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第二章 仕事と子育て
SS:戸崎結衣(前)
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戸崎結衣は二十三年前の一月七日に一般的な家庭で生まれ、ごく普通に幼少期を過ごした。
ローンを組んで建てた新築の家に両親と三人で住み、近所の幼稚園に通っていた。
特別な事は何も無い。
両親は大学で出会って結ばれた二人で、父はIT企業に勤め、母は家で専業主婦。
結衣と父が家に居ない間、母は完璧に家事をこなす。
結衣が帰宅すると、二人は食事とお風呂を用意して父を待つ。
父が帰宅すると、結衣の元気な「おかえり!」という声で幸せな時間が始まる。
三人とも、そんな日々がずっと続くと思っていた。
変化があったのは、結衣が小学校に入る少し前の事だ。
結衣には特別な才能があった。彼女は人から教わった事を決して忘れないのだ。それは単に記憶力が優れていただけなのだが、親の性というか、結衣に期待した両親は、結衣の将来の為に私立小学校への進学を考えた。
それだけなら、結衣はきっと普通の人生を歩んでいたに違いない。娘を過大評価した親バカな行為として、笑い話になったであろう。
結衣が試験を受けたのは、資本家の子息令嬢達が入学する名門校だ。この学校に入れば、一流大学への進学、および一流企業への就職は約束される。
もちろん入試で競うのは賄賂の額だ。形としては面接を行っているが、それによって合否が決まったことは一度も無かった。結衣が入試を受けるまでは。
結衣は合格してしまった。それは、当時は本人すらも気が付いていなかった結衣の持つ特別な力が原因だった。
そしてこれが彼女の人生を狂わせる事になる。
結衣は学校で孤立した。
当然だ。彼女と他の児童では住む世界が違う。
食べる物、見る物、家での過ごし方、習い事、話題――
教師も彼女の味方はしなかった。
当然だ。この学校では保護者の影響力が桁外れに大きい。
何の力も持たない親の子供に肩入れする理由など、あるはずが無い。
これが、ひとつめの不幸。
結衣が無意識に使っていた特別な力による不幸。
もうひとつの不幸は、彼女が強かったことだ。
学校で孤立する結衣は、しかし家では元気いっぱいだった。
今日は学校どうだった? たのしかったよ!
友達たくさん出来た? もちろん!
――でも、みんな忙しいみたいだから、なかなか遊べないの。
――そう。それなら、我慢しないとね。
うん! 結衣は、笑顔でそう答える。
いつも、いつも、いつも……。
八歳の時、結衣は自分の特別な力を自覚し始めた。
色が見える。
人と話している時、人の声を聞いている時、人の顔を見ている時、その人の色が見える。
それは感覚的な話で、実際に見えているわけではない。だけど結衣は、見えていると表現する。それ以外に自分の見えている世界を表現する言葉など持っていない。
喜んでいる色、悲しんでいる色、怒っている色――
結衣は、それが当たり前だと思っていた。だって生まれた時から見えていたのだから。だけど、当たり前じゃないと気が付いた。
結衣は色に関心を持った。
世界には同じ人なんて一人も居ないと教わったけれど、結衣は納得していない。だって同じ色をしている人が、あまりにも沢山いる。そして、同じ色をした人に同じことを言うと、同じように色を変える。
そのうち、結衣は人の心を操る術を覚えた。
学校では他人の自分に対する関心を無へ誘導し、家では両親の持つ色を喜びに染める。まるでゲームをプレイするかのように、周りの人間が持つ感情を自分にとって都合の良い色に染めた。
六年生になる頃には、結衣は笑わなくなっていた。
もちろん両親の前では笑顔を作る。だって結衣は両親が大好きだから。二人が喜べば、結衣も嬉しいから。
そして次の変化が起きたのも、六年生になった時だった。
結衣は、彼と出会った。
無色透明。初めて色の見えない人と出会った。
