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幼馴染とはラブコメになる
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* 楓 *
「感想、言っても良いかな」
「お願いします」
私は呼吸を整える。
今日も何度も声を出しそうになった。でも深刻な表情で話す後輩くんを見て耐えた。
もう、いいよね。
我慢の限界。だから、言うね。
「ラブコメじゃん!」
じゃん! じゃんっ、じゃん……と、私の声が反響する。でもそれは直ぐに消えて、部室内は外から聞こえる放課後BGMがメイン背景音となった。
「ははは」
後輩くんは笑う。
私は呼吸を整えて、指摘を始める。
「まず、このドメインをよく見て」
OzakiMei.work?player=zako
「あっ、本当だ。よく見るとプレイヤーが雑魚になってますね」
「そっちじゃないよ!? 手前っ、尾崎芽依になってる!」
「フルネームだと長くなりますからね。二人の名前から短い方を取ったんだと思います」
「ん~~、そっか~~、そうなるのか~~」
私はギュッと両手を握り締めた。
個人的には結婚的な気配を感じる。
むしろ気が付いた。
二人の勝負が終わらない原因は、後輩くんの方だ。
「……続けるよ?」
「はい、お願いします」
私は気を取り直して、指摘する。
「告白みたいな文章を見て、どう思った?」
私はこう思った。
あれは彼に言わせたい言葉リストだ。
「俺を辱めて集中力を奪う作戦です。不覚にも今回は遅れを取りましたが、次は無いです」
こんな奇跡的な解釈する鈍感ボーイ実在するんだ!? このラブコメ主人公め!
ぐぬぬ。どうしようかな。
やっぱり直球勝負が一番かな?
「実は、相手の子からのアピールかもよ?」
「ははは、まさかそんな、ありえない」
君の解釈がね!
ありえないよ! ほんとに!
「昔から俺を泣かすことが趣味みたいな感じですから、アピールとか、ありえないです」
マンガでよく見る幼馴染逆補正~!
そんなことしてると盗られちゃうよ!?
恋はスピード勝負!
ちょっと良いかもみたいな段階で付き合って、愛着を持たせて、普通だったら恋愛対象から外れるような悪い部分も受け入れさせる!
昨日読んだ本に書いてあったよ!
貸してあげるから明日までに読んでね!
「……泣かすのが趣味って、すごいね」
内心はさておき、落ち着いて返事をする。
先輩としての威厳を見せなきゃだよ。
「後輩くん、その子のどこが好きなの?」
「……最初は、大嫌いでした」
わっ、予想外の切り返しだよ。
「いつか絶対に泣かす。そればかり考えてしました。でも気が付いたんです。芽衣は誰よりも努力してる。だから誰にも負けない。すごく、カッコいいんです」
なんか、恋愛っていうより、憧れの人?
「それから……」
「それから?」
「……彼女が居ない人生は、もう考えられません」
なに、今の。
私まで恥ずかしくなっちゃったよ。
そっか、そんな感じなんだ。
いいなぁ幼馴染。私、基本的にソロだからな。
やっぱり幼馴染とはラブコメになるんだね。
はぁ、私もそんな感じの恋がしてみたいなぁ。
それにしても可愛いじゃないか後輩くん。
多分、一番の理由は照れて言えなかった感じだよね?
気になる。
もしも教えてって頼んだら、またデリカシーが無いって言われちゃうかな?
「「……」」
あはは、沈黙、気まずいかも。
ここは先輩として、私から何か言わないとだよね。
えっと……ああ、そうだ。
本を渡そう。忘れないうちに。
「後輩くん、ちょっとそこ退いて」
「はい、分かりました」
私は彼が座っていた場所に立って、背伸びをする。
確か、あの本は、この本棚の上の方に──
「わっ、えっ」
──こんなベタなこと、あるだろうか。
私は体重の掛け方を間違えて、椅子を倒してしまった。
「先輩っ!」
私は左手を口に、右手を左胸に当てた。
これは楓さん考案のラッキースケベを絶対に避けられるポーズである。
後輩くんの恋愛相談を受けておいて、私自身がラブコメになるなんて、そんなのは絶対にダメ。そう思った結果、昔考えたポーズが咄嗟に出た。我ながらグッジョブ。
「……あっ、えっ?」
しかし、防御は無駄に終わった。
「先輩、その手、守るところ違わないですか?」
「……」
普通に受け止められた。
彼は猫みたいな反射神経で私の落下地点に身体を滑り込ませて、サッカーボールを胸トラップするような要領で、柔らかく私を受け止めていた。
肩にすら触れることなく、完璧に。
でもその結果、私は彼の胸に全体重を預けることになった。
要するに、密着した。
その姿勢のまま彼は言う。
「怪我、無いですか?」
「……う、うん、ありがと、助かったよ!」
──恋はスピード勝負。
「はいこれ。後輩くんに渡したかった本だよ」
「ありがとうございます」
多分、この日が最後のチャンスだった。
「ああそうだ、私、急用を思い出しちゃった!」
この日、彼と会うことを最後にしていれば。
次の日、彼と本の感想を言い合わなければ。
そのまた次の日、一緒にアニメを見なければ。
「じゃ、またね!」
椅子から落ちて。
ガッシリとした感覚を知って。
彼のことを、男の子なんだなって、意識しなければ。
「感想、待ってるからね!」
きっと、あんな思いをすることは無かったのだと思う。
「感想、言っても良いかな」
「お願いします」
私は呼吸を整える。
今日も何度も声を出しそうになった。でも深刻な表情で話す後輩くんを見て耐えた。
もう、いいよね。
我慢の限界。だから、言うね。
「ラブコメじゃん!」
じゃん! じゃんっ、じゃん……と、私の声が反響する。でもそれは直ぐに消えて、部室内は外から聞こえる放課後BGMがメイン背景音となった。
「ははは」
後輩くんは笑う。
私は呼吸を整えて、指摘を始める。
「まず、このドメインをよく見て」
OzakiMei.work?player=zako
「あっ、本当だ。よく見るとプレイヤーが雑魚になってますね」
「そっちじゃないよ!? 手前っ、尾崎芽依になってる!」
「フルネームだと長くなりますからね。二人の名前から短い方を取ったんだと思います」
「ん~~、そっか~~、そうなるのか~~」
私はギュッと両手を握り締めた。
個人的には結婚的な気配を感じる。
むしろ気が付いた。
二人の勝負が終わらない原因は、後輩くんの方だ。
「……続けるよ?」
「はい、お願いします」
私は気を取り直して、指摘する。
「告白みたいな文章を見て、どう思った?」
私はこう思った。
あれは彼に言わせたい言葉リストだ。
「俺を辱めて集中力を奪う作戦です。不覚にも今回は遅れを取りましたが、次は無いです」
こんな奇跡的な解釈する鈍感ボーイ実在するんだ!? このラブコメ主人公め!
