幼馴染をわからせたい ~実は両想いだと気が付かない二人は、今日も相手を告らせるために勝負(誘惑)して空回る~

下城米雪

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Case4. 反省会。太一の場合

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*  太一  *


 負けました。
 ああまた負けた。
 負けました。

 きっと俺の辞世の句は、このように無様な内容になるのでしょう。

 今日の敗北は、堪えました。
 
 現実問題、男女の能力差は大きいです。
 スポーツならば、サッカーで世界一になった女子チームが、男子中学生のチームに手も足も出なかった話が有名でしょうか。

 空手の世界では、男女の優勝者が記念試合をしたら、男性側の手刀一発で女性の首が折れ、死に至ったという話が有名です。

 本来は生物としての格が違うのです。
 だけど俺は彼女に勝てない。男女が対等に競えるタイピングでさえ歯が立たなかった。

 あれは小学2年生の時。
 芽依は俺を踏み付けて言いました。

「太一ってば情けな~い。女の子に負けるとか~、プランクトン以下じゃ~ん」

 どうも。俺はプランクトン以下です。
 あの屈辱は今でも覚えています。むしろ肉体的に成長した今の方が悔しいです。

 いつの間にか高校生になりました。
 あの頃から考えれば、随分と大人です。

 だけど俺は、変わっていない。
 まだ芽依に泣かされるだけのみじんこです。

 胸が痛い。
 大人になっても勝てないかもしれない。

 俺と芽依とでは格が違う。
 だったら俺は……より一層、修行せねば。

 舐めるなよ。芽依。
 俺は、この程度で心折れる雑魚ではないぞ。

 愛していると囁く練習をしている。だから今日、ポエムを読む羞恥に耐えられた。

 ブラジャーについても、日々妄想によって耐性を付けようと努力している。

 乳首当てゲームもそうだ。いつかリベンジを果たすために試行錯誤を繰り返している。

 今日の敗北も胸に刻む。
 これから定期的にタイピングを修行する。

 だから……涙は、今日こそ最後だ。


「あっ、後輩くん今日も来てくれた」


 声が聞こえました。
 俺は咄嗟に涙を拭って顔を上げます。

 白柳楓さん。
 昨日話をした先輩は、人の良さそうな笑顔を浮かべると、軽く手を挙げて言いました。

「よっ、今日も勝負したのかい?」

 見れば分かるでしょうに。
 俺は言葉を呑み込みます。ここで八つ当たりをするのは、あまりにも情けない。

「……えぇ、また負けました」

「あはは、そっか。残念だったね」

 彼女は一歩、俺に近寄りました。
 小柄な先輩です。髪は肩に届く程度で、芽依と違って毛先がクルッとしています。

「話、聞かせてよ」

 彼女はメガネの内側で目を細め、

「お姉さん、今すごく暇なんだよね」

「……俺の話は、娯楽か何かですか?」

「えっへっへ。バレちゃったか」

 本当にデリカシーの無い人だ。
 それなのに、不思議と嫌な感じがしない。

 きっと、悪意が無いからだ。
 俺が惨めにならないように、明るく振る舞いながら、慰めてくれようとしている。

 そういう優しさが、なんとなく伝わる。
 芽依に負けた後は無心で歩いていたはずなのに、自然と足がここに向かったのは、彼女に話を聞いて欲しかったからなのかもしれない。

「大した話ではないですよ」

 だから俺は、今日も先輩と話をすることにしたのです。
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