幼馴染をわからせたい ~実は両想いだと気が付かない二人は、今日も相手を告らせるために勝負(誘惑)して空回る~

下城米雪

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デート(土曜日) 後編

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「奇跡だね。隣が空いてるなんて思わなかったよ」

 俺は今、劇場に居ます。

「本当にありがとね。こんなことに付き合って貰って」
「いえ、いつもお世話になってますから」

 中列の真ん中付近にある席。
 スクリーンの中心が、ちょうど視線の高さに来る良い位置。

「お目当ての特典は手に入りましたか?」
「一番は逃しちゃったけど……えっへへ、家宝にするね」

 嬉しそうで何よりです。
 要するに、先輩の目的は映画の特典でした。

 これはアニメ系の恋愛映画らしく、カップル限定の来場者特典があるそうです。
 特典はキャラクターの描かれた色紙。俺には価値が分からないですが、先輩は特典を両手にとても上機嫌です。

「映画代、本当に大丈夫ですか?」
「平気だよ。これネットで買おうとしたらチケットより高いし、転売屋を儲けさせるの絶対に嫌だし」
「……そうですか」

「それより後輩くん! せっかくだから映画楽しんでよ!」
「はい。これ、どんな映画なんですか?」
「あー、そうだね。ちょっとは事前情報あった方が楽しめるかも」

 先輩は嬉しそうに説明を始めた。
 
 舞台は神奈川県にある高校。
 海の近くにある場所で様々な超常現象が起きる。
 そして、その現象に巻き込まれた少女達の物語が描かれる。

 超常現象は、いわゆる心の傷によって起きるらしい。
 例えば「後悔」から一日が繰り返されるとか「目立ちたくない」が行き過ぎて誰にも認識されなくなるとか。それらをお人好しな主人公が解決していく内容だそうだ。

「それでね? この映画は、ついに主人公くんの心の闇に迫るお話なんだよ」
「みんな闇があるんですね」
「思春期だからね。後輩くんだって、色々あるでしょう?」
「……まぁ、否定はできないですね」

 そんなこんなで映画が始まった。完全に続き物という感じで、先輩から事前情報を得られなかったら分からないことが多かったかもしれない。

 結論だけ言えば、面白かった。
 こういう話を見るのは新鮮で素直に楽しんでしまった。

「──面白かったね!」

 映画の後、俺は先輩と近くのカフェに入った。

「もちろん原作で内容は知ってたし昨夜も二回は読み直したんだけどそれでもやっぱり映像で見ると違うというかアニメの時から分かってたことだけど監督さんの原作理解力が高くて見事に行間を埋めてくれているというかそれよりなにより声優さんの熱演で文字だけの世界に色が付いたというかとにかくもう最高だったよね!」

(……よく一息で言えますね)

「そうですね」

 とりあえず無難に返事をして、注文したアイスコーヒーを飲む。

「後輩くんはどうだった?」
「面白かったですよ」
「だよね! どの場面が好きだった?」
「主人公が過去の自分に電話するシーン、覚えてます?」
「え~、あそこ? 後輩くん渋いなぁ~」

 その後も二人で映画の感想を言い合いました。
 先輩は映画を観て興奮しているのか、普段よりもずっと饒舌でした。

 正直いくらか温度差を感じるものの、ここまで楽しそうな姿を見るのは、悪い気分ではありません。むしろ、微笑ましいです。

「後輩くん、すっかり落ち着いたね」

 しかし微笑ましい気持ちになっていたのは、彼女も同じだったようです。

「まあ、凹んでばかりもいられないので」
「いいね。前向きだね」
「はい。先輩のおかげです」
「えー、お世辞は良いよぉ」
「本心ですよ。楽しそうな先輩を見てたら、元気が出ます」
「ん-、確かに分けたいくらい幸せかも。ほんと良い映画だった」
「そうですね。そのうち原作も読んでみようと思います」
「いいね! 部室に全巻あるから、いつでも読みに来てね!」
「はい、そうさせて貰います」

 こんな風に話をしていたら、あっという間に時間が過ぎ去った。

「後輩くん、今日は付き合ってくれてありがとね」
「いえ、俺も楽しかったです」

 別れ際、駅のホームで会話する。

「それに、芽衣と来る前の良い予習になりました」
「あー、後輩くん、それは無い。最悪だよ。二人で居る時に他の子の話するなんて」
「……すみません」
「あはは、冗談だよ。でも明日は気を付けてね。私の影とか出したら、その子きっと怒るから」
「……肝に銘じます」

 先輩は俺の腹部に軽く拳を当てました。

「がんばってね」
「はい」

 この日は、それで終わり。
 俺は偶然の出会いに対する感謝を胸に、帰宅しました。

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