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Case3. 反省会。太一の場合
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* 太一 *
逃げた。
逃げてしまった。
なんだ。なんだ。なんなのだ!?
なぜ俺は好きな人と、あんな勝負を!?
途中、思ったさ。
芽依は一方的に攻めるつもりで、耐え切れば俺の勝ちなのだと。
耐えられるか! あんなもの!
あんなものに耐えたからと言って、それでどうして芽依が認めてくれる!? 一体何を認めてくれるというのだ!? 現代の女子は乳首が鈍感な男子が好きなのか!? そんなわけあるか!
あいつは俺に対する扱いがおかしい!
耳元で囁いたりッ!
胸を押し当てたりッ!
普通は意識して避けるものだろう!?
なぜ避けない!?
どうしてああも、距離が近い!?
「……分かってるさ」
結局、俺の扱いが昔から変わらない。
芽依の中にある尾崎太一は、一緒にお風呂に入っていた頃と変わらない。
異性ではなく幼馴染。
恋愛対象として見られていない。
「……分かって、いたはずなのに」
ああ、俺は本当に情けない。
次から次へと溢れる涙が、止まらない。
──彼女と出会ったのは、そんな時でした。
俯いていた俺は、人影を見て顔を上げました。
見知らぬ女子生徒です。当然、そのまま擦れ違います。
同じ学校。ただそれだけ。
普通なら接点など生まれません。
「あの」
しかしこの時、俺は声をかけました。
彼女が、俺と同じように泣いていたからです。
「大丈夫ですか?」
自分のことを棚に上げて問いかける。
彼女は足を止めると、困ったような顔をして振り返りました。
「えっと、どこかで会いましたっけ?」
「いえ、初めてだと思います」
「……ですよね」
静寂。とても気まずい。
俺はどうにか笑顔を作って、問いかけます。
「何か、あったんですか?」
「……」
彼女は返事をせず、俯きました。
「あの、無理に言わなくても大丈夫なので」
「…………」
彼女は顔を上げる。
唇をギュッと結び、目に涙を浮かべています。
やがて嗚咽まじりに息を吸う。
そして、絞り出すような声で言いました。
「……レイプ、されたんです」
携帯。110。コール。
「もしもし警察ですか。暴行事件です。場所は──」
「わー! 待って待って! アニメ! アニメの話だから!」
──これが、初めての会話だった。
またしても芽衣に泣かされたこの日──俺は、彼女と出会ったのだ。
逃げた。
逃げてしまった。
なんだ。なんだ。なんなのだ!?
なぜ俺は好きな人と、あんな勝負を!?
途中、思ったさ。
芽依は一方的に攻めるつもりで、耐え切れば俺の勝ちなのだと。
耐えられるか! あんなもの!
あんなものに耐えたからと言って、それでどうして芽依が認めてくれる!? 一体何を認めてくれるというのだ!? 現代の女子は乳首が鈍感な男子が好きなのか!? そんなわけあるか!
あいつは俺に対する扱いがおかしい!
耳元で囁いたりッ!
胸を押し当てたりッ!
普通は意識して避けるものだろう!?
なぜ避けない!?
どうしてああも、距離が近い!?
「……分かってるさ」
結局、俺の扱いが昔から変わらない。
芽依の中にある尾崎太一は、一緒にお風呂に入っていた頃と変わらない。
異性ではなく幼馴染。
恋愛対象として見られていない。
「……分かって、いたはずなのに」
ああ、俺は本当に情けない。
次から次へと溢れる涙が、止まらない。
──彼女と出会ったのは、そんな時でした。
俯いていた俺は、人影を見て顔を上げました。
見知らぬ女子生徒です。当然、そのまま擦れ違います。
同じ学校。ただそれだけ。
普通なら接点など生まれません。
「あの」
しかしこの時、俺は声をかけました。
彼女が、俺と同じように泣いていたからです。
「大丈夫ですか?」
自分のことを棚に上げて問いかける。
彼女は足を止めると、困ったような顔をして振り返りました。
「えっと、どこかで会いましたっけ?」
「いえ、初めてだと思います」
「……ですよね」
静寂。とても気まずい。
俺はどうにか笑顔を作って、問いかけます。
「何か、あったんですか?」
「……」
彼女は返事をせず、俯きました。
「あの、無理に言わなくても大丈夫なので」
「…………」
彼女は顔を上げる。
唇をギュッと結び、目に涙を浮かべています。
やがて嗚咽まじりに息を吸う。
そして、絞り出すような声で言いました。
「……レイプ、されたんです」
携帯。110。コール。
「もしもし警察ですか。暴行事件です。場所は──」
「わー! 待って待って! アニメ! アニメの話だから!」
──これが、初めての会話だった。
またしても芽衣に泣かされたこの日──俺は、彼女と出会ったのだ。
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