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ユニコーン聖女は賭けに出る
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ユニコーンは生娘を襲わない。
しかし、こちらから攻撃した場合は反撃を受ける。
従って機会は一度切り。
最初の一回で確実に仕留めなければ、雷に焼かれて終わりだ。
……集中しろ。
まだ具体的な案は浮かばないが、魔法の成功率を上げるため敵に接近したい。だがそれは困難を極める。
魔力の塊と三色の雷が飛び交う戦場。
双方の周辺にだけ一切の瓦礫が存在しないのは、魔法に巻き込まれて消滅したからだろう。無策で飛び込めば、私もそうなる。
……どうするべきか。
アルスと魔物の距離は大股でニ十歩程度。
あの男からすれば無いに等しい距離だろうが、互いに接近することなく離れた位置から魔法を撃ち合っている。
アルスは人間離れした動きで雷を避けながら、黒い魔力の塊を放つ。魔物は雷を落とし、それを迎撃する。その繰り返し。
いや、アルスが仕掛けた。
彼は剣を握ると、不規則な軌道で疾走する。その足跡を刻むようにして雷が落ちる。雷は双方の距離が縮まる程アルスに肉薄し、あわや直撃と思われた瞬間、アルスは後方に跳躍した。
……なるほど、そういことか。
簡単に言えば我慢比べ。
先に魔力を使い果たした方が負ける戦い。
アルスは、今の状況で持久戦を選ぶほど愚かでない。つまり、互いに決め手が無いことで自然と今の形になったのだろう。
……何をすれば決め手になる?
恐らく切断は不可能。動きを止めるのも難しい。アルスに向かう攻撃を防ぐにしても、直撃を一瞬だけ遅らせる程度の効果しかないだろう。
……あの角を、どうにかできないか?
攻撃の度に発光する一本角。
あれが魔力を制御しているのは確定的だ。
倒す必要は無い。
動きを止める。あるいは攻撃を止める。
その隙さえ作れれば、アルスが必ず決める。
しかし手段が無い。
試したい案はいくつかある。しかし失敗は許されない。確実な案でなければ実行できない。
悩む間にも時は過ぎる。
時が経つ程に外から聞こえる魔物の声が近付き、悲鳴の数が減っているように感じる。事実か空想かも分からない感覚が焦りを生み、思考の邪魔をする。
……落ち着け。
自分の右手で左の手首を握り、長く息を吐いた。
握った手と握られた手は不気味な程に震えており、自分が如何に緊張しているか客観視させてくれた。
……覚悟を決めましょう。
胸に手を当て深く呼吸をする。
確実ではないが、成功する見込みのある策がひとつある。
失敗した時、私は確実に死ぬ。
きっとシャロも助からない。アルスがいくらか護ってくれるだろうが、外の魔物すべて突破することは不可能だろう。
しかし、何もしなければ時間切れで死ぬ。
どちらを選んでも死ぬ可能性があるのなら、自分を信じる方に賭けるしかない。
「責任重大ですね……」
声に出して呟き、苦笑する。
冒険に出ると決めた時から、ある程度の困難は覚悟していた。しかしまさか、このような形で最初の困難と向き合うことになるなんて想像もしていなかった。
私は戦闘を続ける化物たちを見て、言葉が通じる方に向かって叫ぶ。
「アルス! 攻撃をやめてください!」
恐らく彼は私の視線に気が付いていた。
しかし、まさか攻撃をやめろという指示があるとは思っていなかったのだろう。こんな状況でなければ大笑いしてやりたくなるような顔をしている。
あの様子なら、声が届かなかったということは無い。
私はもう一度だけ深く呼吸をして、魔物の方に目をやる。
そして無防備に、ただ真っ直ぐと、歩き始めた。
しかし、こちらから攻撃した場合は反撃を受ける。
従って機会は一度切り。
最初の一回で確実に仕留めなければ、雷に焼かれて終わりだ。
……集中しろ。
まだ具体的な案は浮かばないが、魔法の成功率を上げるため敵に接近したい。だがそれは困難を極める。
魔力の塊と三色の雷が飛び交う戦場。
双方の周辺にだけ一切の瓦礫が存在しないのは、魔法に巻き込まれて消滅したからだろう。無策で飛び込めば、私もそうなる。
……どうするべきか。
アルスと魔物の距離は大股でニ十歩程度。
あの男からすれば無いに等しい距離だろうが、互いに接近することなく離れた位置から魔法を撃ち合っている。
アルスは人間離れした動きで雷を避けながら、黒い魔力の塊を放つ。魔物は雷を落とし、それを迎撃する。その繰り返し。
いや、アルスが仕掛けた。
彼は剣を握ると、不規則な軌道で疾走する。その足跡を刻むようにして雷が落ちる。雷は双方の距離が縮まる程アルスに肉薄し、あわや直撃と思われた瞬間、アルスは後方に跳躍した。
……なるほど、そういことか。
簡単に言えば我慢比べ。
先に魔力を使い果たした方が負ける戦い。
アルスは、今の状況で持久戦を選ぶほど愚かでない。つまり、互いに決め手が無いことで自然と今の形になったのだろう。
……何をすれば決め手になる?
恐らく切断は不可能。動きを止めるのも難しい。アルスに向かう攻撃を防ぐにしても、直撃を一瞬だけ遅らせる程度の効果しかないだろう。
……あの角を、どうにかできないか?
攻撃の度に発光する一本角。
あれが魔力を制御しているのは確定的だ。
倒す必要は無い。
動きを止める。あるいは攻撃を止める。
その隙さえ作れれば、アルスが必ず決める。
しかし手段が無い。
試したい案はいくつかある。しかし失敗は許されない。確実な案でなければ実行できない。
悩む間にも時は過ぎる。
時が経つ程に外から聞こえる魔物の声が近付き、悲鳴の数が減っているように感じる。事実か空想かも分からない感覚が焦りを生み、思考の邪魔をする。
……落ち着け。
自分の右手で左の手首を握り、長く息を吐いた。
握った手と握られた手は不気味な程に震えており、自分が如何に緊張しているか客観視させてくれた。
……覚悟を決めましょう。
胸に手を当て深く呼吸をする。
確実ではないが、成功する見込みのある策がひとつある。
失敗した時、私は確実に死ぬ。
きっとシャロも助からない。アルスがいくらか護ってくれるだろうが、外の魔物すべて突破することは不可能だろう。
しかし、何もしなければ時間切れで死ぬ。
どちらを選んでも死ぬ可能性があるのなら、自分を信じる方に賭けるしかない。
「責任重大ですね……」
声に出して呟き、苦笑する。
冒険に出ると決めた時から、ある程度の困難は覚悟していた。しかしまさか、このような形で最初の困難と向き合うことになるなんて想像もしていなかった。
私は戦闘を続ける化物たちを見て、言葉が通じる方に向かって叫ぶ。
「アルス! 攻撃をやめてください!」
恐らく彼は私の視線に気が付いていた。
しかし、まさか攻撃をやめろという指示があるとは思っていなかったのだろう。こんな状況でなければ大笑いしてやりたくなるような顔をしている。
あの様子なら、声が届かなかったということは無い。
私はもう一度だけ深く呼吸をして、魔物の方に目をやる。
そして無防備に、ただ真っ直ぐと、歩き始めた。
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