結衣が興味を惹かれるのは当然だった。だって他の人は結衣にとって人形のような存在だ。結衣の言葉ひとつで行動を変え、声色ひとつで心情の全てを明かしてくれる、文字通り、誰かに作られたかのような存在でしかない。だから、そうでない人物と出会った結衣は心が躍った。
彼は、資本家の子息令嬢が集まる学校においても特別な存在だった。それは本人の才覚はもちろん、家柄によるものが大きい。彼の両親がその気になれば、こと小学校において出来ない事は無いと断言できる程だ。
だけど、そんな事情はどうでもいい。
彼が無色透明であるという事実だけが、結衣を動かした。
それまで空気であることを徹底していた結衣が、初めて人に声をかけたのだ。
五年振りの経験だった。
他人に、自分から、しかも好意的な声をかける。
結衣は何を言えばいいのか分からなかった。
「……」
「……」
目が合っている。もう後には引けない。
結衣は苦し紛れに、こう言った。
「うみゃい棒は、何味が好きですか!?」
その突拍子も無い発言に、教室中が凍り付いた。
だけどそれは奇跡的に、少年の心を掴んだのだった。
無色透明だった少年は、一瞬だけ明るい色を見せて、数回瞬きをした。
その一瞬の色の変化を、結衣は見逃さなかった。
「というような話を、暇な時にしませんか?」
誰もが嘲笑した提案を
「いいよ」
誰もが畏怖する少年は、あっさりと承諾した。
それからというもの、結衣は常に少年の傍に居た。
初めて出来た友達が嬉しくてたまらなかった。
そしてこれが、三つめの不幸だった。
――嫉妬。
それは結衣が一生付き合っていくことになる感情だ。
彼の友達になりたいと願う者は沢山居た。しかし彼は、結衣以外には興味を示さなかった。それは断じて言葉を交わさないとか、結衣と居る時だけ表情が変わるとかそういうことではない。ただ、周りがそう思っただけだ。
ほとんどの人間は、他人が持つ感情を読み取ることが出来る。
それは経験が生み出す物かもしれないし、第六感によるものかもしれない。とにかく、この人は楽しそうだなとか、この人は怒ってるなとか、そういう雰囲気を察する能力が人間にはある。そういった理由で、周りの人間は結衣に嫉妬した。
この感情が行き着く先は、導き出す答えはひとつしかない。
即ち、結衣を彼から引き離すということ。
もちろん、結衣には他の人達の感情が手に取るように分かっていた。
その色を変える方法も分かっていた。
だけど、結衣は決してその選択をしなかった。
その選択は、たった一人の大切な友達を失う事を意味している。
そんなの絶対に認められない。認められるわけがない。
子供は残酷だ。
気に入らない相手に対して、文字通りの意味で何でもする。
戸崎結衣は不幸だ。
特別な力を生まれ持ってしまったこと。
その才能を伸ばす環境に置かれてしまったこと。
彼に出会ってしまったこと。
なにより――強い心を持っていたこと。
結衣は何をされても屈しなかった。
だから、結衣に対する悪意は日に日にエスカレートした。
もちろん教師は黙認する。
彼以外の人間は、それを黙認する。
ある者はケラケラと笑い、ある者は同情するふりをして、ある者は無関心を貫く。
結衣は思う。
平気だ。こんなの平気だ。
彼と話をする時間は幸せだった。
久しく忘れていた笑顔を取り戻させてくれた。
何も特別な事はしていない。ただ対等な関係として話をしただけなのに、それが結衣にとってはこの上無く特別なことだった。
そして――事件が起こる。
結衣がいつものように大勢の児童に囲まれている時、彼が現れた。
この時、結衣にはハッキリと見えた。無色透明で、結衣と話をしている時にも稀にしか色を見せなかった彼が、明確な怒りの色に染まっていた。
彼は結衣の服を掴んでいた人の髪を引っ張ると、そのまま力任せに引き抜いた。
叩かれた結衣の腕や腹は真っ青になっていたけれど、その人の頭は真っ赤になっていた。
残った人も次々と真っ赤になった。
結衣を囲んでいた人達が逃げ出すのに、そう時間はかからなかった。
「大丈夫?」
彼はいつものように抑揚の無い声で言った。
結衣は怖くて、だけどちょっぴり嬉しくて、もう訳が分からなくなって泣き叫んだ。
彼は困ったような顔をして、必死に結衣を慰めた。
