幼馴染をわからせたい ~実は両想いだと気が付かない二人は、今日も相手を告らせるために勝負(誘惑)して空回る~

下城米雪

文字の大きさ
上 下
1 / 34

勝ちたい理由

しおりを挟む
 屈辱に満ちた人生でした。
 
「うわぁ~、女の子に泣かされるとかぁ~、ざっこぉ~w」

 彼女の名は穂村ほむら芽衣めい
 俺こと尾崎おざき太一たいちとの関係は、いわゆる幼馴染です。

 娯楽の少ない田舎だったからでしょうか。
 彼女は、近所に住む俺を毎日のように負かしたのです。

 幼い俺は感情を制御する術を持たず、しかも負けず嫌いでした。
 このため、それはもう、毎日のように悔し涙を流したものです。

「ねぇ今どんな気持ちィ? 女の子に力でも勝てないとかァ? 生きてて恥ずかしくないのぉ? ねぇ答えてよぉ、太一ぃ~?」

 彼女に対する憎悪は日々大きくなりました。
 彼女のことを考えなかった日はありません。
 俺は毎日、彼女に勝つために修行を続けました。


 ──中学の入学式。


 初めて制服を着た彼女を目にしました。

「どうだ。似合ってるだろ」

 いつか必ず彼女に勝つ。それは俺にとって人生の目標、あるいは乗り越えるべきトラウマでした。

 しかし、この瞬間だけは別のことを思ったのです。

 ……あれ? こんなに可愛かったっけ?

 お恥ずかしい話ですが。
 要するに、そういうことです。

 制服姿の彼女を見て、勝ちたい理由が変わったのでした。

 改めまして。
 俺の名前は尾崎太一。

 芽衣のことが好きです。

 告白はしません。
 だって絶対に脈が無い。
 
 もしも少しでも好意があるならば、一度くらい勝負に手心を加えてくれるはずです。しかし彼女は常に全力。いつも俺を負かし、尊厳を粉々にするような言葉を楽しそうに投げかけるのです。

 俺は決意しました。
 彼女よりも強くなります。

 修行を始めました。
 いつか彼女に負けない男になって、気持ちを伝えるためです。

 しかし最近、焦っています。
 芽衣がどんどん可愛くなるからです。

 彼女に言い寄る男子が増えています。
 その様子を見る度、俺は釘を刺しています。
 
 お前ら騙されてますよ。
 そいつの本性は相手を泣かせて喜ぶ鬼畜ですよ。

 しかし、男達は言うのです。

「いや、あいつに嫌がらせされてるの、お前だけじゃね?」

「穂村さん、お前以外には清楚の塊って感じじゃん」

「幼馴染だっけ? 何したらあんなに嫌われるの?」

 私は雲になりたい。
 どこまでも続く青い空をふわふわと浮かび、いつか海とひとつになるまで旅をしたい。

 ショックでした。
 詩的な現実逃避をする程のダメージです。

 彼らの言う通りです。
 芽衣は品行方正な女性に育ちました。

 学力は全国模試でもトップレベル。
 運動能力は男子にも引けを取らない。

 そして何より、可愛い。

 二つ結びだった長い髪は大人っぽいショートヘアになりました。ぱっちりとした二重の目は昔と変わらず、キラキラと輝くような魅力を宿しています。

 しかも、あらゆる所作が上品です。
 歩く姿など見知らぬ人が振り返る程です。

 その上、性格も良いのです。
 例えば転んでいる子供を見れば、

「大丈夫? ……よし、偉い。泣かなかったね。ほら、脚を見せて。お姉さん、絆創膏を持ってるから」

 まるで女神です。
 しかし俺に対しては……

「あーあ、また負けちゃったね。ぷぷ、泣きそう。泣いちゃう? ナデナデしてあげようか? 情けない太一くん」

 このように尊厳を粉々に砕く言葉をチョイスするのです。
 
 まずい。
 明らかに恋愛対象として見られていない。

 だから勝ちたい。
 彼女に完全勝利して、俺の魅力をわからせる。

 それが叶った後は迷わない。
 俺は勇気を持って、彼女に告白します。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

浦島子(うらしまこ)

wawabubu
青春
大阪の淀川べりで、女の人が暴漢に襲われそうになっていることを助けたことから、いい関係に。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。

ながしょー
青春
 ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。  このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

恐喝されている女の子を助けたら学校で有名な学園三大姫の一人でした

恋狸
青春
 特殊な家系にある俺、こと狭山渚《さやまなぎさ》はある日、黒服の男に恐喝されていた白海花《しらみはな》を助ける。 しかし、白海は学園三大姫と呼ばれる有名美少女だった!?  さらには他の学園三大姫とも仲良くなり……?  主人公とヒロイン達が織り成すラブコメディ!  小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。  カクヨムにて、月間3位

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

俺の家には学校一の美少女がいる!

ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。 今年、入学したばかりの4月。 両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。 そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。 その美少女は学校一のモテる女の子。 この先、どうなってしまうのか!?

処理中です...