幼馴染をわからせたい ~実は両想いだと気が付かない二人は、今日も相手を告らせるために勝負(誘惑)して空回る~

下城米雪

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Case4. 指先をいやらしく動かすアレ ~決着~

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*  太一  *


 俺は、とても愚かでした。
 なぜ真面目な勝負だと信じてしまったのでしょうか。

 ああ、視線が刺さります。入力に手一杯で芽衣を見る余裕は無いですが、さぞ愉快な顔をしているのでしょう。

 ああ、ダメだ、手が震える。
 悔しい。今回もまた、芽衣に弄ばれて負けるのか……。

 ──否だ。
 このままでは、いつまでも告白などできない。

 俺は文字を入力しているだけ。
 確かに歯が浮くような内容ばかりですが、こんなもの、ただの記号です。心を無にして指先だけに集中すれば、どうということは……いや、待て。どうして真正面から挑むことばかり考えている?

 これは芽衣が用意したゲームです。
 普通にプレイするだけでは、彼女の思惑を超えられない。

 そうだ、思い出せ。
 俺が求めているのは勝利だけではない。

 芽衣に認められること。
 俺が彼女の隣に相応しい存在なのだとわからせること。

 そのために、やるべきことは──

「芽衣の声を聞く度に、胸の鼓動が早くなります」

 ああああああ!?
 なんだ、なんだこの感覚、全身の穴という穴から火が出そうだ!

 要するに音読です。
 このようなセリフ、芽衣だって恥ずかしいはずなのです。

 だからこそ読み上げる!
 俺は肉を抉らせ、彼女の骨を震わせる!

 さあ、どうですか!?
 僅かでも良い! 俺の羞恥の一端を知れ!

「……え、なに言ってんの?」

 ぐぅぅぅぅっ!
 バカなっ、ノーダメージだと!?

「普段、喋りながら文字を入力する癖があるものでして」

「……ふーん」

 穴があったら入りたい。
 恥ずかしい。恥ずかしぬ。
 しかし、もはや一歩も後には引けません!

「朝起きて、芽衣の顔を見る度、また恋に落ちる」

 こんなものっ、ただの言葉!

「俺は、あと何回、芽衣に恋をすれば良いのだろう」

 こんなものっ、普段よく心の中で呟いているだけの言葉!

「俺は、あと何回、芽衣を好きになれるのだろう」

 こんなものっ、妹がよく読んでる漫画によく出てくるポエム!

「この世界に、芽衣よりも大切なモノは存在しない」

 ああぁぁぁ!?
 限界だっ、頭がおかしくなりそうだ!

 さあ、どうですか。
 少しくらい、照れても良いでしょう!?

 ……チラ。

 ば、バカな……笑っている、だと?
 ぐぅぅ! 俺の言葉など、滑稽でしかないということか!?

 ああ、まずい。心が折れかけています。
 スコアはリードしているのに、これでは勝てない。

「あれあれ~? 音読は終わりなのかなぁ?」

 くっ、煽る余裕まであるのか。

「指先の動き、鈍くなってるよ? 恥ずかしかったのかな?」

「……芽衣こそ、急に口数が増えたな」

「ぷぷぷ。言い返したつもりかな? 顔、真っ赤だよ」

 俺は彼女から目を逸らして、勝負に集中しようとしました。

 トン、と足音ひとつ。
 俺は察した。きっと何か、耳元で囁くつもりなのでしょう。

「ねぇ、太一ぃ」

 全身が震えた。
 ただ名前を呼ばれただけなのに、立っていられない程の感覚があった。

「もしかして、本当に私のこと、好きなのかな?」

「なっ」

 俺は素早く身を引いて、

「何をバカなことをっ」

 と、強がりを言う。

「からかう余裕があるのなら、勝負に集中したらどうですか。ほら、もう少しで俺の勝ちですよ」

 気が付けば、俺が9点を先取している。
 あと1点でゲームを獲得できる。3回勝負だから、次も勝てば終わりです。

「はぁ、ほんとヘタレ」

 芽衣は溜息まじりに言いました。
 そして本気を出した彼女を前に、俺は1点も取れず敗北したのだった。
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