大丈夫だよ、何度も繰り返した。
ごめんなさい、何度も謝った。
「どうして謝るの?」
純粋な問いに、結衣は思った事をありのままに話した。
君と友達にならなければ、こんなことにならなかった。君と友達で居れば、いつかこうなると分かっていた。でも君と友達で居るのをやめるのは嫌だった。だから、全部私のせいなんだ。
嗚咽混じりで、結衣は言った。
彼は少しだけ驚いたような顔をして、こう言った。
「僕と結衣ちゃんは友達なの?」
思わず、結衣の涙は引っ込んだ。
「そうだよぉ!」
だけどそれも一瞬。結衣はもっと大きな声で泣いた。ちょっとだけ笑っていたような気もするけれど、よく覚えていない。心の中はグチャグチャだった。だけど、これだけはハッキリと覚えている。
この時、彼も初めて笑った
それを見て結衣は自覚した。
これが、結衣の初恋だった。
そして、彼と話した最後の時間だった。
次の日から、彼は学校に来なかった。
昨日起きた事件は、全て彼が悪いという話になっていた。
彼の両親ですら、彼を庇わなかった。
彼の存在は、無かったものとして扱われた。
暴力事件など最初から起きていない。
そういうことになった。
そんなのおかしい! 結衣の声に耳を傾ける人はいなかった。
結衣の人生が完全に狂いだしたのは、きっとこの時からだ。
中学生になった結衣は、何かに取り憑かれたかのように人と話した。あの事件を無かったことにしてたまるか、その一心だった。
しかしどれだけ人の心を操ったところで変えられないことがある。それは人は空を飛べないとか、そういう当たり前なことで、あの事件を正しい方向へ導くことは、それと同じくらい不可能なことだった。
それでも、沢山の仲間を集めればどうにかなると信じて結衣は努力した。
全て無意味だったと知ったのは、高校生になった時だ。
結衣の両親は、私立の高額な学費を支払う為に、いつの間にか共働きをしていた。それを知っていた結衣は、両親の負担を減らす為に公立の高校へ進学した。
そこに結衣の知っている人間は一人も居ない。あれだけ努力して作り上げた中学での人間関係は、一欠片として残っていない。
試しに結衣は隣の席に座っていた女子生徒に声をかけた。
彼女の色がハッキリと見える。
それは、結衣がスッカリ見慣れてしまった色だった。
一分もしないうちに、結衣と女子生徒はおともだちになった。
こうして結衣は、独りになった。
想像するのはきっと難しくない。
誰かの考えていることが分かるということ。
誰かの考えを自在に変えられるということ。
果たして、その誰かは同じ人間なのだろうか。
彼らは自分と同じように何かを考え、意思を持って生きている人間なのだろうか。
偉そうなことを考える自分は、いったい何様なのだろうか。
何を考えて、何の為に生きているのだろうか。
ある日鏡に映った自分を見て、自分の色が見えないことに気が付く。どうしたの? そう言って覗き込んだ母親には、確かに色があった。
なんでもないよ、お母さん。
そう言って、結衣は仮面を被る。
結衣は両親が大好きだ。まだ何も知らなかった頃の思い出は、はっきりと胸に残っている。だから両親の事が大好きだ。二人が喜ぶと自分も嬉しくて、二人が悲しいと自分も悲しい。
二人の為に生きよう。
二人が喜ぶ事をしよう。
結衣は大学生になった。
国内で一番の大学に進学した結衣を見て、両親はとても喜んだ。
両親の事を考えた結衣は、無償の奨学金を取得した。そのおかげで、両親が学費の為に負担する額は通常の半分程度にまで減った。
これ以上無いくらい親孝行な結衣を両親は誇りに思っていた。とてもとても大切に思っていた。結衣にとって両親が生きる意味であるのと同じくらい、両親にとっても結衣が生きる意味だった。
ある日、父が倒れた。
長年家族を支えようと酷使し続けた体が、ついに限界を迎えてしまった。
医者が言うには、過労死しなかっただけ幸運だった、とのことだ。
戸崎家に主だった貯金は無い。それは家のローンと私立の学費による負担が大きかったからだ。むしろ借金が無いことが奇跡であるくらい、戸崎家はギリギリだった。
