日刊幼女みさきちゃん!

下城米雪

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間章 閑話

SS:僕と夜の街

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 僕は天才だ。
 夜の街を一人で歩く和崎優斗は、不意にそう思った。

 大学に入って直ぐに自らが持つプログラミングの才能を自覚し、二年生になる頃には最先端の研究に携わっていた。

 例えば大規模データの高速処理、強化学習における最適なアルゴリズム、機械による言語の理解など、数々の大企業が競い合うテーマを取り扱った和崎優斗は、学生の身でありながら、常に誰よりも先を行っていた。

 そしてある日、僕の技術を独占して会社作ったら超儲かるんじゃね? と思う。

 二人の友人と共にアルバイトで企業資金を貯め、三年生になる頃には大学を中退して起業した。

 超儲かった。
 ちょろいな世の中! って思うくらい儲かってしまった。

 ではここで、ひとつの哲学的なテーマを扱おう。
 お金がある人間は本当に幸せなのだろうか。

 例えば百億円あったとして、その人は幸せなのだろうか。
 きっと最初の一年は楽しくて仕方が無い。これまで我慢してきたことを何でもやって、好き放題に豪遊する。誰もが夢見る生活だ。だが、その夢を叶えた後は? 豪遊が当たり前になれば、それで満足することが出来なくなる。そうしてやりたかったことをやり尽くした後、その人は一体どうなってしまうのだろう。

 この問いに対して、和崎優斗はこう答える。


 百億あったらどうなるかって?
 そんなの自由に使える時間が増えるだけだろ。


 彼は常に時間が足りない。
 新作ゲームをチェックして、新作アニメを視聴して、ネットで仲間とワイワイして、それ以外の時間は常に世界を創っている。

 彼の最終目標は二次元に行くことだ。二次元に行って、愛するロリ嫁達とイチャイチャすることだ。その目標は遥か遠い所にあり、きっと与えられた寿命を全て使っても時間が足りない。仮に時間が足りたとしても、次々と新たな欲求が生まれ、彼に歩みを止める事を許さないだろう。

 ゲームのキャラメイクだけで一週間以上。
 鉛筆と消しゴムの絡みだけで十年以上。

 それだけの妄想力を持ったオタクに、不要な時間など存在しない。

 彼には多くの実績がある。
 現在、工場にあるロボットの八割は彼が作ったアルゴリズムで動いているし、彼が企業した後に作られたゲームの七割は彼が作ったソフトを利用している。現在、この業界において和崎優斗の名前を知らない人物はいないだろう。それくらい、彼は成功している。調子に乗って仕事を受け過ぎて納期に追われたのは良い思い出だ。

 そんな彼が最高傑作と自負する作品は――幼女攻略シミュレーター。

 ……あの日、僕は初めての挫折を味わった。

 僕は完璧な物しか作らない。それは彼の座右の銘となっている。
 もちろん、彼でも失敗することは有る。しかしながら、失敗を取り戻せないまま三日以上過ごしたことは無かった――天童龍誠に言われて、幼女攻略シミュレーターの欠点を取り除く作業に取り掛かるまでは。

「……ロリコン以外のデータが、入手できないっ」

 昼と夜が逆転した街で、彼は悔しさに顔を歪ませながら呟いた。
 彼がここに居る理由は、近くで『よっこいしょ! ~幼女と恋しょ!~』の限定版が発売されたからだ。発売開始時間は午前零時。和崎優斗は八時間前から店の前で待機していた。今はその帰り道である。

 かつてない屈辱に身を震わせていると、不意に女性から声をかけられた。

「お兄さん、どうかしたの?」

 長い黒髪と薄い化粧。一目でキャバクラのキャッチと分かる清楚系(笑)である。
 和崎優斗は冷めた目を彼女に向けるのだが、彼が傷心中だと勘違いした彼女は、あれこれ喋って、最終的には彼を店へ誘導しようとした。

 さりげないボディタッチを繰り返し、最終的に彼の手に触れる。直後、彼は手を振り払った。
 どうかしたの? そんな目をした女性に向かって、彼はこう言う。

「僕に声をかけるなら二十年遅い。タイムリープして出直してくれ」

 如何にしてロリコン以外のデータを集めるか。
 数キロの道を徒歩で帰る間、彼はずっとそんなことを考えていた。
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