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最終章 孤独を越えて
LO(2)
しおりを挟む「結衣、起きてるか?」
「みさきのことなら本人に聞くのが一番ですよ」
「……いつも思うんだが、なんで言わなくても分かるんだ?」
「当然のことです。あなたの妻なのだから」
「そうか。それは恐れ入った」
「ええ、とことん思い知ってください」
「……子供の成長は早いな」
「そうですね」
「今のみさきには、どう声をかけたらいいものか」
「みさきは昔から大人びていましたからね。身長は驚くほど伸びました。弟達から好かれていて、私も頼ってしまっています。ゆいなんて、学校で何度も助けられているそうです」
「ゆいちゃんは、昔から変わらないよな」
「あの子はあの子で、立派に成長していますよ。幾分か口が悪くなりましたが、年齢を考えれば、しっかりしています。みさきと比較するのは少し酷でしょう」
「ああ、みさきは本当にすごい」
「不合格です。みさきは昔のままですよ」
「……昔のまま?」
「話せば分かります」
「…………」
「今なら、まだ起きていると思いますよ」
「……本当に、お前は」
「行ってください。こういうことは早い方が良いと思います」
「ああ、分かった」
おぎゃあああああああああ!
「おーよしよし、怖い夢でも見ましたか?」
おぎゃぎゃあああああああ!
「あらあら夜泣きの二重奏です。友里と結花は、きっと仲良しになりますね」
どごっ、どごっ!
「うっ、お腹の子も反応しています」
「……大丈夫か?」
「平気です。来年には八児の母なのですよ? ゆいとみさきも含めれば、十人目です。だから今は、みさきを優先してください」
「……ああ、分かった」
*
遠くから赤ちゃんの泣く声が聞こえてくる。
こんなことは慣れっこだけど、今夜は少し気になった。
眠れない。
いろいろ考えてしまって、ちっとも眠くならない。
「……みさき、起きてるか?」
っ、りょーくんだ。
なんで、急に……どうしよ。
「入るぞ」
えっ、待って!
「悪いな、起こしたか?」
「平気、起きてた……なに?」
りょーくんはポリポリと頬をかいて、
「久々に、一緒に寝ないか?」
「……なんで?」
なんで急に、一緒に寝ようなんて言うの?
「最近みさきと話す機会が少なかったから、寂しくて」
りょーくんは、嘘が下手。
でも今の言葉は、とても嬉しかった。
「狭いよ」
「昔みたいに俺の上に乗れば大丈夫だろ」
「重いよ」
「安心しろ。悪ガキ達で鍛えてる」
りょーくんは弟達に甘い。その分だけ結衣さんが厳しいから、りょーくんはとっても弟達に好かれている。凄い時は、五人揃ってりょーくんに抱き付いてる。
だから、私ひとりくらい大丈夫なんだと思う。
でもなんだか……ちょっと恥ずかしい。
「りょーくん、えっち」
「そうなるのか!? 悪かった、別に下心とかは無いんだ!」
「りょーくん、ひっし」
「……みさき、からかってるだろ」
バレた。
でも、りょーくんだって照れ隠しで結衣さんに意地悪してるの、知ってる。だからこれは、りょーくんのマネ。
……結衣さんが、言ったのかな。
「聞いたの?」
楽しい時間は終わり。
ちょっと寂しいけど、私から話を振った。
りょーくんが部屋に来る理由は他に考えられなくて、明日もお仕事があるのに、私のせいで睡眠時間を奪ってはいけない。
「ごめんね」
りょーくんはとっても忙しいのに、私のせいで心配をかけてしまったことが、申し訳ない。
「みさき」
顔を上げる。
同時に、ポンと頭に手を乗せられた。
「弟達は好きか?」
「……ん?」
「明は特に懐いてるよな。海誠はゆいちゃんにベッタリだけど、悟と拓海は、いつもみさきの話をしてる」
りょーくんは楽しそうに弟達の話をした。
その顔を見ると、やっぱり私は嬉しくなる。
もっともっと、りょーくんに喜んで欲しくなる。
「夏樹くんも、ベッタリ」
「ああ、そうだな」
「みさきねーちゃん、大人気」
「ああ、みさきは立派なお姉ちゃんだ」
そう言って、りょーくんは頭を撫でてくれる。
嬉しい。とっても嬉しい。
みさきは、この為に頑張ってるんだよ。
りょーくんに褒めて欲しくて、喜んで欲しくて、その為だけに頑張ってるんだよ。
「りょーくん」
そっと服を掴んだ。
このまま抱き付いて昔みたいに思い切り甘えたい。
「……私、高校、行かない」
言うつもりは無かったのに、口が勝手に動いてしまう。
「りょーくんと、ずっと、一緒がいい」
そのまま、幼い子供みたいに甘えてしまった。
頭では分かっているのに、我慢できなかった。
きっと怒られる。優しいりょーくんに、普通のお父さんみたいに、怒られる。
そう思うと、少し泣きそうになった。
「……みさきがそうしたいなら、そうすればいい」
だけど、りょーくんは怒らなかった。
「ごめんな。みさきに頼ってばかりで、みさきのこと、考えてやれなかった」
なんで謝るの?