心配しないで、学費は私が何とかするから。と母は笑う。
大丈夫、自分で払える額ですから。と結衣は微笑む。
実際、結衣が支払うべき学費は、学生のアルバイトで十分に稼げる額だった。
父の入院費の問題もある。結衣は母に苦労させることを快く思わなかった。
結衣は学内で一番の成績を維持しながら、自分の学費を全て自分で支払った。
さて、そんな娘を見て親はどう思うだろうか。
立派な娘に育ってくれたことを喜ぶだろうか。
もちろん嬉しい。
だがそれ以上に、罪悪感があった。
傍から見れば、結衣は休み無く働く苦労人だ。
休日は全てバイトに使い、平日は全て勉強に使う。
そんな生活に一切の不満を漏らさず、ただ両親を見て微笑む。
母は自分が情けなく思えて仕方なかった。
自分がもっとちゃんとしていれば、娘にあんな苦労をさせることは無かったのに。
父の思いは母とは比べ物にならなかった。
妻と娘が頑張っているのに、どうして自分は病院のベッドで寝ているのだ。
父の入院は長期に渡り、そのうち結衣は彼の入院費までも負担するようになった。
そうして両親は、限界を迎えた。
静かな夜。
結衣は薄暗い部屋で机の上に置かれた物を眺めていた。
お金だ。ちょうど一億円ある。
父と母は、結衣の為に命を金に換えることを選んだ。
法事やら何やらで淡々とした日々が過ぎ、警察や弁護士、保険会社の人と話をして、気が付けば、目の前にはこのお金があった。気が付けば、何もかも失っていた。
結衣がアルバイトをしていたのは、大学に通うためだ。
結衣が大学に通っていたのは、勉強をするためだ。
結衣が勉強をしていたのは、両親を喜ばせるためだ。
それが全て失われた。
もうアルバイトなんてしなくていい。
もう大学なんて通わなくていい。
もう勉強なんてしなくていい。
もう、喜んでくれる人はいないのだから。
……どうして気が付けなかった?
結衣には色が見えるのに。
……そんなわけ無いのに。
それほどまでに追い詰められている人を見て、気が付けないなんて有り得ない。
なら答えはひとつだ。
結衣は、両親のことを見ていなかった。
……違う。違う違う違う違う違う違う!
結衣は暴れた。
物に当たり、大声を出し、疲れて動けなくなるまで暴れた。
そして冷たい床の上で荒い息を吐きながら、再確認するのだ。
あぁ、手足が痛い。
あぁ、息が苦しい。
こんなに辛くて苦しいのに、涙は一滴たりとも流れてくれない。
彼女の心は、とっくの昔に死んでいた。
結衣は本気で自殺を考えた。
それを阻止したのは、そんな気力すら残っていなかったことだ。
そんな時、結衣は過去にアルバイト先で出会った人物に声をかけられた。
彼は大企業に勤める人間で、結衣の能力を高く評価していた。そして彼女が大学を辞めるという情報をどこからか入手し、会社への入社を勧めたのだ。
受ける理由なんて無いけれど、断る理由も無かった。
結衣は大学を中退して、その企業に入社した。
何かしていれば、何かを忘れられると思ったからだ。
会社で結衣は営業の仕事を与えられた。
最初の三ヶ月、結衣は教育役の上司から仕事を教わった。そして四月を迎え、最初の四半期が終わると、会社ではちょっとした騒ぎが起こった。
入社して半年の新人が、たった三ヶ月で去年一位となった営業成績を上回る成果を上げたのだ。
結衣は高く評価された。
同時に嫉妬する人達も居た。
その全てが、どうでもよかった。
ただ、仕事に熱中していれば何もかも忘れられた。
結衣は二十歳になった。
彼女を会社に誘った人物の配慮で年齢は伏せられていたが、きっと周りの人が知ったら、また別の騒ぎが起こったであろう。
二十回目の誕生日。
結衣は意味もなく外を歩いた。
何処をどう歩いたかは覚えていない。
そのうち空が暗くなって、雨が降り始めた。
結衣は近くにあった橋の下で雨宿りをした。
そこで、小さな女の子と出会った。
結衣は感情の無い目で女の子を見る。
女の子もまた、感情の無い目で結衣を見た。
そして不思議なことに、その女の子には色が無かった。
結衣は目を擦った。
それから女の子の頬に手を伸ばした。
温かい、どうやら幻覚じゃないらしい。
お父さんとお母さんは?
