如月万里は寒がりです

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「勝負?」
 龍季たつきは頷きながら、組んでいた腕をほどいて胡坐の足首の辺りに手を置いた。
「この体、実は細工に失敗してるんよ」
「細工?失敗?」
 大勝たいしょうは無意識に胡坐のまま万里ばんりの正面を向いた。

「こんなに休憩が必要なんは初めてやし、俺やなかったらこんな普通に動けてないで?
 原因は今君が話したことかもしれん」
 ピンとこない大勝たいしょうに続ける。
「実際に夢は見てるんやから、めちゃくちゃショックなことがあったんは確かや。
 それでも思い通りの夢よりも良いと思える、どんだけショックなことがあっても心の支えになる何かが万里ばんりにはある。それが分かれば」

 大勝たいしょうは乗り出して両手をついた。
「起きるかもってことですか!?」
「分からん。それが勝負や。
 期限は1月3日。
 万里ばんりを起こすことができたら君の勝ち。この体を返す。
 君を絶望させられたら俺の勝ち。その体を貰うし万里ばんりもこのまま使わせてもらう。
 もちろん他言は厳禁。口封じから守りたいならな」

 大勝たいしょうは背中が冷たくなるのを感じた。兄と自分の命運が今から約一週間の自分に掛かっている。
 どんなに理想的な内容でも眠って夢を見ているだけの状態を幸せとは思えない。それに恐ろしいのは体を使われるということ。

 万里ばんりに迫っていた体を戻して正座になった。
「この体を貰ってどうするんですか?」
「誰かが使うやろね。
 若い体で動きたい人かもしれんし、男になりたい人かもしれん」

「あなたはどうして兄ちゃんの体に?」
 龍季たつきは右手を数回振った。
「俺はただのテストプレーヤー。人生圧勝組に使われとる小市民や」
「人生って勝ち負けじゃないと思います」
「はいはい。
 で?勝負するん?
 せんねやったら万里ばんりとは体ともこれでお別れやね。ここへは不具合の解決策が見つかればと思って来ただけやから。
 この体はB級品として安く売るわ」

 大勝たいしょうは立ち上がって部屋を出ようとする万里ばんりの手首を慌てて掴んだ。
「やります!」
 そして振り向く前にその背中に向かってジャンプした。

 場の支配者は自分だと思っていたのに突然のおんぶに慌てて後ろを見ようとする龍季たつき。向きを変えても背中にくっついている大勝たいしょうを見ることはできないのに。

「なにしてるん!?」
「兄ちゃんは冬に俺をおんぶするのが好きでした。寒がりなので」
 それから話し掛けている相手が変わったと分かる声になる。
「兄ちゃん、起きて」

 5秒の沈黙。
「残念」
 面白がる風ではなく言って、腕をほどきながら体を反らせて大勝たいしょうを降ろして襖を開ける。

 大勝たいしょうは優しい動きに従って素直に降りたものの、部屋を出ようとする万里ばんりにまた抱きついた。
「勝負は1月3日までですよね!?」
「どこにも行かんよ。とりあえずご飯にしようや。この体、今日はリンゴ三切れしか食べてない」

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