私、ワガママを言っただけなのに。
「みさき、ゆいちゃんは先生になりたいらしいぞ」
「先生?」
「ああ、子供達からチヤホヤされたいそうだ」
「ゆいちゃん、正直」
知らなかった。
ゆいちゃん、先生になりたいんだ。
「明は将来の夢を聞かれて、みさきねーちゃんって答えたそうだ」
「叱って」
「いいじゃねぇか。可愛いだろ」
「恥ずかしい」
あーくん、やんちゃ。
「まあとにかく、下の子達も、そのうちやりたいことを見付けると思う」
……りょーくんの言いたいこと、分かった。
「私は、無いよ」
「俺もそうだ」
私は驚いて、だけど直ぐに気が付いた。
りょーくんの趣味とか、何も知らない。
私が頑張った時、家族と一緒に居る時、りょーくんは嬉しそうな顔をする。でも、りょーくんが一人で居る時のこと、何も知らない。
「運動が得意だった。勉強も出来て、学校で教わるようなことなら、誰にも負けなかった。みさきと同じだ」
それは私の知らないりょーくんの話。
とっても興味深いと思った。
「なんでも出来たのに、なんにも出来なくて、興味も持てなかった」
りょーくんの声が、どうしてか胸に突き刺さる。
本当に、同じだ。学校では何でも出来て、みんなにすごいねって言われるけど、嬉しくないし、興味も無い。
……そっか、分かった。
りょーくんは、りょーくんのいない私だったんだ。
もしも、りょーくんが居なければ……私は、どうなっていたんだろう。
「みさき」
名前を呼ばれて、顔を上げた。
りょーくんは私の目を真っ直ぐ見る。
「みさきは何でも出来る。俺が何でもやらせてやる」
りょーくんは、笑顔で言う。
「だからまず、みさきがやりたいことを見付ける為に、俺が知ってる最強の方法を伝授する」
「……なに?」
「友達を作れ。いろんな人と仲良くなれ」
「……それだけ?」
聞き返すと、りょーくんは力強く頷いた。
「ゆいちゃんから聞いてるぞ。みさき、友達いないんだろ?」
「ゆいちゃん」
「他には?」
「瑠海ちゃん」
「それから?」
ゆいちゃん……覚えてて。
「たまに、声、かけられる」
ちょっとだけムキになって言うと、りょーくんは笑った。
なんだか子供扱いされていて、とても微妙。
「部屋、戻って」
「怒るなよ」
「戻って!」
「分かったから押すなって」
りょーくんは素直にドアまで歩いて、
「友達の話を聞けるの、楽しみにしてるからな」
「……ん」
頷いて、私は頭から布団を被った。
それから暫くして、ドアの閉まる音が聞こえる。
「……」
ひょっこり布団から顔を出して、本当にりょーくんがいないことを確認した。
「りょーくん、大好き」
ひっそりと、私は呟いた。
りょーくんは、やっぱり世界で一番かっこいい。
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