……。
ここで何をしているの?
……。
お名前は?
……ゆい。
これが、ゆいとの出会いだった。
ローンを組んで建てた新築の家に両親と三人で住み、近所の幼稚園に通っていた。
特別な事は何も無い。
両親は大学で出会って結ばれた二人で、父はIT企業に勤め、母は家で専業主婦。
結衣と父が家に居ない間、母は完璧に家事をこなす。
結衣が帰宅すると、二人は食事とお風呂を用意して父を待つ。
父が帰宅すると、結衣の元気な「おかえり!」という声で幸せな時間が始まる。
三人とも、そんな日々がずっと続くと思っていた。
変化があったのは、結衣が小学校に入る少し前の事だ。
結衣には特別な才能があった。彼女は人から教わった事を決して忘れないのだ。それは単に記憶力が優れていただけなのだが、親の性というか、結衣に期待した両親は、結衣の将来の為に私立小学校への進学を考えた。
それだけなら、結衣はきっと普通の人生を歩んでいたに違いない。娘を過大評価した親バカな行為として、笑い話になったであろう。
結衣が試験を受けたのは、資本家の子息令嬢達が入学する名門校だ。この学校に入れば、一流大学への進学、および一流企業への就職は約束される。
もちろん入試で競うのは賄賂の額だ。形としては面接を行っているが、それによって合否が決まったことは一度も無かった。結衣が入試を受けるまでは。
結衣は合格してしまった。それは、当時は本人すらも気が付いていなかった結衣の持つ特別な力が原因だった。
そしてこれが彼女の人生を狂わせる事になる。
結衣は学校で孤立した。
当然だ。彼女と他の児童では住む世界が違う。
食べる物、見る物、家での過ごし方、習い事、話題――
教師も彼女の味方はしなかった。
当然だ。この学校では保護者の影響力が桁外れに大きい。
何の力も持たない親の子供に肩入れする理由など、あるはずが無い。
これが、ひとつめの不幸。
結衣が無意識に使っていた特別な力による不幸。
もうひとつの不幸は、彼女が強かったことだ。
学校で孤立する結衣は、しかし家では元気いっぱいだった。
今日は学校どうだった? たのしかったよ!
友達たくさん出来た? もちろん!
――でも、みんな忙しいみたいだから、なかなか遊べないの。
――そう。それなら、我慢しないとね。
うん! 結衣は、笑顔でそう答える。
いつも、いつも、いつも……。
八歳の時、結衣は自分の特別な力を自覚し始めた。
色が見える。
人と話している時、人の声を聞いている時、人の顔を見ている時、その人の色が見える。
それは感覚的な話で、実際に見えているわけではない。だけど結衣は、見えていると表現する。それ以外に自分の見えている世界を表現する言葉など持っていない。
喜んでいる色、悲しんでいる色、怒っている色――
結衣は、それが当たり前だと思っていた。だって生まれた時から見えていたのだから。だけど、当たり前じゃないと気が付いた。
結衣は色に関心を持った。
世界には同じ人なんて一人も居ないと教わったけれど、結衣は納得していない。だって同じ色をしている人が、あまりにも沢山いる。そして、同じ色をした人に同じことを言うと、同じように色を変える。
そのうち、結衣は人の心を操る術を覚えた。
学校では他人の自分に対する関心を無へ誘導し、家では両親の持つ色を喜びに染める。まるでゲームをプレイするかのように、周りの人間が持つ感情を自分にとって都合の良い色に染めた。
六年生になる頃には、結衣は笑わなくなっていた。
もちろん両親の前では笑顔を作る。だって結衣は両親が大好きだから。二人が喜べば、結衣も嬉しいから。
そして次の変化が起きたのも、六年生になった時だった。
結衣は、彼と出会った。
無色透明。初めて色の見えない人と出会った。
結衣が興味を惹かれるのは当然だった。だって他の人は結衣にとって人形のような存在だ。結衣の言葉ひとつで行動を変え、声色ひとつで心情の全てを明かしてくれる、文字通り、誰かに作られたかのような存在でしかない。だから、そうでない人物と出会った結衣は心が躍った。
