日刊幼女みさきちゃん!

下城米雪

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最終章 孤独を越えて

SS:おるすばん!

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 龍誠達が買い物を終えた頃。
 みさきは、ぽかぽかしていた。

 まだ年が明けたばかりで雪が降ってもおかしくない時期。部屋の中に居てもそこそこ寒い。

 だけど窓際は別。
 太陽さんがぽかぽか暖かい。

 窓際で丸くなっているみさきは、とても良い気分でお昼寝していた。

 もちろん床に寝ているわけではない。
 みさきの下にはふわふわの寝袋がある。

 みさきは床だろうと構わず寝るから、龍誠が「せめて、ここで寝てくれ」と言って買い与えたものだ。

 みさきは寝袋をとっても気に入っている。
 あえて寝袋に入らず、上で寝るという使い方をとても気に入っている。

 一方でゆいは、みさきの隣で大の字になっていた。もちろん彼女の下にも寝袋がある。みさきの物を羨ましがって、結衣に買ってもらったものだ。

 ゆいは目を見開いていた。
 ママ達が気になって落ち着かないのだ。

 ピク、ピクとゆいの手足が震える。
 何かしたい。でも何をしよう……何かしよう!

 ゆいはクルッと床を転がり、うつ伏せになった。
 それから四つ足で地面を踏みしめて、みさきをロックオン!

「わー!」

 ゆいはみさきに飛び乗った。
 唐突な襲撃に、みさきはゴフッと息を吐きだす。

 二人の身長差は未だに頭一つ分近く、体重もリンゴ人の頭ひとつ分くらい違う。
 みさきの被ったダメージは甚大だ。

 ゆいは思う。
 ふっふっふ、これなら遊んでくれるだろう。
 
 思惑通り、みさきは窓際で丸くなってから初めて目を開いた。
 ゆるりと首を回して、嬉しそうな目をしているゆいと目が合う。

「……わくわく」

 ゆいの口からワクワクが溢れ出た。
 みさきは何も言わず、ゆいのキラキラした目をじーっと見続ける。

 最初は驚きによって見開かれていた目。
 ゆいの姿を見つけて、またかーという感じに細くなって、
 どうしようかなーと考えている間に眠くなって、
 果たしてみさきは何も言わないまま目を閉じた。

「えぇ!?」

 期待を裏切られたゆいは悲鳴を上げた。
 
「うぅぅぅぅぅぅぅ」

 悔しい気持ちを表現している。

「ううぅうぅうぅぅぅぅ!」

 怒りをあらわにしている。

「うううぅぅぅっ、うぅぅううう!」

 涙ながらに遊んでと訴えている。
 しかし! みさきは微動だにしない!

 こんなことは日常茶飯事なのだ。
 オオカミ少年の話を聞くが如く、みさきはゆいより睡眠を優先する。

 だがゆいは諦めない。
 なんとしても、みさきと共に遊ぶのだ。

「うううぅうぅぅぅぅ!」

 ゆいはみさきのお腹に頭を押し付けて、じたばた足を動かした。通称、ママのマネである。

 これを見ると、ゆいは思わず隣でマネをしたくなっていまう。そうしていると、ママは嬉しそうに何があったか聞かせてくれるのだ。

 昨日も同じことがあった。
 ゆいは三十分くらい隣でじたばたしていた。

 きっとみさきもマネしたくなるはず!

 ――十分後。

 みさきは穏やかに眠っていた。

「……ううぅぅぅ」

 ゆいは困惑した目でみさきの両肩を揺らしている。
 どうして無視できるの? まさか寝ちゃった?

「むむむむ……」

 ゆいは考えた。
 思わずみさきが飛び起きちゃうような作戦を必死に考えた。

 そして、思い付いた。

 ゆいは思う。
 なんて恐ろしい作戦なのだろうと。

 これならば、みさきは決して抗うことが出来ない。
 ふっふっふ、あたし天才。

 そんな気持ちで、ゆいは立ち上がった。

「すぅ、はぁー」

 呼吸を整えて、大きく息を吸う。
 ピッと人差し指を伸ばして、玄関に突き付けた。

「あ! りょーくん帰ってきた!」

 瞬間、みさきは体を起こした。
 それを見てゆいは勝利を確信する。

 だがこの時、ゆいは気が付いていなかった。
 みさきは大人しく眠っているように見えて、本当は騒ぎ続けるゆいを鬱陶しく思っていた。ゆいの嘘もあっさり見抜いている。

 徐に起き上がったみさき。
 その姿を見ながら、ゆいはみさきが玄関の前で首を傾ける未来を幻視した。

 だまされたー!
 と言って笑う準備は万端だ。

 しかし、ゆいの思惑とは裏腹に、みさきは玄関を目指さない。

 あれれ?
 首を傾けるゆい。

 みさきは何も言わないまま冷蔵庫を目指して、中から赤い悪魔を取り出した。

「トマトやだ!!」

 全てを察したゆい。
 だがみさきは容赦しない。大きなトマトを持って、真っ直ぐゆいの口を目指す。

 安眠を妨げた罪はあまりにも重いのだ……。

「いやー!」

 リビングのソファを盾にするゆい。
 迫るみさき。

「トマト嫌い!」

 ソファを軸に、二人の追いかけっこが始まった。
 
「いやだー!」

 叫ぶゆい。
 ひたすら無言で追いかけるみさき。

 それから暫く、二人はソファの周りをグルグル回り続けたのだった。
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