幼馴染をわからせたい ~実は両想いだと気が付かない二人は、今日も相手を告らせるために勝負(誘惑)して空回る~

下城米雪

文字の大きさ
上 下
31 / 34

デート(土曜日) 前編

しおりを挟む
*  映画館  *


 学校の勉強に何の意味があるのか、という命題がある。
 これについて「数学は〇〇に使う」とか「理科は〇〇に役立つ」などと答える者はセンスが無い。

 試験とは、人生の予行演習である。

 人生は常に未知と隣り合わせであり、試行錯誤が求められる。
 試験で百点を取れる人間は、未知と遭遇した時にも百点が取れる。
 しかし試験で十点しか取れない人間は、未知に対して無力なのだ。

 故に企業は偏差値の高い学生を求める。
 与えた課題に対して、高得点を取れる確率が高いからだ。

 故に。俺は予習と復習を欠かさないことにしています。
 だから土曜日の今、下見のため映画館に足を運んだのです。

(ふむ、人が多いですね)

 券売機付近など酷い有り様です。
 それほど人口の多い知識ではないのですが、娯楽施設も少ないから、用事のある人が一か所に集まることで、このような人口密度になるのでしょう。

(芽衣は、こういう場所を嫌いそうですね)

 人が多いだけではなく、列に秩序が無い。
 どの列がどの券売機に繋がっているのか一目で分からない程です。

(何の映画を観るか聞くべきでした)

 そもそも、この様子で当日券など手に入るのでしょうか?

(……まぁ、芽衣なら計算しているでしょうね)

 困りました。
 せっかく足を運んだのに、やれることが無い。
 
(チケット、ネットで買えないのでしょうか?)

 ふと思い付いて、スマホを手に取る。
 それからチケットの買い方を調査して……スマホのまとめて支払いが可能ですね。これは収穫です。帰ったら親に相談しましょう。そうすれば、明日は芽衣と移動しながらチケットを購入できます。

(時間を潰す場所を見つける必要がありそうですね)

 ここは大型ショッピングモールの中。
 少し歩けばゲームセンターや本屋、レストランなど何でもある。

(……懐かしい)

 小学生の頃、何回か一緒に来たことを思い出した。
 確か、親に連れられて来た。二人で僅かなお小遣いを握り締めてゲームセンターへ行き、クレーンゲームに全て吸い取られたことを覚えています。 

(多少、予習しておきましょうか)

 もちろんお金は使わない。
 他の人のプレイを見て、イメージトレーニングをするだけです。今の芽衣はゲームセンターに興味が無いかもしれないですが、無駄にはならないでしょう。

 ──と、そこまで考えた直後だった。

「あれ? 後輩くん?」

 聞き覚えのある声に振り返る。

「やっぱり後輩くんだ!」

 謎のお姉さんが駆け寄ってくる。

「えっと、あれ? 人違い、でしたか? 私、白柳ですけど……」

「……ああ! 先輩でしたか!」

「ええぇぇ? 本当に分からなかったの?」

「すみません。私服だと印象が違ったもので」

 失礼を承知で言えば制服を着た先輩には地味な印象があった。
 しかし私服の彼女は、キラキラ系である。年上感が増しており、大学生と言われても違和感が無い。

「大人っぽくて素敵な服ですね」

「なーんか。普段は大人っぽくないって言われた気がするなー?」

「先輩も映画を観に来たんですか?」

 俺は話を逸らすことにした。
 
「うん! 推してるアニメの劇場版が公開中だから観に来た!」

 良い笑顔です。
 先輩、本当にアニメが好きみたいだ。

「あー、そっか。推しにかわいい自分を見せるために、お化粧してるんだ。後輩くんが分からなかったのは、そのせいかもね」

「化粧ですか?」

 先輩の顔をじっと見る。

「……後輩くん? じっと見過ぎだよ?」

「すみません。かわいいと言うべきか、綺麗と言うべきか、悩んでました」

「あはは、ありがとね。そういう時は、最初に思った方を言ったら良いと思うよ」

「じゃあ、綺麗ですね」

「じゃあってなんだよ。雑だなぁ」

 先輩は呆れたような表情をする。

「それで、後輩くんはどうしてここに? デート、日曜日でしょ?」

「下見です。あと、デートではなくお詫びです」

「下見! 真面目だねぇ……」

「恐縮です。それより先輩、チケットの列に並ばなくて大丈夫ですか?」

「席は確保してあるから平気だよ! 後は発券するだけ」

「手際が良いですね」

「そうでしょう!」

 先輩は得意気に胸を張った。
 映画が楽しみなのか、今日は少しテンションが高いようです。

「じゃ、私列に並ぶね」

「はい。それではまた学校で」

「うん、また……あ、待って!」

「なんですか?」

「……いや、えっと、その、迷惑だったら断ってくれて良いんだけどさ」

「何でも言ってください。先輩にはお世話になってますから」

「……なんでも?」

「はい、なんでも」

「じゃあ今日だけ彼氏になって」

 雑談の一部みたいな流れで、先輩は言った。
 俺は何を言われたのか分からなくて、パチパチと瞬きを繰り返す。

「……はい?」

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

浦島子(うらしまこ)

wawabubu
青春
大阪の淀川べりで、女の人が暴漢に襲われそうになっていることを助けたことから、いい関係に。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

恐喝されている女の子を助けたら学校で有名な学園三大姫の一人でした

恋狸
青春
 特殊な家系にある俺、こと狭山渚《さやまなぎさ》はある日、黒服の男に恐喝されていた白海花《しらみはな》を助ける。 しかし、白海は学園三大姫と呼ばれる有名美少女だった!?  さらには他の学園三大姫とも仲良くなり……?  主人公とヒロイン達が織り成すラブコメディ!  小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。  カクヨムにて、月間3位

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。

ながしょー
青春
 ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。  このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

処理中です...