彼は、資本家の子息令嬢が集まる学校においても特別な存在だった。それは本人の才覚はもちろん、家柄によるものが大きい。彼の両親がその気になれば、こと小学校において出来ない事は無いと断言できる程だ。
だけど、そんな事情はどうでもいい。
彼が無色透明であるという事実だけが、結衣を動かした。
それまで空気であることを徹底していた結衣が、初めて人に声をかけたのだ。
五年振りの経験だった。
他人に、自分から、しかも好意的な声をかける。
結衣は何を言えばいいのか分からなかった。
「……」
「……」
目が合っている。もう後には引けない。
結衣は苦し紛れに、こう言った。
「うみゃい棒は、何味が好きですか!?」
その突拍子も無い発言に、教室中が凍り付いた。
だけどそれは奇跡的に、少年の心を掴んだのだった。
無色透明だった少年は、一瞬だけ明るい色を見せて、数回瞬きをした。
その一瞬の色の変化を、結衣は見逃さなかった。
「というような話を、暇な時にしませんか?」
誰もが嘲笑した提案を
「いいよ」
誰もが畏怖する少年は、あっさりと承諾した。
それからというもの、結衣は常に少年の傍に居た。
初めて出来た友達が嬉しくてたまらなかった。
そしてこれが、三つめの不幸だった。
――嫉妬。
それは結衣が一生付き合っていくことになる感情だ。
彼の友達になりたいと願う者は沢山居た。しかし彼は、結衣以外には興味を示さなかった。それは断じて言葉を交わさないとか、結衣と居る時だけ表情が変わるとかそういうことではない。ただ、周りがそう思っただけだ。
ほとんどの人間は、他人が持つ感情を読み取ることが出来る。
それは経験が生み出す物かもしれないし、第六感によるものかもしれない。とにかく、この人は楽しそうだなとか、この人は怒ってるなとか、そういう雰囲気を察する能力が人間にはある。そういった理由で、周りの人間は結衣に嫉妬した。
この感情が行き着く先は、導き出す答えはひとつしかない。
即ち、結衣を彼から引き離すということ。
もちろん、結衣には他の人達の感情が手に取るように分かっていた。
その色を変える方法も分かっていた。
だけど、結衣は決してその選択をしなかった。
その選択は、たった一人の大切な友達を失う事を意味している。
そんなの絶対に認められない。認められるわけがない。
子供は残酷だ。
気に入らない相手に対して、文字通りの意味で何でもする。
戸崎結衣は不幸だ。
特別な力を生まれ持ってしまったこと。
その才能を伸ばす環境に置かれてしまったこと。
彼に出会ってしまったこと。
なにより――強い心を持っていたこと。
結衣は何をされても屈しなかった。
だから、結衣に対する悪意は日に日にエスカレートした。
もちろん教師は黙認する。
彼以外の人間は、それを黙認する。
ある者はケラケラと笑い、ある者は同情するふりをして、ある者は無関心を貫く。
結衣は思う。
平気だ。こんなの平気だ。
彼と話をする時間は幸せだった。
久しく忘れていた笑顔を取り戻させてくれた。
何も特別な事はしていない。ただ対等な関係として話をしただけなのに、それが結衣にとってはこの上無く特別なことだった。
そして――事件が起こる。
結衣がいつものように大勢の児童に囲まれている時、彼が現れた。
この時、結衣にはハッキリと見えた。無色透明で、結衣と話をしている時にも稀にしか色を見せなかった彼が、明確な怒りの色に染まっていた。
彼は結衣の服を掴んでいた人の髪を引っ張ると、そのまま力任せに引き抜いた。
叩かれた結衣の腕や腹は真っ青になっていたけれど、その人の頭は真っ赤になっていた。
残った人も次々と真っ赤になった。
結衣を囲んでいた人達が逃げ出すのに、そう時間はかからなかった。
「大丈夫?」
彼はいつものように抑揚の無い声で言った。
結衣は怖くて、だけどちょっぴり嬉しくて、もう訳が分からなくなって泣き叫んだ。
彼は困ったような顔をして、必死に結衣を慰めた。
大丈夫だよ、何度も繰り返した。
ごめんなさい、何度も謝った。
「どうして謝るの?」
純粋な問いに、結衣は思った事をありのままに話した。
君と友達にならなければ、こんなことにならなかった。君と友達で居れば、いつかこうなると分かっていた。でも君と友達で居るのをやめるのは嫌だった。だから、全部私のせいなんだ。
