日刊幼女みさきちゃん!

下城米雪

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最初の一歩

送り迎えをした日(送)

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 布団の上に正座した龍誠は、ちょこんと女の子座りをしたみさきと向かい合っていた。
 二人の間には保育園に持ち込まなければならない物と手提げバッグが置かれている。

「いいかみさき、荷物チェックだ」
「……ん」

 荷物チェックって何? そう思いながらも、龍誠の緊張を感じ取ったみさきは、それっぽい反応をした。
 龍誠はごくりと喉を鳴らし、左手を伸ばす。

「歯ブラシ良し!」
「……し?」

 龍誠は歯ブラシを手提げバッグに入れ、手元にあるチェックリストにペンを走らせた。

「次。着替え一式、良し!」
「……ぉし?」
「次。タオル良し!」
「……よし」
「ハンカチ良し!」
「……よし」
「ビニール袋良し」
「……よし」
「上履き良し!」
「……よし」
「時計良し!」
「……よし」
「おっと、時計はみさきの手に付けねぇとな」
「……ん?」

 龍誠は可愛らしい熊のキャラクターが描かれた腕時計(1458円)をみさきの腕に装着した。みさきは興味深そうな目で腕をクルクル回しながら時計を見る。そんなみさきを見てほっこりしながら、龍誠はチェックリストの最後の項に印をつけた。

「よし、全部あるな」
「……ある?」
「……もう一回だけ確認しよう」

 ということを三回繰り返して、

「こんだけ確認すりゃ大丈夫だろ」
「……んん?」
「次は自己紹介の練習をするぞ、みさき」
「……れんしゅう?」

 きょとんとするみさき。
 ピシっと人差し指を立てる龍誠。

「いいか、コミュニケーションの9割は第一印象で決まる。円滑な交友関係……もとい、楽しい保育園生活を送る為には、まず、自己紹介だ。ここでブチかますしかねぇ」
「……んん?」
「ちょっと難しかったか? とにかく、自己紹介だ。自己紹介の練習をするぞ」
「……ん」

 みさきは過去に自己紹介の練習をしたことがあった。
 それは言うまでもなく、龍誠の元に来る直前の話である。

 まったり立ち上がったみさきは、ぺこりと頭を下げた。

「……みさき。よろしく、します」
「完璧だ。今のみさきは世界一かわいい」

 これ以上無い笑顔で親指を立てる龍誠。
 ちょっと得意そうな顔になるみさき。

 こうして、二人は家を出た。

「いいかみさき、友達を作るコツは否定しないことだ。相手が何か言ってたら、とりあえず頷いとけ」
「……んん?」

 道中、龍誠は隣を歩くみさきに向かって、熱心に言葉をかけていた。

「あと、権力持ってそうなヤツは早いうちに口説いとけ――あぁいや、先生の言うことは良く聞くんだぞ? 先生を困らせちゃいけねぇ。分かったな?」
「……ん」
「何が分かったんだ?」
「せんせーの、こと、きく」
「よーしよし、流石みさきだ」

 そうして予定通りの時間に保育園へ辿り付いた龍誠は、門の前で待機していた保育士に元気な声で挨拶をした。

「おざっす! 天童です!」
「ん? あ、あぁ、天童さん。ええっと、その子がみさきちゃんですね?」
「はい! シャイの子っすが、よろしくおなしゃす!」

 やべぇ、全然ちゃんとした敬語が言えねぇ。と焦る龍誠。
 子供よりも緊張した親を見て、思わず微笑む保育士。

「それでは、お子さんは責任を持ってお預かりします。お仕事、行ってらっしゃいませ」
「……お、ぁ、はい! 行ってきます!」

 仕事に行く予定など無かった龍誠は、少し遅れて返事をした。

「それじゃあみさき、5時くらいに迎えに来るからな」
「……ん」

 こくりと頷いて、保育士を見上げた。
 視線に気が付いた保育士は、みさきに目線の高さを合わせて「どうしたの?」と微笑む。

「……せんせー?」
「おー、みさきちゃん、先生って何か分かるの?」
「……ん」
「おー! 偉いねぇ」

 慣れた様子でみさきを子供扱いする保育士を見て、龍誠は心の中でキレていた。

 ……ふざけんな。うちのみさき舐めんじゃねぇよ先生くらい分かるに決まってんだろコラ。

 だが決して口には出さず、もう一度だけみさきに声をかけてから保育園を後にした。

 帰路で直前のことを思い出した龍誠は、ふと思う。
 あの短期バイトをしてなかったら、あそこで声を我慢できなかったのではないだろうか。
 
 ……いやいや、ねぇよ。

 彼は首を振って否定しながらも、少しは変わることが出来ているのだろうかと、家に帰るまでの間ずっと考え続けていた。

 みさきと出会って、2つの目標を持った。
 立派な親になること。
 みさきに生まれてきて良かったと思わせること。

 その目標に、少しは近付けているのだろうか?
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