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デート(土曜日) 前編
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* 映画館 *
学校の勉強に何の意味があるのか、という命題がある。
これについて「数学は〇〇に使う」とか「理科は〇〇に役立つ」などと答える者はセンスが無い。
試験とは、人生の予行演習である。
人生は常に未知と隣り合わせであり、試行錯誤が求められる。
試験で百点を取れる人間は、未知と遭遇した時にも百点が取れる。
しかし試験で十点しか取れない人間は、未知に対して無力なのだ。
故に企業は偏差値の高い学生を求める。
与えた課題に対して、高得点を取れる確率が高いからだ。
故に。俺は予習と復習を欠かさないことにしています。
だから土曜日の今、下見のため映画館に足を運んだのです。
(ふむ、人が多いですね)
券売機付近など酷い有り様です。
それほど人口の多い知識ではないのですが、娯楽施設も少ないから、用事のある人が一か所に集まることで、このような人口密度になるのでしょう。
(芽衣は、こういう場所を嫌いそうですね)
人が多いだけではなく、列に秩序が無い。
どの列がどの券売機に繋がっているのか一目で分からない程です。
(何の映画を観るか聞くべきでした)
そもそも、この様子で当日券など手に入るのでしょうか?
(……まぁ、芽衣なら計算しているでしょうね)
困りました。
せっかく足を運んだのに、やれることが無い。
(チケット、ネットで買えないのでしょうか?)
ふと思い付いて、スマホを手に取る。
それからチケットの買い方を調査して……スマホのまとめて支払いが可能ですね。これは収穫です。帰ったら親に相談しましょう。そうすれば、明日は芽衣と移動しながらチケットを購入できます。
(時間を潰す場所を見つける必要がありそうですね)
ここは大型ショッピングモールの中。
少し歩けばゲームセンターや本屋、レストランなど何でもある。
(……懐かしい)
小学生の頃、何回か一緒に来たことを思い出した。
確か、親に連れられて来た。二人で僅かなお小遣いを握り締めてゲームセンターへ行き、クレーンゲームに全て吸い取られたことを覚えています。
(多少、予習しておきましょうか)
もちろんお金は使わない。
他の人のプレイを見て、イメージトレーニングをするだけです。今の芽衣はゲームセンターに興味が無いかもしれないですが、無駄にはならないでしょう。
──と、そこまで考えた直後だった。
「あれ? 後輩くん?」
聞き覚えのある声に振り返る。
「やっぱり後輩くんだ!」
謎のお姉さんが駆け寄ってくる。
「えっと、あれ? 人違い、でしたか? 私、白柳ですけど……」
「……ああ! 先輩でしたか!」
「ええぇぇ? 本当に分からなかったの?」
「すみません。私服だと印象が違ったもので」
失礼を承知で言えば制服を着た先輩には地味な印象があった。
しかし私服の彼女は、キラキラ系である。年上感が増しており、大学生と言われても違和感が無い。
「大人っぽくて素敵な服ですね」
「なーんか。普段は大人っぽくないって言われた気がするなー?」
「先輩も映画を観に来たんですか?」
俺は話を逸らすことにした。
「うん! 推してるアニメの劇場版が公開中だから観に来た!」
良い笑顔です。
先輩、本当にアニメが好きみたいだ。
「あー、そっか。推しにかわいい自分を見せるために、お化粧してるんだ。後輩くんが分からなかったのは、そのせいかもね」
「化粧ですか?」
先輩の顔をじっと見る。
「……後輩くん? じっと見過ぎだよ?」
「すみません。かわいいと言うべきか、綺麗と言うべきか、悩んでました」
「あはは、ありがとね。そういう時は、最初に思った方を言ったら良いと思うよ」
「じゃあ、綺麗ですね」
「じゃあってなんだよ。雑だなぁ」
先輩は呆れたような表情をする。
「それで、後輩くんはどうしてここに? デート、日曜日でしょ?」
「下見です。あと、デートではなくお詫びです」
「下見! 真面目だねぇ……」
「恐縮です。それより先輩、チケットの列に並ばなくて大丈夫ですか?」
「席は確保してあるから平気だよ! 後は発券するだけ」
「手際が良いですね」
「そうでしょう!」
先輩は得意気に胸を張った。
映画が楽しみなのか、今日は少しテンションが高いようです。
「じゃ、私列に並ぶね」
「はい。それではまた学校で」
「うん、また……あ、待って!」
「なんですか?」
「……いや、えっと、その、迷惑だったら断ってくれて良いんだけどさ」
「何でも言ってください。先輩にはお世話になってますから」
「……なんでも?」
「はい、なんでも」
「じゃあ今日だけ彼氏になって」
雑談の一部みたいな流れで、先輩は言った。
俺は何を言われたのか分からなくて、パチパチと瞬きを繰り返す。
「……はい?」
学校の勉強に何の意味があるのか、という命題がある。
これについて「数学は〇〇に使う」とか「理科は〇〇に役立つ」などと答える者はセンスが無い。
試験とは、人生の予行演習である。
人生は常に未知と隣り合わせであり、試行錯誤が求められる。
試験で百点を取れる人間は、未知と遭遇した時にも百点が取れる。
しかし試験で十点しか取れない人間は、未知に対して無力なのだ。
故に企業は偏差値の高い学生を求める。
与えた課題に対して、高得点を取れる確率が高いからだ。
故に。俺は予習と復習を欠かさないことにしています。
だから土曜日の今、下見のため映画館に足を運んだのです。
(ふむ、人が多いですね)
券売機付近など酷い有り様です。
それほど人口の多い知識ではないのですが、娯楽施設も少ないから、用事のある人が一か所に集まることで、このような人口密度になるのでしょう。
(芽衣は、こういう場所を嫌いそうですね)
人が多いだけではなく、列に秩序が無い。
どの列がどの券売機に繋がっているのか一目で分からない程です。
(何の映画を観るか聞くべきでした)
そもそも、この様子で当日券など手に入るのでしょうか?
