マジカルカシマ

いつ

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目を開けると

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「マジ!カルカシマ!!」

 完全な静寂。

 恐る恐る腕をほどいて顔を上げると黒一色。お兄ちゃんの背中だ。背中越しに顔を出すとマジカルカシマはいなくて、特に壊れたり傷ついたりしてる所もない。
「兄さん? 大丈夫?」
「僕は大丈夫です」

 ひと通り周りを警戒してから、異常は無かったみたいで優しく心配そうに俺を見た。
「良ちゃんは?
 不調だけでなく些細な違和感でも、ちゃんと確認して下さい」

 目を閉じる。体温、呼吸異常なし。頚動脈けいどうみゃくに指を当てる。少し速いのは仕方ない、許容範囲内だ。耳鳴じめい、吐き気、痛み、倦怠感無し。
 目を開けてお兄ちゃんの目を見る。
「大丈夫だよ。驚いてるだけ」

 お兄ちゃんが片手を俺の背中に添えて促す。
「とりあえず中へ」

 ドアを開けると尾張さんを背中で庇うようにしてキリトが立っていた。

 お兄ちゃんがドアを閉める。
「座りましょう。配達物について聞かせて下さい」

 キリトは座りながら動揺してる。
「ご飯が原因だったの?」
 お兄ちゃんは座る前にゴミ箱の前に置いてある紙袋を持ってきた。そこに料理のパックやケーキの箱が入ってる。
「キリトくんのせいではありませんよ。
 それに誰のせいかよりも、大事なのは良ちゃんから危険がなくなることです」
 相変わらず過保護だな。

 紙袋の文字を見てるお兄ちゃんに自己申告。
「りーちゃんのお店だよ」
 お兄ちゃんはすぐに分かってくれた。
「良ちゃんに妙に懐かれている従姉いとこの荒井里雨りうさん。
 それで、マジカルカシマと書かれた何をどうしたんですか?」

 なんか棘がないか? と思いつつ俺が答えようとした口にお兄ちゃんの人差し指が当てられる。
「良ちゃんはあのぬいぐるみの名前を言ってはいけません。それを踏まえて教えて下さい」
 いっそ掌でガバッと口を覆ってくれた方が意識しないで済むからありがたい。なんだろうこの妙なムードというかオーラ。

 俺が頷いたのに「いい子だね」って穏やかな表情のまま離れない人差し指をそっと離して説明する。
「ケーキに乗ってたチョコプレートに書いてあったんだ。それとケーキ自体には本当はほとんどデコレーションがされてなくて『OPEN』って書いてあった。お店か何かで、後で何があったか知ったら気まずいかなって思ってプレートは食べてケーキの文字は生クリームで隠した」
「プレートは良ちゃん1人で食べたんですか?」

 尾張さんが説明してくれる。
「俺はホワイトチョコが苦手で全部食べてもらいました。
 お店の名前じゃなかったってことですか?」

 考え込むお兄ちゃんに代わって俺が答える。
「話の流れで書いてあった文字を言っただけで『はーい』ってぬいぐるみが出てきたんです。それで」
 お兄ちゃんが手の動きで俺を止める。やば。技名を言うところだった。つまり名前じゃないか。

 お兄ちゃんはそれで止めたんじゃなかった。
獅堂しどうくんです」
 獅堂さんは陰陽師で、強力な術者同士はこうやって話せるらしい。
「はい。すみません、今は取り込み中です」
 いいなあ、スマホいらず。
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