日刊幼女みさきちゃん!

下城米雪

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間章 みさき色

SS:みさきと奪還作戦

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「だっかんさくせん!」
「なんだって?」

 だっかんさくせん……奪還作戦?
 ゆいと公園で遊んでいた龍誠は、ゆいが突然叫んだ言葉に首を傾けた。

「このままでいいですか!?」
「何が?」
「にぶちん!!」

 ゆいは地団太を踏んで、全身全霊で怒りを表現する。

「みさきがママにとられますよ!?」
「あぁ、そういうことな」

 ははーんと龍誠は得心が行く。ここ最近は結衣とみさきがベッタリだから、恐らくみさきにママを盗られたと感じているのだろう。

 難しい言葉を使うから何かと思った龍誠だが、理由を聞いて納得した。

「ムキー!」

 その余裕な態度がゆいは気に入らない。
 みさきとは対照的に感情を爆発させるゆいを見て、龍誠は妙に楽しい気分になる。果たして、ちゃんと相手をしてあげることにした。

「確かに、それはヤバイな」
「われにひさくあり!」
「秘策か。どうするんだ?」
「イチャイチャします!」

 イチャイチャするのか、と龍誠は笑いながら言った。

「ママもみさきもしっとします!」

 ゆいは語彙力が豊かなのか乏しいのか分からない言葉遣いで、続けて言う。

「だっかんさくせん!」

 かくして、ゆいによるママ奪還作戦が始まった。
 


 公園での遊びを切り上げ、早速部屋に戻った二人。
 きちんと手洗いうがいをした後で、みさきと結衣が座っているソファへ向かう。

「おかえりなさい。早かったですね」

 結衣はみさきの頭を撫でながら言った。
 みさきも片手をあげて、おかえりと無言で伝える。

 龍誠達はただいまと返事をして、ソファに腰をおろした。
 もちろん、ゆいは龍誠の膝の上に座る。

「ゆい、ちゃんと遊んでもらえましたか?」
「はい!」

 元気良く返事をするゆい。
 その後、くるりと体を反転させて、龍誠に飛びついた。

「りょーくんだいすき!」
「おう、そうか」

 事情を知っている龍誠は、ただただ微笑ましい気持ちで、ゆいの背中に手を当てた。それから察してやれという意味を込めた視線を結衣に送る。

 結衣は視線に気が付いたけれど、流石に伝えたいことまでは分からなかった。

 あらあら、すっかり懐いてしまったようですね。程度の感想しかない。

 そんな結衣の隣で、みさきの手がピクリと動いたことをゆいは見逃さなかった。

「りょーくんだいすきぃ!」

 みさきのことを全力で意識しながら、ゆいは繰り返す。

「チューしよ!」
「おう、いいぞ」
「ダメです」

 即座に止めた結衣。
 龍誠は彼女の表情を見てゾッとする。

「悪いなゆいちゃん。怒られちゃった」
「おこられちゃったー!」

 スリスリと龍誠の胸に頬を擦り付けるゆい。
 また一連の流れを受けて、ようやく結衣は事情を把握した。

 ……なるほど。みさきの相手ばかりしていましたからね。

 お手数をおかけしましたという意味を込めて、結衣は視線を返した。
 龍誠は、気にするなと目で返事をする。

 とそこで、みさきの我慢が限界に達した。

「……っ」

 ソファの上に立ち上がって、みさきは龍誠と結衣の間に体を入れる。

 それから抱き着いているゆいと龍誠の間に頭から突っ込んで、強引に場所を奪おうとした。

 ゆいはニヤリとして、少し抵抗した素振りを見せた後で場所を譲る。

「ママ! みさきにりょーくんとられちゃった!」
「はい、残念でしたね」
「ざんねん!」

 嬉しそうに結衣に飛びついて、ゆいは残念がる。

 ふっふっふ、みさき、あたしに嫉妬したのね!
 という視線を向けるゆい。

 一方でみさきは、りょーくんは渡さないという目で、結衣のことを見ていたのだった。
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