日刊幼女みさきちゃん!

下城米雪

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第二章 仕事と子育て

お弁当を作った日

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 みさきの機嫌が直った次の日、俺は新たな問題に直面した。

 例の職場は時給制でなく歩合制を採用しているから、働く時間は特に決まっていない。極端に言えば、月に一度くらいしか出社しなくても問題は無いそうだ。曰く、居るだけでも給料が発生する時給制は認めない。この理屈だと勉強しているだけの俺は暫く無給なんじゃないかと不安に思ったが、月に二十万は固定給として補償してくれるそうだ。労働基準法がどうとか、これは天童龍誠じゃなくてみさきちゃんに払ってるんだとか、給料じゃなくて投資なんだよとかいろいろ言っていたが、よく覚えていない。

 そんなわけで、俺は仕事を始める前とほぼ変わらない午後五時を少し過ぎたくらいに保育園に着くようにしていた。出社はみさきを保育園へ送った後にしている。

 すっかり顔見知りとなった保育士と「春ですねぇ」なんて世間話をする途中、彼女が思い出すような口振りで遠足について俺に伝えた。遠足には、お弁当を持参しなくてはならないらしい。

 もちろん俺には料理なんて出来ない。だが、おそらく他の子の親は愛情のこもった手作り弁当を作るだろう。遠足で弁当を食べる時間は、それはそれは愛に溢れた時間となるだろう。そんな中にコンビニ弁当を持って突撃することになったら一生のトラウマになるに違いない。

「……と、いうわけなんだ」
「へぇ、みさきちゃん遠足なんですね」

 翌日の朝、みさきを保育園へ送り届けた後、俺は迷わず小日向さんに相談した。

「小日向さん、弁当とか作れるか……?」

 今日は部屋に入れてくれた小日向さん。俺はいつかと同じようにドアの直ぐ傍で正座して、部屋の中央で座布団に座る小日向さんに声をかける。

「……ふふん、弁当とか作れるか、と申しましたか?」

 キラリと目を光らせ、得意気な表情をする小日向さん。

「まさか、作れるのか?」
「ふひひ、これでも学生時代は自分でお弁当を作っていのですよ」
「おお!」

 なんてことだっ、過去最高に小日向さんが頼れる存在に見える!

「……まぁこの部屋には電気もガスも無いので手の打ちようが無いんですけどね」

 なんてことだ、過去最高にこのボロアパートがボロく見える。

「万策尽きたか……」
「ふひひ、ケーキ屋さんに転職して激ヤセした元アニメ製作会社勤めみたいなこと言わないでください」
「ケーキ屋さん?」
「いえ、気にしないでください」
「分かった」

 頷いて、俺は引っ越しについて真剣に検討を始める。
 暫くして、小日向さんがピンと人差し指を立てた。

「ええっと、サンドイッチとかどうですか? 遠足にピッタリですし、このアパートでも作れると思います」
「そうなのか。それ、どうやって作るんだ?」
「専用のパンと具を買って、具をコネコネしたあとパンに挟んで、それっぽい大きさに切り分けたら完成です」
「それなら俺にもできそうだな……」

 ぱっと聞いた感じでは簡単そうだが、きっと罠があるに違いない。

「よかったら、次の日曜にでも教えてくれないか?」
「さ、サンドイッチの作り方……ですか?」
「ああ。材料とかも一緒に買ってくれたら嬉しい」
「お、お買い物ですか!?」

 なんだ、驚くようなことか?

「もしかして都合が悪かったか?」
「い、いえそんなこと……あの、お買い物って、ふふふたなり、じゃなくて、二人でですか……?」
「いや、みさきと一緒に行く予定だ。特に隠す理由も無いからな」
「……ふへへ、ですよね」

 なんだこの反応、みさきと一緒じゃ不満だとでも言うのか? いやでも小日向さんに限ってそんなこと……そうか、サプライズだな。みさきには何も伝えずに弁当を作ることで、ちょっとした喜びを生み出そうとか、そういうことに違いない!

「分かった。それなら二人で行こう」
「アヘッ!? なんでそうなりました?」
「その方がいいと思ったから」
「そ、その方が……そうですか」

 いや、でも、ええと、うーん。と悩み始めた小日向さん。きっと俺には理解できない複雑で繊細で高度な考えがあるのだろう。そう思って、黙って待つ事にした。

 やがて小日向さんはギュっと体を小さくして、指遊びをしながら言う。

「……やっぱり、みさきちゃんも一緒に行きましょう」
「そうか、分かった」

 こうして、俺達はみさきを連れて大型のスーパーへ行き、弁当箱と水筒、食材、最低限の器具を購入して、何故かみさきも一緒に弁当を作ることになったのだが、それはまた別のお話。
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