日刊幼女みさきちゃん!

下城米雪

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間章 みさき色

SS:みさきと手伝い

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 子供など勝手に成長するものです。私達がそうだったでしょう? そもそも子供の成長は喜ぶべきものであり……というのが、あの後に結衣から聞いた言葉だ。

 その翌日の夜。
 仕事から帰った俺は、早速みさきの夜食を作り始めた。この前は側に来て手伝うと言ってくれたみさきだが、その時に断ってしまったせいか、以後は大人しく座って待っている。

 ……どうする。

 こっそり目を向ける度、口を一の字にしたみさきと目が合った。

 その目を見るに、きっと早く食べたいのが半分、寂しい気持ちが半分といったところだろう。

 ……子供の成長は、親にとって喜ぶべきもの。

 結衣の言葉を思い出す。
 彼女は次に、こんなことも言っていた。

 子供が成長する度、親の力は不要になるでしょう。だけど必ず助けを要する時が来る。そうなった時に頼れる存在であれば良いのです。頼られたいからといってお手伝いを断るなど以ての外。

 その言葉は龍誠の胸に突き刺さった。

「……」

 やるべきことは分かっている。
 だがガキみたいな意地というか、なんというか、上手く言葉が出てこない。

 なんて声をかければいい?
 ここは軽い感じで「ヘイみさき、一緒に料理しようぜ!」というのはどうだろう。

 いやいや、今迄ヘイなんて一度も言ったことねぇだろ。
 もっと普通に「みさき、手伝ってくれないか?」とかでいいんじゃないか?

 待てよ。昨日「いない!」って隠れられたみたいに「やらない!」って拒否されたらどうする? 今度こそ自殺するぞ、マジで。

 ああでもない、こうでもない。
 チクショウ! いったいどうしたら!?

「……りょーくん」
「みさきっ?」

 いつの間に足元まで……。

「どうかしたのか?」

 まさか時間がかかり過ぎて怒ったんじゃ……。

「……」

 みさきは口を一の字にして、俺を見上げたり、そっぽを見たりを繰り返している。
 俺は目が合う度に緊張して、目が逸れる度に脱力した。

 そんなことを暫く繰り返して、みさきは言った。

「……てつだう?」

 なんだと。
 しまった、みさきから言われてしまった!

「……いらない?」
「いや、それは……」

 何してんだバカ! ここは即答する以外にねぇだろ!

「みさき……」

 落ち着け、言葉なんて伝われば大丈夫だ。
 それに昨日の会話に比べたら気恥ずかしいことなんて何も無いはずだ。

 よし……いくぞ……。

「……それじゃあ、一緒にやろうか」
「……」

 やべ、もしかして聞こえてなかったか?
 
 みさきは俺を見たまま硬直している。

 十秒。
 ……二十秒。

 まだ動かない。

 三十秒。
 ……四、十、秒。

 ダメだっ、もう待てない!

「みさきっ」

 声をかけた途端、みさきはジャンプして俺に飛びついた。

「みさき?」

 小さな衝撃に驚いていると、みさきはものすごい勢いで俺の体を登った。

「おおぃ、みさき、危ないって」

 慌てて手元にあったナイフをまな板の下に隠す。
 みさきは肩まで登ったところで動きを止めて、小さな声で呟いた。

「……りょーくん」
「おう、どうした?」
「りょーくん」
「はい、りょーくんです」
「……」

 ちょっと待てみさき、そこで黙らないでくれ。

「……ひひ」

 笑った?
 なぜだ、どういう意味の笑いだ?

「りょーくん!」
「どうしたんだよ、本当に」

 困惑する俺の肩に乗って、みさきは楽しそうに名前を呼び続けている。何を考えているのかはさっぱり分からないが、みさきが楽しそうだから、それで十分だった。

 ……なんだよ、こんなに簡単なのか。

 たった一言で、昨日まで暗い顔をしていたみさきが笑ってくれた。

「みさき、そこからどうやって料理の手伝いをするんだ?」
「りょーくん!」
「おう、そうか」

 俺の名前しか言わなくなっちまった。
 ……まぁ、いいか。

「よし! みさき、りょーくん頑張って作るから、そこから応援しててくれ」
「りょーくん!」

 みさきの声を聞いていると元気が出る。
 今のみさきは俺に甘えるのが好きだけれど、きっと成長するにつれて離れていくのだろう。その時が来るのは、他の子供よりも早いに違いない。

 だけど、それを悲しいこととして考えるのはもうやめよう。
 俺はみさきの親として、今のみさきが喜んでくれることを精一杯にやろう。

 そしたら、未来のみさきも、少しくらいなら甘えてくれるかもしれない。
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