幼馴染をわからせたい ~実は両想いだと気が付かない二人は、今日も相手を告らせるために勝負(誘惑)して空回る~

下城米雪

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Case5. 反省会。芽衣の場合

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 ──芽衣の部屋。

「……」

 ──芽衣の部屋。

「……うへ」

 ──芽衣の部屋。

「……うっへへ」

 ──芽衣の部屋。

「ん~~~~!」

 猫のぬいぐるみ(太一からのプレゼント)に顔を埋めベッドの上で左右に転がる。
 今宵の私は、これまでの人生の中で最上級に浮かれていた。

「なんで涙出たし~!」

 しかし喜びよりも悔しさが勝る。
 だってあと一歩だった。あとほんの数秒で落とせるはずだった。

 導入の長い成人向け漫画みたいにちょっとずつプレイを過激にして、最後は二度と消せない事実を歴史に刻み付けるところまで考えていた。

 でもダメだった。
 なんで。涙が出たから。

「私の目ぇぇぇぇ~! がぁぁぁぁ!」

 何というか、世界の支配者的な存在から「高校生らしい付き合い方をしなさい」と言われたような気分だ。

「うるせぇぇぇぇ!」

 私は世界の神に向かって叫んだ。
 良いじゃん! 平安時代なら私もう年増じゃん!
 何が健全育成よ! だから少子化が止まらないのよバーカ!

「次が勝負なんだから!」

 という具合に。
 近所迷惑を考えず叫び散らかす程度の屈辱を味わったものの。

「うっへへぇ~」

 太一と映画デート♡
 やった。やった。やった。

 何を着ようかな?
 てか、映画の後の予定も考えなきゃ。

「……はい、浮かれるの終わり。深呼吸しましょうね」

 ふと冷静になった私は、呼吸と共に気持ちを整える。

 このままではいつも通りだ。
 もう少し彼の目線でプランを練らなければ、どうせまた仲の良い幼馴染で終わる。

「台本、作るか」

 あいつは私に申し訳ないことをしたと思っている。
 このまま日曜日に会った場合、色々な場面で遠慮される可能性が高い。

 最初は私がリードしよう。
 それで、全然怒ってないことをわからせる。

 でもあいつは気にするはず。
 きっと別れ際、唐突に謝罪するはずだ。
 だから人が少ない静かな場所で分かれることにしよう。

 そして、謝罪した彼に言うのだ。

 全然、嫌じゃなかったよ。
 嫌だったら、そもそも今日デートなんてしてないよ。

 ※ここで「今日はデートだった」とわからせる。

 太一はどうなの?
 私のこと、嫌いな相手におっぱい触らせる人だと思ってるの?

 ※ここで「こいつ俺のこと好きなんじゃね?」とわからせる。

 こんなところで言いたくない。
 だから……あっちで昨日の続き、しよ?

「キタコレ」

 え~、何これ何これ。
 大人向けの少女マンガで親の顔より見た仲直りシーンだよ?

「穂村芽衣、ワンチャン作家になれるか?」

 有り寄りの有り。
 子供達のお世話をしながらあいつの帰りを待つ私はパソコンの前に座──おっと妄想ストップ。今はデートプランを立てることが最優先なんだから。

「うっへへ。日曜日が楽しみ」

 正直、待ちきれない。
 どうせなら土日両方にすれば良かったかも。

 まあでも構わない。
 これは恋の駆け引きだ。

 どうせ暇で暇で仕方がない彼は、土曜日は一日中私のことを考えて悶々とするに違いない。つまり精神的なデートが成立しているのだ。

「来てる。流れ、来てますね。うっへへ」
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