日刊幼女みさきちゃん!

下城米雪

文字の大きさ
上 下
107 / 221
第三章 りょーくんのうた

第十一話:みさきと――力が、欲しいか?

しおりを挟む
「みんなぁ! ありがとぉ~!」

 ☆・:゜*オォォォォヾ(o´∀`o)ノォォォォオ*゜:・☆

 大歓声の中、午後四時を知らせるチャイムが鳴った。それを聞いて、課外活動を控えた高学年の児童達がそそくさと会場を後にする。瑠海は彼らに向かって「またきてるみみん☆」と謎の挨拶を飛ばした。

 週に一度の放課後ミニライブ。それが一年生の教室では定例の行事となっていた。今では学校中に噂が広まり、他の学年からも人が集まる程の人気だ。

 五月が始まる頃には一年生の授業も給食を挟んで午後まで続くようになり、ゴールデンウィークが開けた今では、高学年の児童や手の開いている教員に引率される集団下校が無くなった。

 それでも家が遠い児童などは親が途中で迎えに来たりするが、ほとんどの児童は少なくとも二人以上という条件のもと、一年生だけで帰宅するようになっている。はーい二人組みになってー、という残酷な指示は無く、単純に家が近いかどうかで班決めがなされる。これによって問題が起きた前例は無い為、風岡南小学校では、毎年これを採用している。

「おまたせ~」

 ファンが去った後、瑠海は満足そうな表情をして待たせていた二人の元に駆け寄った。

「るみみん!」
「るっみみ~ん☆」

 ゆいと瑠海の間で謎の挨拶が行われている間に、みさきは荷物をランドセルに片付けて席を立った。それを見て、瑠海は少し急いでアイドルグッズを手提げバッグに片付ける。一方で、ゆいは既に片付けを済ませてあったランドセルを肩に通すだけで準備を終わらせた。

 ゆいとみさきが下校で同じ班になるのは当然として、偶然にも瑠海の家は二人が帰る道の途中にあり、この三人で班が作られることになった。

 瑠海の家に着くまで、およそ二十分。さらに二人が別れるまでは十分ちょっと。これだけの時間がかかるのは、家が遠いというよりも彼女達の歩行速度によるところが大きい。きっと六年生になる頃には、登下校にかかる時間は半分くらいになっているだろう。

「こんしゅうも、だいせいこうだったね!」

 門から出てすぐ、ゆいが甲高い声で瑠海に言った。瑠海は「るみみん☆」と勝利のポーズをして、ゆいに応える。と、拍手しているゆいの先、みさきがぼんやり上を見ている事に気が付いた。

「みさき、きょうも、さくし?」
「……ん」

 毎日一緒に帰っているから、三人は互いのことを良く知っている。

 瑠海はランドセルを揺らして二人の一歩前に出ると、後ろ向きで歩きながら言う。

「るみみん☆ おてつだい、するよ!」

 みさきは素直に頷いた。
 作詞の方法なんて知らないから、手伝ってくれるなら嬉しい。

「かしはね、おもいを、のせるんだよ!」
「おもい?」
「そう!」

 ピッと人差し指を立てて、嬉しそうに作詞理論を語る瑠海。みさきは真剣に聞いているけれど、ちょっとピンと来なかった。ゆいは二人の間でるみみん☆

「……むずかしい」
「そんなことないよ!」

 瑠海は両手を広げて、クルクルとみさきの後ろに回りこむ。

「おもってること、きょくにのせるだけで、いいんだよ!」
「おもってること?」
「そう!」

 みさきは足を止めて、ゆっくりと目を閉じた。
 
 自分は何を考えているのだろう。
 サプライズを計画しているのは、りょーくんに喜んで欲しいからだ。みさきはりょーくんのおかげで、いっぱい嬉しい思いをしているから、りょーくんにも同じくらい嬉しくなってほしい。

