如月万里は寒がりです

いつ

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 3分後に出てきたのは、一口サイズのショートブレッドが真ん中に二つ置かれているお皿が一つ。しょうゆ皿でもいいのにパスタも盛れるようなお皿にしたのはなんでだろう。

 ちなみにこの3分には手を洗ったり大勝たいしょうにお皿を出してもらったりした時間も含まれている。小さめのボディバッグから取り出しただけで、ここで料理はしていない。

 こんはそれを誰も座っていないイスの前に置いた。
一生いっせい、どっちが食べやすいですか?」
「あ、はい」
 一生いっせいが自然な流れで椅子に座る。また実験台かと思わないところがすごい。

 手を合わせて目を閉じて「いただきます」と言ってから食べ始めた。
 二つともを食べてから悩む。
「飲み込みやすいのはこっちですけど、味がしっかりついてるこっちの方が食べやすいといえば食べやすいような。あ、でも好みの別れる香りですかねえ」
「なるほど」

 こんは「味がしっかりついてる」と言われたのと同じ物をタッパーから取り出し、新しいお皿に置いて大勝たいしょうに出した。
「どうぞ召し上がれ」
「……いただきます」
 恐る恐る食べた大勝たいしょうが目を大きくして万里ばんりに報告する。
「お粥だ。七草がゆ」

 一生いっせいが「飲み込みやすい」と言った方をお皿に置いて万里ばんりに出すと、空いている椅子を大勝たいしょうの反対側の万里ばんりの隣に置いた。

 万里ばんりの方を向いて座って、近すぎてこんの左足が万里ばんりの後ろにある状態で見つめる。

「召し上がれ」
「……いただきます」

 顔を背けたいのを堪えつつも、できるだけこんが視界に入らないように食べる万里ばんり
 気まずそうに飲み込んだことにこんが気付いた。

「飲み込みにくいですか?」
「いえ、そんなことないです」
 飲み込みにくいんじゃなくて食べ辛いんだよ。

 こんはボディバッグから新しいタッパーを出した。
「それならこれはどうですか?」
 言いながら中身の一つをお皿に乗せる。

 万里ばんりは数秒後、一度も噛まずに飲み込んだ。
「なくなりました」
「これを5個かさっきのを1個食べろって言われたらどっちにしますか?」
「さっきの方ですね」

 今度は一生いっせいが「味がしっかりついている」と言った方をお皿に乗せる。
「これも食べられそうですかね」

 万里ばんりこんに観察されることに慣れたのか落ち着きを取り戻して、普通に食べた。
「じゃあこれもいけますか?」

 ボディバッグから新しいタッパーを取り出そうとしているこんに申し訳なさそうな万里ばんり
「あの、もうお腹いっぱいです」
「え~、もう一個だけでもいけませんか?」

 一生いっせいが右手を挙げた。
「俺はまだ全然いけますよ」
 いつでも全力だな。本当は休日だしこんの情報と万里ばんりの安全を守るだけでいいのに。
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