幼馴染をわからせたい ~実は両想いだと気が付かない二人は、今日も相手を告らせるために勝負(誘惑)して空回る~

下城米雪

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Case5. 全肯定ゲーム ~本番~

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*  芽衣  *


 は~い、学習能力ゼロ。ゼロ。ゼロぉ♡
 私に勝負の内容を決めさせてる時点で負け確定だよバーカ♡

 それにしても私ってば完璧過ぎか?
 負けた方が何でも言うこと聞くってルールを太一から提案させるために、あえて冷たい態度を見せたってこと、気付いてるかな?

 ま、無理だよね。
 だって太一、よわよわだもん。

 はぁ~、今から一緒に映画行くの楽しみになってきたよ。うへへ、うへへへ。

「全肯定ゲームとは、なんですか?」

 ──ということを考えながら返事をする。

「相手の言葉を全肯定するゲーム。一度でも否定したら負け」

「なるほど。しかしそれでは、相手に行動を促すような命令も可能ということになるのでは?」

 ちっ、気付いたか。

「なぁに? もしかしてえっちな命令を肯定させようとしてるのかな?」

「そんなことは絶対にしません」

 ちょっとはしろよバカ。

「冗談だよ。じゃあルール追加で、スタート地点から1メートル以上の移動をさせる発言と、衣服に関する発言、あと暴力の類を禁止にしよっか」

「なるほど。妥当な内容ですね」

 ほんとバカ。わざわざ「暴力」なんて表現をするの、おかしいと思わない? 

 ミスリードに決まってるじゃん。

 太一はきっと暴力を接触と読み替えてる。
 だって私達の間で暴力なんて有り得ない。

 でもあえて私が禁止したのだから、彼なら理由があると考える。例えば「相手に触るのは禁止」みたいな解釈をするわけ。他の人は知らないけど太一なら絶対にそうなる。

 ふふん。
 太一の思考を誘導するくらい楽勝なのよ。

 あー、楽しみだな。
 どんな表情を見せてくれるのかな。

 でも今日は絶対に逃さないからね。
 理性が吹き飛ぶまで誘惑しちゃうから。

 私の魅力をわからせて、彼を落とす。

 ……え、もし本当にそういう流れになったらどうするのかって? そんなの既成事実を作るに決まってるじゃない。

「しかし、肯定できなかった場合に負けというのは、例えばどのような状況ですか?」

「色々あるけど、分かりやすいのは発言と行動が矛盾した場合かな。右手が動かないと発言したのに、次の瞬間には右手を挙げるとか」

「その場合、二言で勝負が決まるのでは?」

「んー、説明面倒だから実践しよっか」

 やっべ全然考えてなかった。
 確かに「右手が動かない」を肯定させられた後に「右手を動かしてくれ」と言われたら無理ですって否定することになる。でもこれ全肯定ゲームだから否定したら負け。

