努力をした。アリエルを変わらず寵愛し、その寵愛は年々深まっていった。
その結果、2人の間には子供が産まれた。それは、幼くして賢い子供だった。
「もうそんな本を読めるの?」
「うん。お母様、この本、面白いよ。お母様もお読みになりますか?」
アリエルは子供の勧めで、久しぶりに本を読んだ。
(懐かしい。久しぶりに読んだけど、また読みたいな……)
歳月が流れても、本の世界は変わらずアリエルを迎えてくれた。本はアリエルの心を大いに慰めてくれた。
(か、可愛い……! そうか、たしか初めて出逢った時も、本を持っていた……! 宝石やドレスを贈ってもあまり喜ばなかったが、これなら喜ぶかもしれない……!)
まるで出逢った頃のような、あまりにも眩い笑顔を見せるアリエルに、ユリアスの心は射抜かれた。
ユリアスは国中から本を買い集め、アリエルに贈った。
「陛下。いくらなんでも、こんなには読めません」
一生かけても読めなさそうな本の山に、アリエルは気が遠くなった。
「いいんだよ。アリエルの好きなものを読むといい。欲しい本があれば言っておくれ。必ずや手に入れてあげよう」
「で、では、この本とか、お借りしてもいいですか……? 続編があるなんて知らなくて……。あ、でも、この本も読みたい……」
「何冊でも持って行って良いんだよ。ここにある本は全てアリエルのものだからね」
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