嗚咽混じりで、結衣は言った。
彼は少しだけ驚いたような顔をして、こう言った。
「僕と結衣ちゃんは友達なの?」
思わず、結衣の涙は引っ込んだ。
「そうだよぉ!」
だけどそれも一瞬。結衣はもっと大きな声で泣いた。ちょっとだけ笑っていたような気もするけれど、よく覚えていない。心の中はグチャグチャだった。だけど、これだけはハッキリと覚えている。
この時、彼も初めて笑った
それを見て結衣は自覚した。
これが、結衣の初恋だった。
そして、彼と話した最後の時間だった。
次の日から、彼は学校に来なかった。
昨日起きた事件は、全て彼が悪いという話になっていた。
彼の両親ですら、彼を庇わなかった。
彼の存在は、無かったものとして扱われた。
暴力事件など最初から起きていない。
そういうことになった。
そんなのおかしい! 結衣の声に耳を傾ける人はいなかった。
結衣の人生が完全に狂いだしたのは、きっとこの時からだ。
中学生になった結衣は、何かに取り憑かれたかのように人と話した。あの事件を無かったことにしてたまるか、その一心だった。
しかしどれだけ人の心を操ったところで変えられないことがある。それは人は空を飛べないとか、そういう当たり前なことで、あの事件を正しい方向へ導くことは、それと同じくらい不可能なことだった。
それでも、沢山の仲間を集めればどうにかなると信じて結衣は努力した。
全て無意味だったと知ったのは、高校生になった時だ。
結衣の両親は、私立の高額な学費を支払う為に、いつの間にか共働きをしていた。それを知っていた結衣は、両親の負担を減らす為に公立の高校へ進学した。
そこに結衣の知っている人間は一人も居ない。あれだけ努力して作り上げた中学での人間関係は、一欠片として残っていない。
試しに結衣は隣の席に座っていた女子生徒に声をかけた。
彼女の色がハッキリと見える。
それは、結衣がスッカリ見慣れてしまった色だった。
一分もしないうちに、結衣と女子生徒はおともだちになった。
こうして結衣は、独りになった。
想像するのはきっと難しくない。
誰かの考えていることが分かるということ。
誰かの考えを自在に変えられるということ。
果たして、その誰かは同じ人間なのだろうか。
彼らは自分と同じように何かを考え、意思を持って生きている人間なのだろうか。
偉そうなことを考える自分は、いったい何様なのだろうか。
何を考えて、何の為に生きているのだろうか。
ある日鏡に映った自分を見て、自分の色が見えないことに気が付く。どうしたの? そう言って覗き込んだ母親には、確かに色があった。
なんでもないよ、お母さん。
そう言って、結衣は仮面を被る。
結衣は両親が大好きだ。まだ何も知らなかった頃の思い出は、はっきりと胸に残っている。だから両親の事が大好きだ。二人が喜ぶと自分も嬉しくて、二人が悲しいと自分も悲しい。
二人の為に生きよう。
二人が喜ぶ事をしよう。
結衣は大学生になった。
国内で一番の大学に進学した結衣を見て、両親はとても喜んだ。
両親の事を考えた結衣は、無償の奨学金を取得した。そのおかげで、両親が学費の為に負担する額は通常の半分程度にまで減った。
これ以上無いくらい親孝行な結衣を両親は誇りに思っていた。とてもとても大切に思っていた。結衣にとって両親が生きる意味であるのと同じくらい、両親にとっても結衣が生きる意味だった。
ある日、父が倒れた。
長年家族を支えようと酷使し続けた体が、ついに限界を迎えてしまった。
医者が言うには、過労死しなかっただけ幸運だった、とのことだ。
戸崎家に主だった貯金は無い。それは家のローンと私立の学費による負担が大きかったからだ。むしろ借金が無いことが奇跡であるくらい、戸崎家はギリギリだった。
心配しないで、学費は私が何とかするから。と母は笑う。
大丈夫、自分で払える額ですから。と結衣は微笑む。
実際、結衣が支払うべき学費は、学生のアルバイトで十分に稼げる額だった。
父の入院費の問題もある。結衣は母に苦労させることを快く思わなかった。
結衣は学内で一番の成績を維持しながら、自分の学費を全て自分で支払った。
