日刊幼女みさきちゃん!

下城米雪

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間章 芽生え

SS:忘年会

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 合同会社SDSでは、クリスマスに忘年会的な行事を行った。だからといって年末には何もしないということはなく、やはり何らかの行事を行うようだった。

 そこで俺はロリコン達にKOYを紹介した。

 KOYは兄貴が一人でやっている小さな店で、店内にはカウンター席があるだけ。その数はピッタリ四人分で、奥に座った俺に続いて、優斗、拓斗、彩斗の順番で席に着いた。

 時刻は午後九時。
 この店の周りに立ち並ぶ飲食店はとても繁盛していたが、ここは相変わらずで、店内には俺達だけだった。

「あはっ、たまに汚いラーメン屋は最高って聞くけど、実際こういう店に入るのは初めてだよ」

 兄貴、もとい店主が見ている前で「汚い店」と言い放った彩斗に苦笑いしつつ、兄貴に挨拶する。

「相変わらずシケた店だな、大丈夫かよ」
「相変わらずクソ生意気なガキだな。余裕に決まってんだろ」

 どう考えても俺の態度の方が悪いことには目を瞑って、とりあえず三人を紹介した。兄貴とロリコン達は即座に打ち解けたようで、暫く会話が盛り上がっていた。

 会話の流れは良く分からないが、婚期がどうとか言っている。楽しそうだけれど、オッサン達が満面の笑みを浮かべて話し合っている絵面に混ざろうとは思えなかったので、俺は息を殺しておとなしくしていた。

 やがて話が一段落すると、ロリコン達は兄貴に言われるがまま最も高い品を注文した。せっかくなので、俺も同じ物を注文する。商品名は聞けなかったが、兄貴の作る飯なら外れは無いであろう。

「素晴らしい店だな天童龍誠。まさか同志に出会えるとは思わなかったよ」
「……そうか」

 婚期について話し合う同志ってどういうことだ。
 兄貴ってまだ独身だったのか?

「あはっ、気の良い人だよね」
『たまにはこういうお店もいいよね』

 他の二人にも概ね高評価らしい。
 それは良いのだが……気になる。

「なぁ、あんたって独身なのか?」
「はぁ? なにバカなこと言ってんだ。俺がいくつだと思ってやがる」

 いや年齢は聞いたこと無いが……とりあえず結婚してるってことか。

「あはっ、帰りたい」

 いかん、あいつがいるのを忘れてた。

『落ち着いて彩斗。きっと三ヶ月周期で替わるアレだよ』

 なんだそのフォロー。

「あはっ、だよね」

 納得しやがったよ。いいのかそれで。

「たく、おかしな質問しやがって。逆にテメェは、娘はいるけど独身なんだったか?」
「ああ、そんな感じだ」

 よく覚えていないが、みさきとの関係についてはふんわりと話したような気がする。多分その時のノリで作り話をしているので、ここで詳しい話をされたら少し面倒なことになりそうだと思ったが、果たして杞憂に終わった。

「ちなみに僕達も独身だ。嫁はいるけどな」

 なに言ってんだこのロリコン。

「んなノンキなこと言ってると、あっという間に魔法使いになっちまうぞ」
「ふっ、残念だったな店長さん。僕は既に、IT業界では魔法使いの異名を持つプログラマーで」
『優斗、涙拭いて』
「泣いてニャイ!」

 いかん、会話の意味が分かるようで分からん。

「合コンだぁぁぁぁあ!!」

 彩斗!? 突然なに叫んでんだこいつ。

「天童くん、この前の工場のあのボス的なギャルと仲が良かったよね。君が頼めばいい感じにセッティング出来るんじゃないかな? ほら、あの工場って女の子ばかりだったし」

 他の二人を挟んだ位置から熱弁してくる彩斗。

「おいコラ天童龍誠、その話僕は聞いてないぞ。仲が良いってどういうことだ」
「落ち着けロリコン。おまえ十歳以上には興味無いんだろ」
「それとこれとは別なんだよ!! じゃあ天童龍誠はみさきちゃんくれって言ったらくれんのかよ!?」
「やるわけねぇだろ」
「そういうことだよ!!」
「いやどういうことだよ」

 冷静に返答していると、ロリコンは「ああぁぁ!」と髪をかきむしった。それから俺の顔を睨みつける。

「その余裕な表情にガンジーの跳び蹴りをくらわせてやりたい! みさきちゃんか!? みさきちゃんがいるからなのか!?」
「いいや優斗、もしかしたら天童くんには彼女がいるのかもしれない。きっと僕達に隠れて影でこそこそこそこそこそこそこそおぉおおおおぉおお!!」
「お前ら落ち着け、なんなんだ急に」

 ガンガン迫ってくるロリコンと、いつの間にか向こう側の席から飛んで来ていた彩斗を手で抑えて言った。マジで何なんだこいつら。

「その話については俺も気になるな。テメェ、そういう浮いた話はねぇのか?」
「ねぇよ」
「ほぉ、檀先生とはどうなんだ?」
「はい新キャラ登場ぅうぅぅううぅぅぅうう!」
「あっは、やる? やっちゃう? やっちゃおうよこのリア充」
「店長! あんまこいつら刺激すんな!!」

 調理中の兄貴の背中に向かって抗議する。顔は見えないが、確実にムカツク表情をしているのが分かった。あの野郎、楽しんでやがる。

「小日向さんは友達だ。かなり世話になってるが、そういう目で見たことは……無い」
「はい間があったぁ!」
「あっは、あはは、あはははは」

 チクショウ駄目だ。何を言っても火に油を注いじまう。

「おい拓斗、こいつらどうやったら大人しくなる?」

 俺は助けを求めて、いつの間にか遠い席に逃げていた拓斗に声をかけた。

『……』
「拓斗?」

 暫く間があって、

『合コン、セッティングするしかないんじゃないかな☆』

 ……拓斗、おまえもか。



 果たして、俺は朱音に頭を下げることになった。

 しかし結婚か……あまり実感が無いけれど、気が付けば俺も25歳。少しはそういうことを考えるべきなのだろうか。

 とはいえ、浮いた話とか経験が無いし、そもそも相手がいない。知り合いと呼べる女性も、小日向さんと朱音と、あと結衣の三人だけだ。

 こういう話をしたことは無かったけれど、彼女達はどうなのだろう。

 小日向さんは恐らく俺と同じ状況だ。

 結衣は夫に逃げられたとか言っていたが、実際のところはどうなのか分からない。

 朱音とは再会したばかりだが、あの従業員達の反応を見るに相手はいないのだろう。

 まぁ、こんなことを考えたところで俺と彼女達がどうこうなることは無いのだろうが……もしもの話をしよう。もしも俺がこのまま独身で居続けて、成長したみさきが、その、結婚することになったとしよう。

 みさきを幸せにすると決意した手前、誰かに委ねるというのは想像するだけでも血を吐きそうになるが、きっとみさきが望んだことならば俺は血の涙を飲んで了承するだろう。

 とりあえず相手は半殺しに……いや、いっそ成長したみさきと俺が!

 ……冷静になろう。

 さて冷静になったところで何も変わらないのだが、みさきの方が先に結婚するという状況は、きっと死よりも辛いだろう。

 俺自身はどうなっても構わないが、介護とかそういう理由でみさきに迷惑をかけるのは嫌だ。いったい何年後の話だよとは思うけれど、時の流れなんてあっという間だ。

 あらためて、結婚について。

 さっぱり分からん。
 だけど、少しは意識してみよう。

 そう思った忘年会だった。
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