(……まぁ、芽衣なら計算しているでしょうね)
困りました。
せっかく足を運んだのに、やれることが無い。
(チケット、ネットで買えないのでしょうか?)
ふと思い付いて、スマホを手に取る。
それからチケットの買い方を調査して……スマホのまとめて支払いが可能ですね。これは収穫です。帰ったら親に相談しましょう。そうすれば、明日は芽衣と移動しながらチケットを購入できます。
(時間を潰す場所を見つける必要がありそうですね)
ここは大型ショッピングモールの中。
少し歩けばゲームセンターや本屋、レストランなど何でもある。
(……懐かしい)
小学生の頃、何回か一緒に来たことを思い出した。
確か、親に連れられて来た。二人で僅かなお小遣いを握り締めてゲームセンターへ行き、クレーンゲームに全て吸い取られたことを覚えています。
(多少、予習しておきましょうか)
もちろんお金は使わない。
他の人のプレイを見て、イメージトレーニングをするだけです。今の芽衣はゲームセンターに興味が無いかもしれないですが、無駄にはならないでしょう。
──と、そこまで考えた直後だった。
「あれ? 後輩くん?」
聞き覚えのある声に振り返る。
「やっぱり後輩くんだ!」
謎のお姉さんが駆け寄ってくる。
「えっと、あれ? 人違い、でしたか? 私、白柳ですけど……」
「……ああ! 先輩でしたか!」
「ええぇぇ? 本当に分からなかったの?」
「すみません。私服だと印象が違ったもので」
失礼を承知で言えば制服を着た先輩には地味な印象があった。
しかし私服の彼女は、キラキラ系である。年上感が増しており、大学生と言われても違和感が無い。
「大人っぽくて素敵な服ですね」
「なーんか。普段は大人っぽくないって言われた気がするなー?」
「先輩も映画を観に来たんですか?」
俺は話を逸らすことにした。
「うん! 推してるアニメの劇場版が公開中だから観に来た!」
良い笑顔です。
先輩、本当にアニメが好きみたいだ。
「あー、そっか。推しにかわいい自分を見せるために、お化粧してるんだ。後輩くんが分からなかったのは、そのせいかもね」
「化粧ですか?」
先輩の顔をじっと見る。
「……後輩くん? じっと見過ぎだよ?」
「すみません。かわいいと言うべきか、綺麗と言うべきか、悩んでました」
「あはは、ありがとね。そういう時は、最初に思った方を言ったら良いと思うよ」
「じゃあ、綺麗ですね」
「じゃあってなんだよ。雑だなぁ」
先輩は呆れたような表情をする。
「それで、後輩くんはどうしてここに? デート、日曜日でしょ?」
「下見です。あと、デートではなくお詫びです」
「下見! 真面目だねぇ……」
「恐縮です。それより先輩、チケットの列に並ばなくて大丈夫ですか?」
「席は確保してあるから平気だよ! 後は発券するだけ」
「手際が良いですね」
「そうでしょう!」
先輩は得意気に胸を張った。
映画が楽しみなのか、今日は少しテンションが高いようです。
「じゃ、私列に並ぶね」
「はい。それではまた学校で」
「うん、また……あ、待って!」
「なんですか?」
「……いや、えっと、その、迷惑だったら断ってくれて良いんだけどさ」
「何でも言ってください。先輩にはお世話になってますから」
「……なんでも?」
「はい、なんでも」
「じゃあ今日だけ彼氏になって」
雑談の一部みたいな流れで、先輩は言った。
俺は何を言われたのか分からなくて、パチパチと瞬きを繰り返す。
「……はい?」
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