ぐぬぬ。どうしようかな。
やっぱり直球勝負が一番かな?
「実は、相手の子からのアピールかもよ?」
「ははは、まさかそんな、ありえない」
君の解釈がね!
ありえないよ! ほんとに!
「昔から俺を泣かすことが趣味みたいな感じですから、アピールとか、ありえないです」
マンガでよく見る幼馴染逆補正~!
そんなことしてると盗られちゃうよ!?
恋はスピード勝負!
ちょっと良いかもみたいな段階で付き合って、愛着を持たせて、普通だったら恋愛対象から外れるような悪い部分も受け入れさせる!
昨日読んだ本に書いてあったよ!
貸してあげるから明日までに読んでね!
「……泣かすのが趣味って、すごいね」
内心はさておき、落ち着いて返事をする。
先輩としての威厳を見せなきゃだよ。
「後輩くん、その子のどこが好きなの?」
「……最初は、大嫌いでした」
わっ、予想外の切り返しだよ。
「いつか絶対に泣かす。そればかり考えてしました。でも気が付いたんです。芽衣は誰よりも努力してる。だから誰にも負けない。すごく、カッコいいんです」
なんか、恋愛っていうより、憧れの人?
「それから……」
「それから?」
「……彼女が居ない人生は、もう考えられません」
なに、今の。
私まで恥ずかしくなっちゃったよ。
そっか、そんな感じなんだ。
いいなぁ幼馴染。私、基本的にソロだからな。
やっぱり幼馴染とはラブコメになるんだね。
はぁ、私もそんな感じの恋がしてみたいなぁ。
それにしても可愛いじゃないか後輩くん。
多分、一番の理由は照れて言えなかった感じだよね?
気になる。
もしも教えてって頼んだら、またデリカシーが無いって言われちゃうかな?
「「……」」
あはは、沈黙、気まずいかも。
ここは先輩として、私から何か言わないとだよね。
えっと……ああ、そうだ。
本を渡そう。忘れないうちに。
「後輩くん、ちょっとそこ退いて」
「はい、分かりました」
私は彼が座っていた場所に立って、背伸びをする。
確か、あの本は、この本棚の上の方に──
「わっ、えっ」
──こんなベタなこと、あるだろうか。
私は体重の掛け方を間違えて、椅子を倒してしまった。
「先輩っ!」
私は左手を口に、右手を左胸に当てた。
これは楓さん考案のラッキースケベを絶対に避けられるポーズである。
後輩くんの恋愛相談を受けておいて、私自身がラブコメになるなんて、そんなのは絶対にダメ。そう思った結果、昔考えたポーズが咄嗟に出た。我ながらグッジョブ。
「……あっ、えっ?」
しかし、防御は無駄に終わった。
「先輩、その手、守るところ違わないですか?」
「……」
普通に受け止められた。
彼は猫みたいな反射神経で私の落下地点に身体を滑り込ませて、サッカーボールを胸トラップするような要領で、柔らかく私を受け止めていた。
肩にすら触れることなく、完璧に。
でもその結果、私は彼の胸に全体重を預けることになった。
要するに、密着した。
その姿勢のまま彼は言う。
「怪我、無いですか?」
「……う、うん、ありがと、助かったよ!」
──恋はスピード勝負。
「はいこれ。後輩くんに渡したかった本だよ」
「ありがとうございます」
多分、この日が最後のチャンスだった。
「ああそうだ、私、急用を思い出しちゃった!」
この日、彼と会うことを最後にしていれば。
次の日、彼と本の感想を言い合わなければ。
そのまた次の日、一緒にアニメを見なければ。
「じゃ、またね!」
椅子から落ちて。
ガッシリとした感覚を知って。
彼のことを、男の子なんだなって、意識しなければ。
「感想、待ってるからね!」
きっと、あんな思いをすることは無かったのだと思う。
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