さて、そんな娘を見て親はどう思うだろうか。
立派な娘に育ってくれたことを喜ぶだろうか。
もちろん嬉しい。
だがそれ以上に、罪悪感があった。
傍から見れば、結衣は休み無く働く苦労人だ。
休日は全てバイトに使い、平日は全て勉強に使う。
そんな生活に一切の不満を漏らさず、ただ両親を見て微笑む。
母は自分が情けなく思えて仕方なかった。
自分がもっとちゃんとしていれば、娘にあんな苦労をさせることは無かったのに。
父の思いは母とは比べ物にならなかった。
妻と娘が頑張っているのに、どうして自分は病院のベッドで寝ているのだ。
父の入院は長期に渡り、そのうち結衣は彼の入院費までも負担するようになった。
そうして両親は、限界を迎えた。
静かな夜。
結衣は薄暗い部屋で机の上に置かれた物を眺めていた。
お金だ。ちょうど一億円ある。
父と母は、結衣の為に命を金に換えることを選んだ。
法事やら何やらで淡々とした日々が過ぎ、警察や弁護士、保険会社の人と話をして、気が付けば、目の前にはこのお金があった。気が付けば、何もかも失っていた。
結衣がアルバイトをしていたのは、大学に通うためだ。
結衣が大学に通っていたのは、勉強をするためだ。
結衣が勉強をしていたのは、両親を喜ばせるためだ。
それが全て失われた。
もうアルバイトなんてしなくていい。
もう大学なんて通わなくていい。
もう勉強なんてしなくていい。
もう、喜んでくれる人はいないのだから。
……どうして気が付けなかった?
結衣には色が見えるのに。
……そんなわけ無いのに。
それほどまでに追い詰められている人を見て、気が付けないなんて有り得ない。
なら答えはひとつだ。
結衣は、両親のことを見ていなかった。
……違う。違う違う違う違う違う違う!
結衣は暴れた。
物に当たり、大声を出し、疲れて動けなくなるまで暴れた。
そして冷たい床の上で荒い息を吐きながら、再確認するのだ。
あぁ、手足が痛い。
あぁ、息が苦しい。
こんなに辛くて苦しいのに、涙は一滴たりとも流れてくれない。
彼女の心は、とっくの昔に死んでいた。
結衣は本気で自殺を考えた。
それを阻止したのは、そんな気力すら残っていなかったことだ。
そんな時、結衣は過去にアルバイト先で出会った人物に声をかけられた。
彼は大企業に勤める人間で、結衣の能力を高く評価していた。そして彼女が大学を辞めるという情報をどこからか入手し、会社への入社を勧めたのだ。
受ける理由なんて無いけれど、断る理由も無かった。
結衣は大学を中退して、その企業に入社した。
何かしていれば、何かを忘れられると思ったからだ。
会社で結衣は営業の仕事を与えられた。
最初の三ヶ月、結衣は教育役の上司から仕事を教わった。そして四月を迎え、最初の四半期が終わると、会社ではちょっとした騒ぎが起こった。
入社して半年の新人が、たった三ヶ月で去年一位となった営業成績を上回る成果を上げたのだ。
結衣は高く評価された。
同時に嫉妬する人達も居た。
その全てが、どうでもよかった。
ただ、仕事に熱中していれば何もかも忘れられた。
結衣は二十歳になった。
彼女を会社に誘った人物の配慮で年齢は伏せられていたが、きっと周りの人が知ったら、また別の騒ぎが起こったであろう。
二十回目の誕生日。
結衣は意味もなく外を歩いた。
何処をどう歩いたかは覚えていない。
そのうち空が暗くなって、雨が降り始めた。
結衣は近くにあった橋の下で雨宿りをした。
そこで、小さな女の子と出会った。
結衣は感情の無い目で女の子を見る。
女の子もまた、感情の無い目で結衣を見た。
そして不思議なことに、その女の子には色が無かった。
結衣は目を擦った。
それから女の子の頬に手を伸ばした。
温かい、どうやら幻覚じゃないらしい。
お父さんとお母さんは?
……。
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……。
お名前は?
……ゆい。
これが、ゆいとの出会いだった。
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