5 / 23
1
5
しおりを挟む
「勝負?」
龍季は頷きながら、組んでいた腕をほどいて胡坐の足首の辺りに手を置いた。
「この体、実は細工に失敗してるんよ」
「細工?失敗?」
大勝は無意識に胡坐のまま万里の正面を向いた。
「こんなに休憩が必要なんは初めてやし、俺やなかったらこんな普通に動けてないで?
原因は今君が話したことかもしれん」
ピンとこない大勝に続ける。
「実際に夢は見てるんやから、めちゃくちゃショックなことがあったんは確かや。
それでも思い通りの夢よりも良いと思える、どんだけショックなことがあっても心の支えになる何かが万里にはある。それが分かれば」
大勝は乗り出して両手をついた。
「起きるかもってことですか!?」
「分からん。それが勝負や。
期限は1月3日。
万里を起こすことができたら君の勝ち。この体を返す。
君を絶望させられたら俺の勝ち。その体を貰うし万里もこのまま使わせてもらう。
もちろん他言は厳禁。口封じから守りたいならな」
大勝は背中が冷たくなるのを感じた。兄と自分の命運が今から約一週間の自分に掛かっている。
どんなに理想的な内容でも眠って夢を見ているだけの状態を幸せとは思えない。それに恐ろしいのは体を使われるということ。
万里に迫っていた体を戻して正座になった。
「この体を貰ってどうするんですか?」
「誰かが使うやろね。
若い体で動きたい人かもしれんし、男になりたい人かもしれん」
「あなたはどうして兄ちゃんの体に?」
龍季は右手を数回振った。
「俺はただのテストプレーヤー。人生圧勝組に使われとる小市民や」
「人生って勝ち負けじゃないと思います」
「はいはい。
で?勝負するん?
せんねやったら万里とは体ともこれでお別れやね。ここへは不具合の解決策が見つかればと思って来ただけやから。
この体はB級品として安く売るわ」
大勝は立ち上がって部屋を出ようとする万里の手首を慌てて掴んだ。
「やります!」
そして振り向く前にその背中に向かってジャンプした。
場の支配者は自分だと思っていたのに突然のおんぶに慌てて後ろを見ようとする龍季。向きを変えても背中にくっついている大勝を見ることはできないのに。
「なにしてるん!?」
「兄ちゃんは冬に俺をおんぶするのが好きでした。寒がりなので」
それから話し掛けている相手が変わったと分かる声になる。
「兄ちゃん、起きて」
5秒の沈黙。
「残念」
面白がる風ではなく言って、腕をほどきながら体を反らせて大勝を降ろして襖を開ける。
大勝は優しい動きに従って素直に降りたものの、部屋を出ようとする万里にまた抱きついた。
「勝負は1月3日までですよね!?」
「どこにも行かんよ。とりあえずご飯にしようや。この体、今日はリンゴ三切れしか食べてない」
龍季は頷きながら、組んでいた腕をほどいて胡坐の足首の辺りに手を置いた。
「この体、実は細工に失敗してるんよ」
「細工?失敗?」
大勝は無意識に胡坐のまま万里の正面を向いた。
「こんなに休憩が必要なんは初めてやし、俺やなかったらこんな普通に動けてないで?
原因は今君が話したことかもしれん」
ピンとこない大勝に続ける。
「実際に夢は見てるんやから、めちゃくちゃショックなことがあったんは確かや。
それでも思い通りの夢よりも良いと思える、どんだけショックなことがあっても心の支えになる何かが万里にはある。それが分かれば」
大勝は乗り出して両手をついた。
「起きるかもってことですか!?」
「分からん。それが勝負や。
期限は1月3日。
万里を起こすことができたら君の勝ち。この体を返す。
君を絶望させられたら俺の勝ち。その体を貰うし万里もこのまま使わせてもらう。
もちろん他言は厳禁。口封じから守りたいならな」
大勝は背中が冷たくなるのを感じた。兄と自分の命運が今から約一週間の自分に掛かっている。
どんなに理想的な内容でも眠って夢を見ているだけの状態を幸せとは思えない。それに恐ろしいのは体を使われるということ。
万里に迫っていた体を戻して正座になった。
「この体を貰ってどうするんですか?」
「誰かが使うやろね。
若い体で動きたい人かもしれんし、男になりたい人かもしれん」
「あなたはどうして兄ちゃんの体に?」
龍季は右手を数回振った。
「俺はただのテストプレーヤー。人生圧勝組に使われとる小市民や」
「人生って勝ち負けじゃないと思います」
「はいはい。
で?勝負するん?
せんねやったら万里とは体ともこれでお別れやね。ここへは不具合の解決策が見つかればと思って来ただけやから。
この体はB級品として安く売るわ」
大勝は立ち上がって部屋を出ようとする万里の手首を慌てて掴んだ。
「やります!」
そして振り向く前にその背中に向かってジャンプした。
場の支配者は自分だと思っていたのに突然のおんぶに慌てて後ろを見ようとする龍季。向きを変えても背中にくっついている大勝を見ることはできないのに。
「なにしてるん!?」
「兄ちゃんは冬に俺をおんぶするのが好きでした。寒がりなので」
それから話し掛けている相手が変わったと分かる声になる。
「兄ちゃん、起きて」
5秒の沈黙。
「残念」
面白がる風ではなく言って、腕をほどきながら体を反らせて大勝を降ろして襖を開ける。
大勝は優しい動きに従って素直に降りたものの、部屋を出ようとする万里にまた抱きついた。
「勝負は1月3日までですよね!?」
「どこにも行かんよ。とりあえずご飯にしようや。この体、今日はリンゴ三切れしか食べてない」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる