63 / 221
第二章 仕事と子育て
プールに行った日(準備)
しおりを挟む
八月十日。
保育園に集まった年長組の子供達と、ゆいちゃんのママを除く保護者達はバスに乗ってプールへと向かった。
バスというまさかのビップ待遇に驚いたが、聞けばプールの経営者が園長の親しい友人らしい。そのおかげで、四月、六月に余った分の予算を足せば、バスだけでなくチケット代まで賄える程度の料金で利用できるのだそうだ。コネってすごい。
四十分くらいバスに揺られた後、プールの入り口前に到着した。道中で覚えていることと言えば、とても騒がしかったことと、ゆいちゃんが服の下に水着を着ていたことや、途中からゆいちゃんが静かになったこと、みさきがちょっぴりキラキラした目をしていたことくらいだ。他にも、ゆいちゃんとみさきが微笑ましい会話をしていたような気がするが、見事にバス酔いしたゆいちゃんの介護が終わる頃には忘れてしまった。
、
歩ける程度に回復したゆいちゃんとみさきを女性組に預け、俺は男親達と一緒にヤンチャなガキ共をつれて男子更衣室へ向かった。ガキどもは半端なく騒がしかったが、周りの声も負けないくらいに大きい。
このプールは、なんとかランドとかいう大きな遊園地の中にあって、プールだけの面積でも保育園の十倍以上はある。その広い面積のおかげで窮屈に感じる事は無いが、人の数だけなら明らかに夏祭りより多い。
思ったよりも利口だった子供達を着替えさせ、女性組と合流する。
若い人達の経産婦とは思えない体や、年配達のもうちょい運動しろよって感じの体は、二重の意味で目の毒だった。そんなわけで俺は即座に大人達から目を逸らして、子供達に目を向ける。
まず目に入ったのはゆいちゃんだ。
「あたしは、かえってきた!!」
このように意味不明な発言をしていることはさておき、水中ゴーグルを首にかけ、お腹の周りにはヒマワリが描かれた浮き輪を装備していた。着ている水着はワンピースタイプで、白と桃色の縞模様。両手を浮き輪に当て、大きな目を輝かせるゆいちゃんは今日も元気だ。
そして――
カメラァァァァァ! カメラ持ってこい! カメラカメラカメラ!!
チックショウあの店員やっぱりセンスいいじゃねぇか!? 最高だぜ!
「……ん?」
俺の熱い視線に気付いて首を傾けるみさき。
みさきの着ている水着もワンピースタイプで、青をベースに白い水玉模様が描かれている。どこにでもある普通の水着だが、みさきが着るとその輝きは何億倍にも増幅される。
……生きてて良かった。今俺は、確かにそう思った。
かくして俺達は解放感溢れるプール、ではなく、併設された子供用の屋内プールへと向かった。
なかなかファンシーな動物が描かれた看板の下を通って、まず目に付いたのはドーナツ型のプールだった。そこでは浮き輪に乗った子供達がゆらゆら流されている。ドーナツの穴の部分には何人かの従業員が居て、子供達の動きに目を光らせていた。
さらに奥に目を向けると、小さな滑り台――ウォータースライダーや、少し大きなカラーボールがプカプカ浮かんでいるプールがある。
「でぇわぁ、四時まで自由行動ということで。保護者の皆様は、自分の子供から目を離さないようにしてくださいませっ」
といった佐藤は子供から目を離して真っ直ぐ大人用のプールへと向かった。もちろん取り巻きの二人も後に続く。残されたのは俺を含めた若い保護者達で、顔を見合わせると苦笑した。慣れとは恐ろしいものである。佐藤達の子供については、今日は普段は参加しないパパさん達も参加しているから問題は無いであろう。もちろん俺も目を配るくらいのことはする。
さておき、自由行動である。お楽しみ会という集まりではあるが、所詮はあの佐藤が企画したものだ。明確な規律など無い。気付けば各々が好き勝手に動き始めていた。
残された俺は、どうしようかと足元に居るみさきに目を向けた。
みさきはどこかを見ていて、視線を追った先ではゆいちゃんが元気に準備運動をしていた。
「みさきも準備運動するか?」
「じゅんび?」
「おう。いつも運動する前にやるアレと同じだ」
「……ん」
みさきは頷くと、グッと背伸びの運動を始めた。この辺りは毎日のようにやっているから特に言う事は無い。俺は無言のまま、みさきに続いて準備運動を始める。
「きょうこそ、およぎます!」
準備運動が終わると、ゆいちゃんがプールを指さして高らかに宣言した。その後、ふっふっふと肩を揺らし始める。
「まけるきがしません。きょうのあたしは、ひとあじちがいます……」
良く分からんが、たぶん泳げないのだろう。人に教えた事とか無いが、きっとみさきも泳げないし、あとで一緒に教えてやろう。すごいやる気だから余計なお世話かも知れないが……。
「りょーくん! およぎかたおしえてください!」
一味違うって人任せかよっ!? 教えるつもりだったけど!!
「おぅ、任せとけ」
水着売り場でゆいちゃんのママと出会った時、娘を頼むと言われた。そんな言葉など無くてもゆいちゃんの面倒を見るつもりだったが……いや、余計な事を考えるのは止めよう。
「しゃあ! 今日は楽しむぞ!」
「あそびじゃない! しんけん! ぜったいおよぐ!」
気持ちを切り替えて叫んだら怒られてしまった。
……納得いかねぇ。
保育園に集まった年長組の子供達と、ゆいちゃんのママを除く保護者達はバスに乗ってプールへと向かった。
バスというまさかのビップ待遇に驚いたが、聞けばプールの経営者が園長の親しい友人らしい。そのおかげで、四月、六月に余った分の予算を足せば、バスだけでなくチケット代まで賄える程度の料金で利用できるのだそうだ。コネってすごい。
四十分くらいバスに揺られた後、プールの入り口前に到着した。道中で覚えていることと言えば、とても騒がしかったことと、ゆいちゃんが服の下に水着を着ていたことや、途中からゆいちゃんが静かになったこと、みさきがちょっぴりキラキラした目をしていたことくらいだ。他にも、ゆいちゃんとみさきが微笑ましい会話をしていたような気がするが、見事にバス酔いしたゆいちゃんの介護が終わる頃には忘れてしまった。
、
歩ける程度に回復したゆいちゃんとみさきを女性組に預け、俺は男親達と一緒にヤンチャなガキ共をつれて男子更衣室へ向かった。ガキどもは半端なく騒がしかったが、周りの声も負けないくらいに大きい。
このプールは、なんとかランドとかいう大きな遊園地の中にあって、プールだけの面積でも保育園の十倍以上はある。その広い面積のおかげで窮屈に感じる事は無いが、人の数だけなら明らかに夏祭りより多い。
思ったよりも利口だった子供達を着替えさせ、女性組と合流する。
若い人達の経産婦とは思えない体や、年配達のもうちょい運動しろよって感じの体は、二重の意味で目の毒だった。そんなわけで俺は即座に大人達から目を逸らして、子供達に目を向ける。
まず目に入ったのはゆいちゃんだ。
「あたしは、かえってきた!!」
このように意味不明な発言をしていることはさておき、水中ゴーグルを首にかけ、お腹の周りにはヒマワリが描かれた浮き輪を装備していた。着ている水着はワンピースタイプで、白と桃色の縞模様。両手を浮き輪に当て、大きな目を輝かせるゆいちゃんは今日も元気だ。
そして――
カメラァァァァァ! カメラ持ってこい! カメラカメラカメラ!!
チックショウあの店員やっぱりセンスいいじゃねぇか!? 最高だぜ!
「……ん?」
俺の熱い視線に気付いて首を傾けるみさき。
みさきの着ている水着もワンピースタイプで、青をベースに白い水玉模様が描かれている。どこにでもある普通の水着だが、みさきが着るとその輝きは何億倍にも増幅される。
……生きてて良かった。今俺は、確かにそう思った。
かくして俺達は解放感溢れるプール、ではなく、併設された子供用の屋内プールへと向かった。
なかなかファンシーな動物が描かれた看板の下を通って、まず目に付いたのはドーナツ型のプールだった。そこでは浮き輪に乗った子供達がゆらゆら流されている。ドーナツの穴の部分には何人かの従業員が居て、子供達の動きに目を光らせていた。
さらに奥に目を向けると、小さな滑り台――ウォータースライダーや、少し大きなカラーボールがプカプカ浮かんでいるプールがある。
「でぇわぁ、四時まで自由行動ということで。保護者の皆様は、自分の子供から目を離さないようにしてくださいませっ」
といった佐藤は子供から目を離して真っ直ぐ大人用のプールへと向かった。もちろん取り巻きの二人も後に続く。残されたのは俺を含めた若い保護者達で、顔を見合わせると苦笑した。慣れとは恐ろしいものである。佐藤達の子供については、今日は普段は参加しないパパさん達も参加しているから問題は無いであろう。もちろん俺も目を配るくらいのことはする。
さておき、自由行動である。お楽しみ会という集まりではあるが、所詮はあの佐藤が企画したものだ。明確な規律など無い。気付けば各々が好き勝手に動き始めていた。
残された俺は、どうしようかと足元に居るみさきに目を向けた。
みさきはどこかを見ていて、視線を追った先ではゆいちゃんが元気に準備運動をしていた。
「みさきも準備運動するか?」
「じゅんび?」
「おう。いつも運動する前にやるアレと同じだ」
「……ん」
みさきは頷くと、グッと背伸びの運動を始めた。この辺りは毎日のようにやっているから特に言う事は無い。俺は無言のまま、みさきに続いて準備運動を始める。
「きょうこそ、およぎます!」
準備運動が終わると、ゆいちゃんがプールを指さして高らかに宣言した。その後、ふっふっふと肩を揺らし始める。
「まけるきがしません。きょうのあたしは、ひとあじちがいます……」
良く分からんが、たぶん泳げないのだろう。人に教えた事とか無いが、きっとみさきも泳げないし、あとで一緒に教えてやろう。すごいやる気だから余計なお世話かも知れないが……。
「りょーくん! およぎかたおしえてください!」
一味違うって人任せかよっ!? 教えるつもりだったけど!!
「おぅ、任せとけ」
水着売り場でゆいちゃんのママと出会った時、娘を頼むと言われた。そんな言葉など無くてもゆいちゃんの面倒を見るつもりだったが……いや、余計な事を考えるのは止めよう。
「しゃあ! 今日は楽しむぞ!」
「あそびじゃない! しんけん! ぜったいおよぐ!」
気持ちを切り替えて叫んだら怒られてしまった。
……納得いかねぇ。
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
元平民の義妹は私の婚約者を狙っている
カレイ
恋愛
伯爵令嬢エミーヌは父親の再婚によって義母とその娘、つまり義妹であるヴィヴィと暮らすこととなった。
最初のうちは仲良く暮らしていたはずなのに、気づけばエミーヌの居場所はなくなっていた。その理由は単純。
「エミーヌお嬢様は平民がお嫌い」だから。
そんな噂が広まったのは、おそらく義母が陰で「あの子が私を母親だと認めてくれないの!やっぱり平民の私じゃ……」とか、義妹が「時々エミーヌに睨まれてる気がするの。私は仲良くしたいのに……」とか言っているからだろう。
そして学園に入学すると義妹はエミーヌの婚約者ロバートへと近づいていくのだった……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる