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永久
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待合室に向かって立っていた瑠琉くんの体を、富士さんがそっとお兄ちゃんの示した方へと向けた。
「2週間前に永久さまと会ったんだろう? そのことで話があるんだけど、まずはオリエンテーションってとこかな」
「名前は知らなかった。
兄ちゃんが忙しかったのって刑事は表の顔だったってこと?」
「俺は普通の刑事だよ」
そんな会話が聞こえるなか、地下に行こうとほぼ同時に立ち上がった永久さまと獅堂さん。長椅子と長椅子の間から出たタイミングで、獅堂さんが永久さまと向き合うようにして立ち止まった。
「ちなみに一般的な高い高いはこう」
永久さまの両脇に手を入れて「はい、高いたかーい」と言って持ち上げて床にそっと着地させると、また普通に歩き出した。
そしてサプライズプレゼントを貰ったような永久さまの表情には触れずに、また地下へと歩き出し富士さんと話し始めた。
「富士家ではこれはやらんの?」
「小さい子にやるのは本当は良くないんですよ。まだ柔らかい脳が衝撃に耐えられないそうで。
かといって大きくなると持ち上げるのが大変だよなって話してた時に、ちょうどテレビで社交ダンスのこの技が流れて。試しにやってみてからこれが我が家の高い高いです。社交ダンスとしての技名が分からなかったので、きっかけになった高い高いをそのまま呼び名にしています」
「へー。何歳ごろやってたん?」
「末っ子が生まれた頃の一時期だけですよ」
瑠琉くんが赤ちゃんの時は富士さんといなかったからな。下の弟くんが生まれたタイミングで知ったのか。「1回」じゃなく「一時期」ってことは、瑠琉くんが赤ちゃん帰りとまでいかなくても淋しくなったんだろうか。それか運動神経が良いみたいだから単にハマったのかな。
地下に着いたら獅堂さんは永久さまを自分のぴったり斜め前に立たせた。波路くんに回してほしいのかと思ってたら、ちゃんと先に永久さまを回してあげるんだな。波路くんは壁際で授業参観みたいに立ってる。
そして。
俺のぴったり斜め後ろに立つお兄ちゃん。
「野島さん? 俺は別に」
俺の小声にお兄ちゃんも囁き返す。
「僕も別にちゃんとやってみたいリフトがありますが、折角の機会なのでこれも習っておきましょう」
違う。全然「も」じゃない。
でも変な情熱抜きでウキウキしているお兄ちゃんはもう少し見ていたいし、ここで恥ずかしいと言ったら永久さまが気にしてしまう。
富士さんは俺たちと向き合うようにして瑠琉くんと立った。
「テレビで見ただけなのであくまでも個人的な感覚ですよ?
回す方の肩を回る方の肩甲骨に引っ掛けるイメージです。
回る方は何かある?」
「ん~、両手をしっかり上げて伸びをする感じ? 腕を下ろすのは肩がはまってから」
獅堂さんは前向き。
「すぐに回った方がええの? 一旦上げるとこまで仕上げる?」
「上げた体勢にしっかりと慣れた方が。回らないなら回す方は手を離さないで下さい」
「よっしゃ」
獅堂さんが持ち上げようとしたら、永久さまが波路くんに向かって右腕を上下させた。
「波路。こちら側にいてくれますか?」
「え? は、はい」
波路くんが戸惑いながら、獅堂さんとで永久さまを挟むように立った。
あの獅堂さんが意表を突かれている?
それから穏やかな笑顔になった。
「ほないくでぇっ」
永久さまは回るところまでもすぐにできるようになって、獅堂さんと波路くんペアも、そして俺とお兄ちゃんもできるようになった。
回ってる時は浮遊感が楽しくて聞こえないフリをしていたけど、終わったら陰キャ部分の悲鳴と小言が凄い。
2階でお兄ちゃんと飲み物を用意しながら陰キャから気を逸らす事を探す。
「そういえば永久さまが波路くんに支えてって言った時、獅堂さんの空気なんだか微妙じゃありませんでした?」
「嬉しかったんでしょうね。
波路くんは20年前まで普通の熊でしたから、100歳以上や希少種がゴロゴロいるこの世界では軽く見られがちです。僕も永久さまがあそこまで差別無く接してくれるとは思いませんでした」
お兄ちゃんもちょっと嬉しそう。なんだかんだ言って仲が良いんだな。
ああ。この流れでめちゃくちゃ言いにくい事に気付いてしまった。
「これは医師としての見解で、俺は嫌だとか悪いとか全然思って無いですからね?」
「どうしました?」
「永久さまの肩、俗世の気に当たったんだろうって言ってましたよね。さっきみんなに触られてましたけど大丈夫でしょうか?」
お兄ちゃんは興味が無さそう。
「理由はあくまでも僕の予想ですし、自然と治るのだから大丈夫じゃないですか?
気になるのなら診察しますか?」
「せっかく楽しんでいるのだから、自然と診れる状況にできるかやってみます」
お兄ちゃんがピッチャーを強めにテーブルに置いた。
「そんな方法があるんですか!?
僕は着替えすらまともに見れずにいるのに!
どうしたら自然に良ちゃんの裸を見れるんですか!?」
俺が永久さまの裸を見たがってるみたいに言わないでほしい。
「落ち着いて下さい仕事中です。
そもそも裸を鑑賞したいのではなく皮膚を診察したいだけです」
それより今まで俺の着替えを見ようとしてたのか。男同士だからとは思いつつも診察台のパーテーションを使ってて良かった。一方的にがっつり見られるのはなんか嫌だ。
もしかして更衣室や休憩室が無いのってわざと?
これが片想いだったらとんでもないセクハラだぞ。
「2週間前に永久さまと会ったんだろう? そのことで話があるんだけど、まずはオリエンテーションってとこかな」
「名前は知らなかった。
兄ちゃんが忙しかったのって刑事は表の顔だったってこと?」
「俺は普通の刑事だよ」
そんな会話が聞こえるなか、地下に行こうとほぼ同時に立ち上がった永久さまと獅堂さん。長椅子と長椅子の間から出たタイミングで、獅堂さんが永久さまと向き合うようにして立ち止まった。
「ちなみに一般的な高い高いはこう」
永久さまの両脇に手を入れて「はい、高いたかーい」と言って持ち上げて床にそっと着地させると、また普通に歩き出した。
そしてサプライズプレゼントを貰ったような永久さまの表情には触れずに、また地下へと歩き出し富士さんと話し始めた。
「富士家ではこれはやらんの?」
「小さい子にやるのは本当は良くないんですよ。まだ柔らかい脳が衝撃に耐えられないそうで。
かといって大きくなると持ち上げるのが大変だよなって話してた時に、ちょうどテレビで社交ダンスのこの技が流れて。試しにやってみてからこれが我が家の高い高いです。社交ダンスとしての技名が分からなかったので、きっかけになった高い高いをそのまま呼び名にしています」
「へー。何歳ごろやってたん?」
「末っ子が生まれた頃の一時期だけですよ」
瑠琉くんが赤ちゃんの時は富士さんといなかったからな。下の弟くんが生まれたタイミングで知ったのか。「1回」じゃなく「一時期」ってことは、瑠琉くんが赤ちゃん帰りとまでいかなくても淋しくなったんだろうか。それか運動神経が良いみたいだから単にハマったのかな。
地下に着いたら獅堂さんは永久さまを自分のぴったり斜め前に立たせた。波路くんに回してほしいのかと思ってたら、ちゃんと先に永久さまを回してあげるんだな。波路くんは壁際で授業参観みたいに立ってる。
そして。
俺のぴったり斜め後ろに立つお兄ちゃん。
「野島さん? 俺は別に」
俺の小声にお兄ちゃんも囁き返す。
「僕も別にちゃんとやってみたいリフトがありますが、折角の機会なのでこれも習っておきましょう」
違う。全然「も」じゃない。
でも変な情熱抜きでウキウキしているお兄ちゃんはもう少し見ていたいし、ここで恥ずかしいと言ったら永久さまが気にしてしまう。
富士さんは俺たちと向き合うようにして瑠琉くんと立った。
「テレビで見ただけなのであくまでも個人的な感覚ですよ?
回す方の肩を回る方の肩甲骨に引っ掛けるイメージです。
回る方は何かある?」
「ん~、両手をしっかり上げて伸びをする感じ? 腕を下ろすのは肩がはまってから」
獅堂さんは前向き。
「すぐに回った方がええの? 一旦上げるとこまで仕上げる?」
「上げた体勢にしっかりと慣れた方が。回らないなら回す方は手を離さないで下さい」
「よっしゃ」
獅堂さんが持ち上げようとしたら、永久さまが波路くんに向かって右腕を上下させた。
「波路。こちら側にいてくれますか?」
「え? は、はい」
波路くんが戸惑いながら、獅堂さんとで永久さまを挟むように立った。
あの獅堂さんが意表を突かれている?
それから穏やかな笑顔になった。
「ほないくでぇっ」
永久さまは回るところまでもすぐにできるようになって、獅堂さんと波路くんペアも、そして俺とお兄ちゃんもできるようになった。
回ってる時は浮遊感が楽しくて聞こえないフリをしていたけど、終わったら陰キャ部分の悲鳴と小言が凄い。
2階でお兄ちゃんと飲み物を用意しながら陰キャから気を逸らす事を探す。
「そういえば永久さまが波路くんに支えてって言った時、獅堂さんの空気なんだか微妙じゃありませんでした?」
「嬉しかったんでしょうね。
波路くんは20年前まで普通の熊でしたから、100歳以上や希少種がゴロゴロいるこの世界では軽く見られがちです。僕も永久さまがあそこまで差別無く接してくれるとは思いませんでした」
お兄ちゃんもちょっと嬉しそう。なんだかんだ言って仲が良いんだな。
ああ。この流れでめちゃくちゃ言いにくい事に気付いてしまった。
「これは医師としての見解で、俺は嫌だとか悪いとか全然思って無いですからね?」
「どうしました?」
「永久さまの肩、俗世の気に当たったんだろうって言ってましたよね。さっきみんなに触られてましたけど大丈夫でしょうか?」
お兄ちゃんは興味が無さそう。
「理由はあくまでも僕の予想ですし、自然と治るのだから大丈夫じゃないですか?
気になるのなら診察しますか?」
「せっかく楽しんでいるのだから、自然と診れる状況にできるかやってみます」
お兄ちゃんがピッチャーを強めにテーブルに置いた。
「そんな方法があるんですか!?
僕は着替えすらまともに見れずにいるのに!
どうしたら自然に良ちゃんの裸を見れるんですか!?」
俺が永久さまの裸を見たがってるみたいに言わないでほしい。
「落ち着いて下さい仕事中です。
そもそも裸を鑑賞したいのではなく皮膚を診察したいだけです」
それより今まで俺の着替えを見ようとしてたのか。男同士だからとは思いつつも診察台のパーテーションを使ってて良かった。一方的にがっつり見られるのはなんか嫌だ。
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