「私にイエスで答えられる質問をして」

 穂村芽依、一秒で対策を考えなさい。
 大丈夫。できる。私は完全無欠の美少女。
 
「芽依は、右手が動かないんですよね」

「うん。そうなんだよね。超困った」

 よし思い付いた。

「芽依は、右手を動かせますよね」

「もちろん。でも、そのためには呪いを解く必要があるんだよね」

「呪い、ですか?」

「うん。この呪いを解くためには……」

 私はパンと手を叩いて練習を終わらせる。
 危ない。恋人のキスが必要って言うところだった。始まるまで「キスの要求は有り」と気付かせるのは絶対にダメ。

「どう? 簡単には終わらないでしょ?」

「なるほど。なんて高度な舌戦なんだ……」

 まーた謎の解釈してる。
 まぁでも真面目に考えたら高度なゲームになるのか。やらないけどね。

「それじゃ、私から行くよ」

「ええ、いつでも大丈夫です」

 私は軽く呼吸を整える。
 それから肩を回しながら言った。

「あー、最近肩凝りひどいなぁ」

 続けて、

「太一、マッサージ上手だったよね?」
 
「……はい、得意ですよ」

 ふふ、動揺してるわね。
 いきなり禁止だと思ってた接触だもんね。

 でも、これはジャブ。
 肩揉みは健全な医療行為なのだから、彼は自分に何か言い聞かせながら、私の肩を揉み始めるはず。

 もちろん、それは甘い罠。
 私の身体に触れたことで、その先へ進む心理的な壁が一枚剥がれるってわけ。

 壁は、いくつあるのかな。
 いくつ壊したら、狼になるのかな♡

「幼い頃は、お互いにマッサージしたよね」

「そうですね」

「最近はどうしてマッサージしてくれないの?」

 おっと、間違えた。このゲームはイエスで答えられる質問をしないとダメなのよね。

「私のこと、嫌いになっちゃった?」

「……はい、嫌いです」

「え」

 ……あ、いやこれそういうゲームだ。

 あー、ビックリした。
 思わず窓からダイブするところだった。

「だから芽依、俺と仲直りしましょう」

 太一グッジョブ。
 こいつ意外と気が利くこと言えるよね。

「分かった。仲直りの証は肩揉みで良い?」

「……はい、そうしましょう」

「じゃあ、背中向くね」

「え」

 ふふ、分かるよ。
 今の流れで俺が揉む方なの? という疑問だね。私もそう思う。でもここままだと話が進まないから、さっさと揉みなさい。
 
「私、立ったままで大丈夫だよね」

「……はい、大丈夫ですよ」

「ふふっ、なんかおかしいね。昔は太一、背伸びしてたのに」

「そうですね。でも、今は俺の方が大きくなりました」

「そうだね」

 ……これ想像したよりも良いゲームかも。
 肩を揉ませることしか考えてなかったけど、存在しない記憶を刷り込めそう。

 あー、悔しい。今さら気が付くなんて!
 だけどもう無理だよね。今日のところは、事前に用意したプラン通りにやるしかない。

「じゃあ、お願い。痛くしないでね」

「もちろん。優しくします」

 ぐへへ、完全にそういう時にする会話だ。
 ドキドキしてきた。なんだかんだ太一の方から私に触るのって久々かも。

「……んんっ!?」

「あっ、すみません。痛かったですか?」

「……う、うん。痛かった」

 なに今の。ちょっと肩に触られただけで、全身がビリビリってなった。

「続けても大丈夫ですか?」

 いや、やだ、ダメ。絶対に無理。
 でも、ここで否定したら負けちゃう。

「うん。ゆっくり、お願い」

「分かりました」

 やばい。ダメ。声出ちゃう。
 どうして、こんな敏感に……。

 ……そっか。
 私、禁欲中だった。

 乳首当てゲームで流石にやり過ぎたと思って、一昨日から性欲を封印してるんだった。

 いや、いや、おかしいよそんなの。
 たった二日してないだけで、こんなの……私の身体、どんだけあいつが欲しいの?

「芽依、勉強熱心なのは分かりますが、もう少し身体を大事にしてください。肩、凄く凝ってますよ」

「う……ん。大事に、する、ね」

 や、やぁ……耳元で、声、やだぁ。
 これ、無理ぃ……私の方が彼無しでは生きられないんだって、分からされちゃうよぅ。
 
「太一こそ──」

 待て。穂村芽依。
 お前は今、逃げようとしなかったか?

 太一こそ、肩が凝ってそうだよね。
 そんな話をして、攻守交代しようとしていなかったか?

 違うだろ。そうじゃない。
 これは彼をメロメロにさせる絶好の機会。

 逃げるな。攻めろ!
 肩揉みなんかに、負けないんだから!

「肩こりの、ん……りゆ、うぅ……本当に、べんきょ、だけ、だと……思っ、うの?」

「はい、そう思います」

 やぁぁ。もみもみ止めて。
 これ以上は、スイッチ入っちゃう。

「んぐぅっ!?」

「あっ、すみません。痛かったですか?」

「…………うん。すごく、痛かった」

 どうしよ。やっぱり無理かも。

「肩、もう終わりで良いよ」

「分かりました」

 はぁ、はぁ、危なかった。
 肩だけでこれなのに、この先なんて……。

「次は胸」

 もちろん、この先もやってやるわよ!

「……胸、ですか?」

「うん。だって、明らかこれが原因じゃん。こんなに重いんだもん」

「……そう、ですね」

「だから、マッサージ、して?」

「…………」

 我ながら何言ってんだこいつって気持ちはある。背中にそういう視線を感じる。でも引かない。どうせ喘いだ後だ。今さら取り繕うよりも、穂村芽依は前に出る!

「芽依、暴力の類は禁止では?」

「は? 全然暴力じゃないけど?」

「……いや、しかし」

「ふーん、じゃあ太一の負けだね」

 結局こうなったか。ヘタレめ。

「太一になら、どこ触られても平気なのに」

「……限度があります」

 私は振り向いて、彼を睨む。

「じゃあ、選ばせてあげる」

「……選ぶ?」

「私の胸を揉んで勝負を続けるか、負けを認めて命令をひとつ聞くか」

「それは、おかしいですよ」

「何がおかしいの? 私、太一の胸なら余裕で揉めるよ?」

「それは俺が男だから」

「愛心ちゃんの胸でも揉めるけど?」

「……分かりました」

「はいはい。負けを認めるってことね。クソ雑魚。よわよわ。情けない」

「誰が負けを認めると言いましたか?」

 ……ん?
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