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万里が軽くシャワーを浴びている間に大勝がココアを作ってくれた。大勝は自分用のカフェオレと一緒にダイニングのテーブルに置く。
万里が両手でマグカップを持ってココアを一口飲む。ほっと息を吐いてテーブルに置いた瞬間、大勝は『待て』を解かれた犬のように質問攻めを始めた。
「先生になんて言われたの?
やっちゃいけないこととか、やった方がいいこととか。
ここにあんまり来てないって言ったのはなんで?
兄ちゃんが夢に堕ちないのは心の支えになってるものがあるからだって言ってた。それってなんだったの?」
万里は順番に答えていく。
「基本的には普通に生活していいって。
しばらくは週に一度……あの闇医者のところで検査をする」
検査の下りで万里の目線とトーンが落ちていった。
「よっぽどヤバイ人だったんだね」
頷きながらなんとか続ける。
「端末にされて意識が戻ったのは俺しかいないんだって言う時なんて目と目がほぼゼロ距離。
天海さんの処置にも原因があるらしいんだけど本当に奇跡だって言われて、毎週通うのも俺の健康診断じゃなくてその研究目的なの丸出しだった。他の被害者を治せるようになるならいいけど。
ここにそんなに来てないっていうのはそのまんまの意味だよ。一般的には多いかもしれないけど本当はもっと来たいのにって思ってたから」
万里はマグカップを少し持ち上げた。
「夢に堕ちなかった支えはこういうの」
不思議そうな顔の大勝に続ける。
「大勝はコーヒー派なのに冷えるからって俺には出さないだろ?
最初におんぶしたのも何となくだけど分かってたよ。暑がりなのにいつもくっついてくれるよな」
マグカップを置いて更に続ける。
「毎年初詣に行くと俺の分だけ甘酒を小さい鍋で熱めにしてくれたり、中庭で寝落ちしたら子供たちがコートを掛けてくれたり。
そういうの」
近所の小さな神社では三が日に甘酒が振舞われていて、誰が当番でも万里の分は温めてくれる。というか、近所の人たちが色々持ち寄って集まるから誰が当番かなんて誰もあまり気にしていない。
中庭で寝落ちした日は小柄な生徒が多くて、180センチを超える万里の体を覆うために全員のコートが掛かっていた。起きたらミノムシのようになっていた自分を思い出して自然と微笑む。
大勝も万里が庭で寝ていると生徒から聞いて、風邪をひかないようにとジンジャーミルクティーを作ってくれた。
大勝は生徒にもそれぞれに合わせた飲み物を用意する。今も食器棚にしまってある子供用のコップを見て温かい気持ちになる。
「兄ちゃん寒がりだもんね。干し柿とか好物用意しようとしたんだけど、買えても効果なかったか」
照れくさくて遠回しにしか言えなかった万里の言葉を、大勝はそのままに受け取った。
万里が両手でマグカップを持ってココアを一口飲む。ほっと息を吐いてテーブルに置いた瞬間、大勝は『待て』を解かれた犬のように質問攻めを始めた。
「先生になんて言われたの?
やっちゃいけないこととか、やった方がいいこととか。
ここにあんまり来てないって言ったのはなんで?
兄ちゃんが夢に堕ちないのは心の支えになってるものがあるからだって言ってた。それってなんだったの?」
万里は順番に答えていく。
「基本的には普通に生活していいって。
しばらくは週に一度……あの闇医者のところで検査をする」
検査の下りで万里の目線とトーンが落ちていった。
「よっぽどヤバイ人だったんだね」
頷きながらなんとか続ける。
「端末にされて意識が戻ったのは俺しかいないんだって言う時なんて目と目がほぼゼロ距離。
天海さんの処置にも原因があるらしいんだけど本当に奇跡だって言われて、毎週通うのも俺の健康診断じゃなくてその研究目的なの丸出しだった。他の被害者を治せるようになるならいいけど。
ここにそんなに来てないっていうのはそのまんまの意味だよ。一般的には多いかもしれないけど本当はもっと来たいのにって思ってたから」
万里はマグカップを少し持ち上げた。
「夢に堕ちなかった支えはこういうの」
不思議そうな顔の大勝に続ける。
「大勝はコーヒー派なのに冷えるからって俺には出さないだろ?
最初におんぶしたのも何となくだけど分かってたよ。暑がりなのにいつもくっついてくれるよな」
マグカップを置いて更に続ける。
「毎年初詣に行くと俺の分だけ甘酒を小さい鍋で熱めにしてくれたり、中庭で寝落ちしたら子供たちがコートを掛けてくれたり。
そういうの」
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中庭で寝落ちした日は小柄な生徒が多くて、180センチを超える万里の体を覆うために全員のコートが掛かっていた。起きたらミノムシのようになっていた自分を思い出して自然と微笑む。
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大勝は生徒にもそれぞれに合わせた飲み物を用意する。今も食器棚にしまってある子供用のコップを見て温かい気持ちになる。
「兄ちゃん寒がりだもんね。干し柿とか好物用意しようとしたんだけど、買えても効果なかったか」
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