日刊幼女みさきちゃん!

下城米雪

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Ex:ゆいはみさきに勝ちたい!

11:みさきを本気にさせようプロジェクト

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「みさきを本気にさせようプロジェクトですか?」
「ああ、今朝ロリコ――社長に話を聞いて閃いた」

 龍誠は、長い息を吐いた。
 頭の中を整理するように、静かに息を吐いた。

 とても真剣な横顔を見て、結衣は、これまで以上に気を引き締める。

「小学生の時のこと覚えてるか?」
「ええ、もちろんです」

 忘れるはずがない。
 それは結衣にとって大切な思い出だ。

「……あのころ、俺は何も知らなかったんだ」

 龍誠は昔を懐かしむような目で話を始めた。
 それは静かで、少しだけ寂しそうな声音だった。

 当時、龍誠はヒトの感情に疎かった。
 あまりにも特殊な環境で育ったことにより、怒りという感情を目にしたことが無いほどだった。

「だから、結衣と話をするのは本当に楽しかったよ」
「……そうですか。私も、まあ、それなりでしたよ」

 最初は物珍しいだけだった。
 しかし話を続けるうちに、もやもやした感情が生まれるようになった。どうにか言葉にしたいのだけれど、どうしても言葉にならない感情――楽しいという感情を前に、困惑していた。

 当時の龍誠が楽しいという感情を自覚することは無かった。それよりも早く、事件が起こったからだ。

「そこから色々あって、今では普通になれた。だから、みさきも大人になれば普通になるんだと思う」
「……そうですね」
「だからこそ、今回は良い機会だと思ってる」

 龍誠は、強い意志を持って言う。

「時間は何も変えてくれないからな」

 その言葉を聞いて、結衣は目を閉じた。瞼に浮かぶのは、ガムシャラに動き回っていた頃の龍誠だ。

 きっと本人は意識していない。
 ただ無意識に刻まれた感覚に従っているだけだ。

 ヒトは大人になる。
 ただ生きていれば、時間が大人にしてくれる。

 それは嘘だ。
 
 龍誠は必死になってスタートラインに立った。みさきの小さな手を取って、小さな一歩を踏み出した。

 何か大きなことを成し遂げたわけではない。
 ただ必死だっただけだ。立派な親になる。みさきに生まれてきて良かったと思わせる。そんな抽象的な目標に向かって、立ち止まらなかった。

 その結果、今がある。
 普通の――普通よりもずっと幸せな今がある。

「ゆいが、言っていました」

 龍誠は結衣に目を向ける。
 結衣も龍誠を見て、微笑みながら言う。

「あたしはお姉ちゃんだから、みさきより頑張る。あの子は、みさきを――妹には負けたくないと言い続けていました」
「……そうか」

 妹という言葉に目を細める。
 龍誠はゆいとみさきが仲良しなのを知っている。そのうえで、今の言葉は嬉しかった。

「なら俺も教えてやる。みさきは、負けず嫌いだ」
「みさきがですか?」

 結衣にとっては違和感のある言葉だった。
 みさきは、なんでも簡単にクリアしてしまう。勝ち負けとは縁遠い存在だと認識していた。

「最初会った頃は字も書けなかった。運動も苦手で、タ行が苦手だった」
「タ行ですか?」

 ありし日の発生練習を思い出す龍誠。
 何も知らない結衣は、思わず眉を寄せた。

「みさきも最初からなんでも出来たワケじゃないが、負けず嫌いだった。何度も挑戦するんだよ」

 それは結衣の知らないみさきの姿。

「結衣は見たことねぇだろ。あいつ、出来ないことが出来るようになったとき、すげぇ嬉しそうな顔するんだよ」
「……意外ですね」
「だろ?」

 龍誠は不適に笑って、

「そこで、こいつの出番だ」
「……それは、ゲームですか?」
「ああ。だが普通のゲームじゃない。改造した」
「改造ですか?」
「確率とか色々いじったんだよ」
「なんだか龍誠くんが凄腕のプログラマに見えます」
「どういう意味だよ」
「褒め言葉ですよ?」

 イタズラが成功してニヤニヤする結衣。龍誠は唇を尖らせながらも、楽しそうな目を結衣に向ける。

 ふと、二人の視線が重なり合った。

 時間は夜。
 場所は自室。

 すぐ隣に娘達の部屋があって、すぐ側で幼い長男が寝ている。

「ダメですよ」
「なにが?」
「この子が生まれるまでは、ダメですよ」

 先手を打つ結衣。

「べつに、そんなつもりはなかったんだが」
「嘘です。すーぐ止まらなくなるのが龍誠くんですから。ゆいもりょーくんはエッチだと怒っていました」
「あれは運動のサポートをっ――」

 ……

「娘達のことも良いですが、たまには私も構ってくださいよ」
「生まれるまで我慢じゃなかったのか」
「全部とは言ってません」

 仲睦まじい二人である。
 そんなこんなで、この時から計画は始まっていた。
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