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万里が帰って来たのは明け方だった。よっぽど疲れたようで階段を上ることもできずにソファに倒れ込む。
大勝が万里の部屋から布団を持って来るまでの間に完全に眠りに落ちていた。
万里の鼻先に耳を近づけて息をしていることを確かめてから布団を掛ける。普通に眠っているだけだと思えるまで寝顔を見つめてから自分の部屋に戻ると、布団を持ってリビングに戻った。
不安のせいか寒く感じられて寝付けない。大勝は布団から出て電気カーペットをつけてから、何重にも包んだ湯たんぽを用意して万里の足元に置いて布団に戻った。
数時間後、カーテン越しの日差しで先に起きたのは大勝だった。すぐに体を起こしてソファを見る。
万里が寝息を立てているのを確認してから身支度を始めた。合間合間に万里の呼吸を確かめながら。
今日は大晦日。如月家は物が少ないし大勝は掃除好きで普段から少しずつやっているから、大掃除といっても雨樋や窓、換気扇くらい。それも生徒のお父さんやご近所さんが12月に入ってから少しずつやってくれた。
大勝は170センチと身長だけみれば平均的。ただ祖父より二回りほど薄い体を心配してみんなが手伝ってくれる。故人となって十年近く経っても、大工だった祖父の逞しい体と無意識に比べてしまうらしい。
祖母の施設は大晦日から3日までは帰宅するか面会しないかの二択にしてほしいと言われている。祖母には予想通り帰りたくないと言われてしまった。女子会が楽しくて仕方がないらしい。
おせちは3日に母親が持って来てくれるから準備もいらない。
することがなくて万里を遠巻きにうろうろし続けていたらやっと目を開けた。
大勝は万里の瞼が動いた瞬間に気付いて凄い勢いで胸の辺りの床に正座をする。
「にいちゃん!」
驚いた万里が背もたれに体を押し付ける。
見つめてくる大勝の目をぼんやりと見つめ返しながら、二階に上がる気力もなくてソファに倒れ込んだことを思い出した。
「おはよう。布団と湯たんぽ、ありがとな」
大勝は飛びつきたいのを抑えて確認する。
「病院どうだった?先生なんだって?」
「……普通に生活できるって」
抱きつきたくてソワソワしていた顔が一気に曇る。実はあまり良くない診断だったのを隠しているのではと不安になった。
「今の間なに?」
万里は苦笑いして大勝の頭に優しく手を乗せた。
「本当に体は問題なかったよ。先生が怖すぎてフラッシュバックした」
「ほんとにそれだけ?」
頭に乗せていた手をポンポンと置き直した。
「それだけって、ほんとに怖かったんだからな。脳の名前を言いながらその場所を撫で回してきてハアハア言ってんの」
「そういう怖さ!?」
大勝が驚きつつもやっと笑ったのを見て万里が起き上がる。
どこがとは言えないけれど、これが誰でもない万里の動き方だと感じて大勝の声が弾む。
「お腹空いたでしょ?何がいい?」
万里は闇医者に食べさせられた栄養食を想い出して胃をさすった。
「いや。向こうで栄養食を食べさせられたし年越し蕎麦もたべたいから飲み物だけでいいや」
形は万里が勤めていた病院でも見た物、味も勉強会で試食した物とほぼ変わらなかった。それなのにあの闇医者に用意されて至近距離で見られながらというだけで全く違う物に感じて口直しをしたかった。今は栄養よりも癒しが欲しい。
大勝が万里の部屋から布団を持って来るまでの間に完全に眠りに落ちていた。
万里の鼻先に耳を近づけて息をしていることを確かめてから布団を掛ける。普通に眠っているだけだと思えるまで寝顔を見つめてから自分の部屋に戻ると、布団を持ってリビングに戻った。
不安のせいか寒く感じられて寝付けない。大勝は布団から出て電気カーペットをつけてから、何重にも包んだ湯たんぽを用意して万里の足元に置いて布団に戻った。
数時間後、カーテン越しの日差しで先に起きたのは大勝だった。すぐに体を起こしてソファを見る。
万里が寝息を立てているのを確認してから身支度を始めた。合間合間に万里の呼吸を確かめながら。
今日は大晦日。如月家は物が少ないし大勝は掃除好きで普段から少しずつやっているから、大掃除といっても雨樋や窓、換気扇くらい。それも生徒のお父さんやご近所さんが12月に入ってから少しずつやってくれた。
大勝は170センチと身長だけみれば平均的。ただ祖父より二回りほど薄い体を心配してみんなが手伝ってくれる。故人となって十年近く経っても、大工だった祖父の逞しい体と無意識に比べてしまうらしい。
祖母の施設は大晦日から3日までは帰宅するか面会しないかの二択にしてほしいと言われている。祖母には予想通り帰りたくないと言われてしまった。女子会が楽しくて仕方がないらしい。
おせちは3日に母親が持って来てくれるから準備もいらない。
することがなくて万里を遠巻きにうろうろし続けていたらやっと目を開けた。
大勝は万里の瞼が動いた瞬間に気付いて凄い勢いで胸の辺りの床に正座をする。
「にいちゃん!」
驚いた万里が背もたれに体を押し付ける。
見つめてくる大勝の目をぼんやりと見つめ返しながら、二階に上がる気力もなくてソファに倒れ込んだことを思い出した。
「おはよう。布団と湯たんぽ、ありがとな」
大勝は飛びつきたいのを抑えて確認する。
「病院どうだった?先生なんだって?」
「……普通に生活できるって」
抱きつきたくてソワソワしていた顔が一気に曇る。実はあまり良くない診断だったのを隠しているのではと不安になった。
「今の間なに?」
万里は苦笑いして大勝の頭に優しく手を乗せた。
「本当に体は問題なかったよ。先生が怖すぎてフラッシュバックした」
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頭に乗せていた手をポンポンと置き直した。
「それだけって、ほんとに怖かったんだからな。脳の名前を言いながらその場所を撫で回してきてハアハア言ってんの」
「そういう怖さ!?」
大勝が驚きつつもやっと笑ったのを見て万里が起き上がる。
どこがとは言えないけれど、これが誰でもない万里の動き方だと感じて大勝の声が弾む。
「お腹空いたでしょ?何がいい?」
万里は闇医者に食べさせられた栄養食を想い出して胃をさすった。
「いや。向こうで栄養食を食べさせられたし年越し蕎麦もたべたいから飲み物だけでいいや」
形は万里が勤めていた病院でも見た物、味も勉強会で試食した物とほぼ変わらなかった。それなのにあの闇医者に用意されて至近距離で見られながらというだけで全く違う物に感じて口直しをしたかった。今は栄養よりも癒しが欲しい。
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