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Case3. 乳首当てゲーム ~導入~

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*  太一  *


「今日は時間が無いから、さっさと終わらせるわよ」

 昨日と同様に空き教室まで移動した後、芽衣は冷たい態度で言いました。

「何か用事ですか?」

「勉強」

 流石、優等生ですね。
 品行方正にして才色兼備の穂村芽衣は高校生になっても健在のようです。

「乳首当てゲームするわよ」

「……なんですって?」

「乳首当てゲーム」

 ふむ、どうやら聞き間違えたわけではなかったようです。
 なるほど。確かに乳首当てゲームならば勝敗は一瞬で決まります。時間が無いことを考えれば妥当な選択──

「いや、いやいやいや!」

「何よ。急に大きな声を出して」

 芽衣はめんどくさそうな声を出して、首の後ろに手を当てた。
 その怠惰な立ち姿さえも美しい。直前に聞こえた言葉が夢か幻に思える程だ。

「……もう一度だけ聞きます。何ゲームをすると言いましたか?」

「乳首当てゲームよ」

 彼女は全く照れた様子も無く、堂々と言った。

「……おかしいとは、思わないのですか?」

「は? 逆に何がおかしいわけ?」

 バカな。なんですか、この態度。
 俺が、おかしいのだろうか。普通の高校生は男女で乳首当てゲームをするものなのだろうか。

「……触ることになります」

「は?」

「芽衣の胸にッ、触ることになります!」

 俺は必死に「考え直せ」と訴えかけます。
 しかし芽衣はニヤリと笑って、胸を強調するような姿勢で言いました。

「できるのかしら?」

「っ!?」

 そ、そうか。
 これは俺が芽衣の胸に触れるかどうかという勝負──そんなわけあるか!

「分かりません! こんな勝負にっ、何の意味が!」

「何よ。意味って」

「俺は勝負に勝って芽衣に実力を認めさせたい! 胸に触れられるか否かなど、何か意味があるとは思えない!」

 俺は愛してるゲームから始まった違和感を一気に吐き出すつもりで言いました。

「ごめん、もっかい言って?」

 芽衣はゆっくり天井を見上げると、どこか笑っているような声で言いました。
 俺は咄嗟に唇を嚙み、喉元まで出かかった言葉を封印します。

 やはりっ、まるで相手にされていない!
 芽衣の中では、俺はまだ昔の泣き虫と同じなのか……っ!
 
「芽衣に勝ち、俺の実力を認めさせる。それが勝負の目的です」

 俺は悲しみを胸に、必死に強がりを言いました。
 芽衣は天井を見上げたまま長い息を吐き、

「ふーん?」

 と、敗北した俺を煽る時の表情で言いました。

「よわよわ太一は、私に認めて欲しいんだ~?」

「……くっ、その通りです」

「へぇ~? そっか~」

 バカにされている!
 魂がッ、屈辱に震えている!

「だから、まともな勝負をしましょう」

「分かったわよ」

 芽衣は頷いて、

「じゃあ始まるわよ。乳首当てゲーム」

「だからどうしてそうなるのです!?」

 俺は叫んだ。

「乳首と! 実力! 何の関係があるのですか!?」

「現代の哲学者は言いました。人間も所詮は動物である」

「……は?」

「動物の義務は種の保存です。あらゆる時代において、その環境に最も適した遺伝子だけが生き残りました」

 急に愛心みたいなことを言い始めました。
 なんだ? どういう意味なのでしょうか?

「現代は自由恋愛社会。生き残るのは、雄として優秀な遺伝子です」

「……つまり、どういうことですか?」

 芽衣はフッ、と笑って、

「優秀な雄は、乳首の位置を当てられる」

「!?」

「優秀な雌もまた、乳首の位置を当てられる」

「!?」

「これは私と太一。生物としての格を競う戦いなのです」

 ……。
 …………。

「なるほど! そういうことだったのか!」
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