 だけど、それを歌にするなんて難しい。簡単に言葉は出てこない。

「るみちゃん、おもい、なに?」
「トップアイドル!」

 瑠海が自作する歌詞にはどんな想いがあるのかと問うと、瑠海は瞬時に答えた。

「みんなをえがおにして、ゆうめいになるの!」
「ゆうめい?」
「そう! にっぽんぢゅうのひとに、しってもらうんだよ! るみみん☆」

 瑠海の言っていることは良く分からないけれど、みさきは何だか、りょーくんに似ているような気がした。それが何故かは分からないけれど、どうしてかそう思った。

 その隣でゆいは「かっこいい!!」と拍手していた。

「……んー」

 口を一の字にして考えこむみさき。
 瑠海は「あるこう!」と言って、みさきの背中を押した。

 と、その時。

「――力が、欲しいか?」

 突如として聞こえた声に、三人は同時に振り向いた。
 そこにはランドセルを背負った男の子――同じクラスの蒼真くんが立っていた。

「……ストーカー?」

 瑠海はみさきの背に隠れて、不審者を見るような態度で言った。

「ふん、然様な戯言を吐けるのも今だけだ」

 蒼真は何故かランドセルを地面に下ろすと、みさきに一歩近付いた。

「汝の魂の声を聞き、人の形をした同胞に伝える手段が知りたいのであろう?」

 小学生離れした語彙力だけではなく、とても一年生とは思えない言語能力で痛い発言をする蒼真。瑠海は彼の言っていることがさっぱり分からなくて、気味が悪いから無視しようとみさきの背を引くのだが、みさきとゆいには彼が作詞の手伝いを申し出ていることが分かった。

「わかる?」

 作詞の仕方が分かるの? とみさき。

「無論だ」

 会話が成立したのを見て、瑠海は目を丸くする。
 え、今の日本語だったの?

「唱えよ」
「むむむ?」

 何を? と思ってゆいは目を細めた。
 その反応を見て蒼真は重々しく頷くと、ポケットから子供向けのスマートフォンを取り出した。

「あー! ダメなんだー! スマホもってきてるー!」

 即座に指摘する瑠海。
 蒼真は涼しい顔でスマホを操作して、ゆっくりと口を開いた。

「……我が手にあるのはひとつの箱。開くことは叶わず、閉じることも叶わぬ。だが一度光を灯したならば、それは電光を纏いて宙に溶ける。繋げ、繋げ、繋げよ我が十の僕。九を囲う零より奏でて四つの詩を二度謳う。召喚魔法――お母さん!」

 prrrrrr
 prrrrrr

「もしもしママ? 作詞ってどうやるの?」
『ごめんねソーちゃん、ママちょっと忙しいから後にして』
「え? あ、はーい」

 ……
 ……
 ……

「……健闘を祈る」

 そそくさとランドセルを背負い、そのまま立ち去った蒼真。

「……なにしにきたの?」
「わかんない」

 厳しい表情で言う瑠海に、ゆいは小さく頷いた。
 その隣で、みさきは彼が言いたかったことを考える。

 大人を頼れ、という意味だろうか?

 頼れる大人となると、まっさきに浮かぶのはりょーくんだ。しかし、今回はりょーくんに内緒にしなければならない。

 となると、次に思い浮かんだのは――
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

元平民の義妹は私の婚約者を狙っている

カレイ
恋愛
 伯爵令嬢エミーヌは父親の再婚によって義母とその娘、つまり義妹であるヴィヴィと暮らすこととなった。  最初のうちは仲良く暮らしていたはずなのに、気づけばエミーヌの居場所はなくなっていた。その理由は単純。 「エミーヌお嬢様は平民がお嫌い」だから。  そんな噂が広まったのは、おそらく義母が陰で「あの子が私を母親だと認めてくれないの!やっぱり平民の私じゃ……」とか、義妹が「時々エミーヌに睨まれてる気がするの。私は仲良くしたいのに……」とか言っているからだろう。  そして学園に入学すると義妹はエミーヌの婚約者ロバートへと近づいていくのだった……。

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

処理中です...