幼馴染をわからせたい ~実は両想いだと気が付かない二人は、今日も相手を告らせるために勝負(誘惑)して空回る~

下城米雪

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Case5. 全肯定ゲーム ~導入~

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*  太一  *


「はぁ、また勝負したいの?」

 いつものように空き教室へ移動した後、芽衣が溜息まじりに言いました。

「もちろんです。芽衣に勝つまで続けます」

「そろそろ諦めたら?」

 呆れたような表情。
 俺は、危機感を覚えました。

「これ、私に何かメリットある?」

「……っ」

 それは、ずっと考えないようにしていた指摘でした。
 俺は彼女に勝って、自分を認めさせたい。だから毎日勝負を挑んでいます。しかし彼女はどうでしょうか。メリットどころか、時間を取られるデメリットの方が大きいのではないでしょうか。

「私達、もう高校生だよ?」

 芽衣の正論が続きます。

「あーあ、黙っちゃった。ほんと情けない」

 彼女の言う通りです。
 この勝負は……二人の関係は、彼女が拒絶した瞬間に終わってしまいます。

「……俺は」

「ん-? なに? 聞こえないんだけど?」

 芽衣は煽るような口調で言いました。
 手を伸ばせば届くような距離。身長差のせいで彼女が見上げる形になっていますが、俺としては見下されているような気分です。

「俺は、芽衣に勝つまで、勝負を続けます」

「なーんでそんなに拘るわけ?」

 俺は唇を嚙み、目を閉じました。
 耐えるためです。何をって、もちろん──

「もしかして……」

 そう、これです。
 耳元で囁く彼女の悪癖です。

「私と一緒に過ごすための口実、とか?」

 ……。

「あれれ? 図星だったのかな?」

 ……。

「ねぇ太一? 黙ってたら分からないよ?」

 ……っ!

「条件を、追加しましょう」

 俺は飛び退くように距離を取って、真顔を作るため頬に力を込めて言いました。
 
「負けた方が勝った方の命令にひとつ従う。これで、どうですか」

「え~? そんなこと言っても大丈夫なのかな~?」

「勝てば問題ありません」

「ぷーくす。今日も無駄に自信たっぷりだね。でも残念。結局、太一は負けちゃう」

「勝負を受けるということで良いですか?」

「太一ってば必死過ぎ。どんだけ私に命令されたいの? ……まぁ、そこまで言うなら付き合ってあげても良いけどね。あー、どんな命令しようかなぁ~?」

 芽衣は心の底から楽しそうな様子で言いました。

 正直とんでもない約束をしてしまったと早くも後悔しかけていますが、漢に二言はありません。勝てば良いだけの話です。

「何の勝負にしますか」

「えー、また私が決めるの?」

「俺が決めるならスポーツ系になりますが」

「それはヤダ。無駄に汗かきたくないし」

「ならば、芽衣が決めてください。受けて立ちます」

「ん-、どうしよっかなー」

 ……かわいい。
 いやっ、いやっ、何を見惚れている!

 確かに顎に指先を当て上を向く彼女は、天からの信託を受けた聖女のように美しいが、今は見惚れている場合ではない! 俺は彼女に勝たなければならない!

 息を整える。
 彼女を見る。
 
 昨日、楓先輩から借りた小説を読んだ。

 恋はスピード勝負。
 もはや一刻の猶予も無い。

 今日こそ勝利する。
 昔の俺ではないとわからせる。

 そして、告白する。
 そのために俺は、全力で勝ちに行きます。

「よし、決めた」

 俺が感情を整理した直後。
 勝負の内容を決めた彼女は、太陽のような笑顔を見せて言いました。

「全肯定ゲーム、しよっか」

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