幼馴染をわからせたい ~実は両想いだと気が付かない二人は、今日も相手を告らせるために勝負(誘惑)して空回る~

下城米雪

文字の大きさ
上 下
15 / 34

Case3. 反省会。太一の場合

しおりを挟む
*  太一  *


 逃げた。
 逃げてしまった。

 なんだ。なんだ。なんなのだ!?
 なぜ俺は好きな人と、あんな勝負を!?

 途中、思ったさ。
 芽依は一方的に攻めるつもりで、耐え切れば俺の勝ちなのだと。

 耐えられるか! あんなもの!
 あんなものに耐えたからと言って、それでどうして芽依が認めてくれる!? 一体何を認めてくれるというのだ!? 現代の女子は乳首が鈍感な男子が好きなのか!? そんなわけあるか!

 あいつは俺に対する扱いがおかしい!

 耳元で囁いたりッ!
 胸を押し当てたりッ!

 普通は意識して避けるものだろう!?

 なぜ避けない!?
 どうしてああも、距離が近い!?

「……分かってるさ」

 結局、俺の扱いが昔から変わらない。
 芽依の中にある尾崎太一は、一緒にお風呂に入っていた頃と変わらない。

 異性ではなく幼馴染。
 恋愛対象として見られていない。

「……分かって、いたはずなのに」

 ああ、俺は本当に情けない。
 次から次へと溢れる涙が、止まらない。

 ──彼女と出会ったのは、そんな時でした。

 俯いていた俺は、人影を見て顔を上げました。
 見知らぬ女子生徒です。当然、そのまま擦れ違います。

 同じ学校。ただそれだけ。
 普通なら接点など生まれません。

「あの」

 しかしこの時、俺は声をかけました。
 彼女が、俺と同じように泣いていたからです。

「大丈夫ですか?」

 自分のことを棚に上げて問いかける。
 彼女は足を止めると、困ったような顔をして振り返りました。

「えっと、どこかで会いましたっけ?」

「いえ、初めてだと思います」

「……ですよね」

 静寂。とても気まずい。
 俺はどうにか笑顔を作って、問いかけます。

「何か、あったんですか?」

「……」

 彼女は返事をせず、俯きました。

「あの、無理に言わなくても大丈夫なので」

「…………」

 彼女は顔を上げる。
 唇をギュッと結び、目に涙を浮かべています。

 やがて嗚咽まじりに息を吸う。
 そして、絞り出すような声で言いました。

「……レイプ、されたんです」

 携帯。110。コール。

「もしもし警察ですか。暴行事件です。場所は──」

「わー! 待って待って! アニメ! アニメの話だから!」

 
 ──これが、初めての会話だった。
 またしても芽衣に泣かされたこの日──俺は、彼女と出会ったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。

ながしょー
青春
 ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。  このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。

浦島子(うらしまこ)

wawabubu
青春
大阪の淀川べりで、女の人が暴漢に襲われそうになっていることを助けたことから、いい関係に。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

恐喝されている女の子を助けたら学校で有名な学園三大姫の一人でした

恋狸
青春
 特殊な家系にある俺、こと狭山渚《さやまなぎさ》はある日、黒服の男に恐喝されていた白海花《しらみはな》を助ける。 しかし、白海は学園三大姫と呼ばれる有名美少女だった!?  さらには他の学園三大姫とも仲良くなり……?  主人公とヒロイン達が織り成すラブコメディ!  小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。  カクヨムにて、月間3位

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...