日刊幼女みさきちゃん!

下城米雪

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番外編

SS:なんでもバスケット!(前編)

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 その日、二年生の教室に戦慄が走った。
 発端は教師である岡本の何気無い一言。

「はーい、今から皆でなんでもバスケットしまーす」

 レクリエーション!
 春休み明けに行われるそれは、久々に始まる学校生活に向けて心の準備をする時間。

 本来ならば、低学年の児童達にレクリエーションと告げれば教室が動物園と成り果てる。だが今年の二年生は誰一人として声を上げない。お行儀よく座って、静かに先生の次なる言葉を待っている。

 ……あー、はいはい。
 もう慣れました。とっくに慣れましたよーだ。

 この児童達と一年間付き合った岡本は、いまさら動揺しない。もうちょっとハシャいでくれてもいいのになー、と思うことはあるけれど、動揺はしない。

「ルールが分かる人は手を挙げてくださーい」

 挙手……無し!
 数人の児童がアイコンタクトを取っているが、

 ――エリカ、知ってるか?
 ――いいえ知らないわ。どんなバスケットなのかしら。楽しみね。

 岡本の脳内ではこのようにアテレコされる。
 もちろん登場人物は子供ではない。ハリウッド的な何かだ。

 彼等は嘘をつかない。
 誰も知らないと言うならば、本当に誰も知らないと考えて良い。

「では説明します。まずは椅子を丸く並べて、真ん中に一人だけ立ちます」
「るみるみのでばん!?」
「違います。真ん中の人は鬼です」
「まんなかはせんせーだ!」
「はーい、いま先生を鬼扱いした子は素直に手を挙げてくださいねー」

 ひゅー、と口笛が聞こえる。
 岡本はにっこり笑って、

「鬼に選ばれた人は、何か言います。例えば、今朝パンを食べた人」

 岡本は手を挙げて、児童達に挙手を促す。
 数人が素直に手を挙げた。

「その人達は椅子から立ちます。そして、自分が座っていなかった椅子に座ります。鬼だった人は、空いている椅子に座ってください。座れなかった人が次の鬼です」
「しつもんです!」
「はい、隼人くん」

 天霧あまぎり隼人はやとくん。
 まとめ役。クラスの学級委員的な存在。

「ひとりしか立たなかったら、どうすればよいのですか?」
「いい質問ですね。その時は、その人が鬼になります」
「では、ひとりも立たなかったら?」
「鬼の人はもう一回です」
「なるほど」

 その声に合わせて、教室内に「なるほど」という空気が伝搬していく。
 もしも違う児童達が相手ならば「本当に分かっているのかな?」と不安になっていたところだが、このクラスは違う。

 確実に伝わっている。
 彼等から質問が無いということは、つまり分からないことが無いということなのだ。

「それから、ルールはもうひとつあります」

 岡本は少しだけ声のトーンを落として

「三回鬼になった人には……罰ゲームを受けてもらいます」

 ざわ……ざわ……

「ばつゲームとは、どのようなものですか?」
「例えばゆいちゃんなら、トマトを食べてもらいます」

 ガタり。
 ゆいは椅子から転げ落ちそうなくらいに体をのけぞらせて、顔面蒼白になって叫んだ。

「デスゲーム!?」

 その一言で、教室の雰囲気は一変する。

「このゲーム、いいかえれば……」

 誰かが言った。

「ひとりをねらいうち……」

 誰かが続けた。

「罰ゲームへ誘う狂気の宴……ッ!」

 皆が声を合わせて、

「「「まさに……デスゲーム!」」」

 なんだこの小学生。
 岡本は笑顔の裏で激しく困惑する。

 ――否、困惑していたかもしれない。
 ほんの一年前であれば……ッ!

「ククク、気付いてしまったか」

 岡本は不敵に笑う。

「そう、これはデスゲーム。だが安心して欲しい。本当に命を取るようなマネはしない。尤も――それに近い苦痛が無いとは、決して言えないけれど……」

 ――始まる。
 なんでもバスケット! という名のデスゲームが……

 己が命運をかけた究極の心理戦が……はじまるッ!
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