日刊幼女みさきちゃん!

下城米雪

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第五章 未来のこと

新居で騒いだ日(朝)

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 玄関の先には狭い廊下があった。
 廊下を挟む壁はしみひとつ無い白色で、左右にドアが二つずつ。
 右側は洋室に、左側はトイレと浴室に繋がっている。

 洋室の広さは六帖ほどで、前の部屋より少し狭い。
 しかし、それが二部屋ある。
 しかも、廊下の先には部屋を二つ合わせても足りない広さを持った場所がある。

 間取り図にはLDKと示されていた場所は、キッチン、机、それからソファとテレビが置かれた三つのエリアに分かれていた。

「……ゆいちゃん、みたい」
「ああ、そうだな」

 あちらの方が少し広いけれど、間取りは似たような具合だ。
 
 ここが新しい住処。
 俺とみさきは、今日からここで暮らす。

「ええと、ここもパシャった方がいいんですかね?」

 部屋に入るなりケータイのカメラ片手にパシャパシャしている小日向さんと共に。

 ……一応、聞いとくか。

「小日向さん、なんで写真撮ってんだ?」
「あっ、その、引っ越したら先ずはパシャパシャしておけとネットに書いてありました。最初からあった傷でお金を請求されるトラブルがあるそうで……」
「マジか、それはやばいな」

 てっきり記念撮影的な儀式なのかと思ってたが、流石は小日向さんだ。情報収集能力が高い。

「俺も手伝おうか」
「どもです。けど、これは一人の方がやりやすいですので、お気持ちだけ」
「そうか。じゃあ俺は、とりあえず外のダンボール部屋に」
「はい、よろしくお願いします」

 こんな流れで役割分担をして、俺は部屋の外に出た。

 運ぶ荷物が少なかったから、俺達は引っ越しトラックに乗ってここまで来た。マンションに着いた後は、三階にある部屋の前までダンボールを運んで貰って、そこで引っ越し業者さんとさよならした。

 そういう経緯で一時的に放置されているダンボールを持ち上げて、部屋に戻る。

「……んんーっ」

 後ろから聞こえた声に振り向くと、みさきがダンボールを持ち上げようと頑張っていた。

「ははは、重たいか?」
「……んーっ」

 踏ん張っているが、持ち上がらないようだ。

「ありがとな、みさき。ダンボールは俺が運ぶから、中で待っててくれ」
「……ん」

 少ししょんぼりした様子で部屋の中に戻ったみさき。そのまま廊下を少し歩いて、クルッと回転する。

「……ん」

 俺が持っているダンボールに手を添えて、得意げな表情を見せたみさき。

 正直戦力としてはマイナスだが、この気持ちは嬉しい。

「よし、じゃ声出して運ぶぞ……いち、に、いち、に」
「い、に、い、に」

 仲良く荷物を運んでいると、途中で小日向さんが現れた。
 せっかくなので、みさきと二人で記念撮影。

 荷物を運んだ後、小日向さんと二人で隣に住んでる人と管理者に挨拶をした。

 こうして、やるべきことが一通り終わった後、俺達は広い部屋に立ってそわそわしていた。

 一言で感想を述べるなら、やばい。

 まず天井が高い。背伸びした時、手を伸ばすと当たってしまうけれど、頭はぶつからない。これは評価が高い。

 左手に目を向けるとキッチンがあり、当たり前のように設備が整っている。フライパンや包丁といった物は購入しなければならないようだが、我が家に電子レンジがあるというのは感動だ。コンビニで買った飯を温めることが出来る。

 真ん中には机があって、みさきは普通の椅子だと座高が足りなそうだけれど、親切なことに子供用の椅子が備え付けられている。

 そして右手にはテレビ、テレビがあるのだ。テレビがあるということは電気も通っている。せっかく買ったワイヤレス電源が不要になるのは寂しいが、なんというか現代人っぽい設備に感動する。

 不要になったといえば、俺が持っている物の中で最も高価だった布団すら不要になってしまったことも思い出す。部屋には、みさきと二人で寝ても十分な広さのベッドがあった。もちろん布団もあって、しかも俺が買った布団より高級そうなヤツである。

「……本当に、引っ越したんだな」
「……そ、そうですね」

 小日向さんと二人、もう長いこと部屋を見て溜息を吐いている。

 みさきは途中まで一緒に溜息を吐いていたけれど、今は飽きたのか冷蔵庫で遊んでいた。パカパカ開けるのが楽しいらしい。

「このあと、どうしようか」
「……どう、しましょうか」

 やるべきことは全て終わった。
 やる前には大変な事が多い印象があったし、実際面倒だと感じる瞬間も多かった。しかし終わってしまえば、なんだこんなものかという感じだ。

「とりあえず飯でも食うか」
「……そ、そっすね」

 なんだかんだで引っ越しという大きなことをした日だ。今日は奮発して、少し豪華な所で食うのもいいかもしれない。

 豪華な所って……どんなとこだ?
 回らない寿司とかか?

「小日向さんは、何か食べたい物とかあるか?」
「……すー、はー、はー、すー、はすはすー」
「小日向さん?」
「は、はひっ、なんでそ!?」

 どうしたんだ?
 まあ、いつものことか。

「何か食べたい物とかあるか?」
「しょ、ショクジスカ?」

 コクリと頷く。
 小日向さんは不思議な返事をした後、カクカクした動きで言う。

「そ、その……わ、わたっ、わたくし…………甘い物が、食べたいです」
「甘い物か。なら、この前みさきと行ったケーキバイキングなんかいいかもな。あの日は口元にクリームをみさきが可愛かったなぁ……」
「……ケーキバイキング……いいですね。ふひひ」

 なんだか乗り気じゃない感じだが……まあいいか。

「それじゃ、早速行こうか」
「……はい」

 みさきに声をかけて、部屋を出る。
 部屋を出た後、忘れずに鍵をかけて、そこで気が付いた。

「小日向さん、これ」
「……こ、これは」
「見ての通り鍵だ。悪い、渡すの忘れてた」
「……は、はひ」

 またもカクカクした動きで両手を出した小日向さん。そこに、そっと鍵を落とす。

 小日向さんは大事そうに鍵を握り締めた後、腰の位置にある桃色のポーチを開いて、そこに入れた。

「よし、行こうか」

 と、まあこんな具合に。
 俺達の新生活が始まったのだった。
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