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ユニコーン聖女は閃きを得る
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──まだ!
咄嗟の判断で眼前に結界を作る。
それは残っていた私の右腕を引き裂いたが、どうにか他の部分を守った。
「……ぐっ」
勢いを殺せず顔面から結界に衝突する。
私は唇を撫でる鼻血の感触に不快感を覚えながら、右肩からの出血を止めるため回復魔法を使った。
……なぜ、こちらの動きに。
混乱する頭でアルス達に顔を向ける。
私の目に映ったのは、直前に見た時と同じ姿勢で動きを止めたアルスと、無傷の王子達だった。
「言ったはずだ。あの女を喰わせたと」
再び静寂を得た祭壇に、邪悪な声が響く。
「ユニコーンは喰らった相手の力を使える。どうして結界魔法が無いと思った?」
王子は今もまだ硬直しているアルスに言う。
「アルス。やはり貴様は不要だ。頭が悪すぎる。故に餌となれ。その力、正しく使ってやる」
「アルス何をしている!? 逃げなさい!」
私は咄嗟に叫んだ。
あいつが喰われることだけは絶対に避けたい。
「くっ、やらせない!」
私は叫び、アルスとクソ王子達の間に結界を展開する。
もはや後には戻れない。ならばアルスと共闘する他に生き残る術は無い。
「アルス! 早く動け!」
しかし、しかし、どうすればいい!?
何だあの黒い雷は!? それにお師匠様の結界まで使えるだと!?
「アルス!!」
頭に浮かぶ雑念から逃れるため再び叫ぶ。
混乱している暇は無い。今は生き残ることだけ考えれば良い。
彼の協力が欠かせない。
だから後先など考えず、ありったけの魔力を注いで結界を維持した。
もちろん攻撃も試みている。
アルスと戦った時のように、極小の結界で王子の首を落とそうとしている。
しかし、お師匠様の魔力がそれを拒む。
そもそも相手の皮膚を引き裂くような干渉など、アルスのような防御を全く考えていない相手か、魔法の心得が無い相手にしか通用しない。
結界魔法は身を護るための魔法だ。
私のような運用方法は邪道であり、格上には通用しない。
「アルス!!!」
三度目の絶叫。
「さてノエル、待たせたな」
返事をしたのは、クソ王子だった。
「貴様は遺物を求めていたようだが、何をするつもりだった?」
彼は目の前のアルスを無視して、私に問いかける。
「……ルカ、あなたこそ何が目的なのですか?」
「ノエル、あまり不快にさせるな。質問しているのはこちらだ」
「今人類は魔物と争っている! 他国を侵略するなどありえない!」
この会話に意味が無いことは分かっている。
ただの時間稼ぎ。私はクソ王子が油断している間に、次の一手を見つけなければならない。
しかし、どうすればいい?
あの雷の干渉能力は異常だ。私では防げない。
その上、攻撃も通らない。お師匠様の結界で防がれる。
頼みの遺物は、黒い雷に包まれており触れることができない。
「ノエル、もはや魔物は驚異ではないのだよ」
「……首にある魔道具でしょうか?」
「ああ、そうだ。これには我が血を混ぜてある。王の血族だけが、これを操れる」
王の血族という言葉が妙に引っかかる。
何か、何か閃きを得たような気がするのに、言語化できない。
「この力の前では不死身の騎士も聖女も無力だと分かった。そしてユニコーンは人を喰う度に強くなる。この意味、分かるだろう?」
「辺境の天才ラノウルを知らず。侵略を続ければ、いずれ英雄に滅ぼされますよ」
「ラノウルの英雄。貴様の好きな作り話だったか?」
「現実の話です。私達が知る常識など、あの国では通用しない」
時間は稼げている。
しかし案は浮かばず、アルスも動かない。
「仮に過酷を極めるとしても、止まる理由にはならない。国を大きくすることが、王の使命だ」
「嘘ですね」
「何?」
「あなたは、悲鳴が聞きたいだけでしょう?」
ならばもう、戦うしかない。
「私がマーリカを唆した理由はふたつあります。ひとつは婚約を解消して国外へ出ること。もうひとつは、あなたのような異常者と結婚するなど、絶対に嫌だったからです」
息を吸い込み集中する。
私はあの魔物には勝てない。
そもそも勝つ必要は無い。
クソ王子を殺し首輪を壊せば、それで助かる。
「……異常者、だと?」
「何か違うとでも?」
王子は顔に手を当て、俯いた。
怒りに震えているような姿だが、雰囲気で違うと分かる。
「なんだ、知られていたのか」
彼は顔を上げる。
そこには、反吐が出る程に醜悪な笑みが有った。
「その通り。悲鳴が好きなんだ。国など、どうでもいい」
彼は私から目を逸らし、魔物を撫でる。
それから私を見て「やれ」と心底楽しそうな声で言った。
私は雷を警戒して周囲に魔力を展開する。
しかし──
「どうした? 何をしている?」
ユニコーンは王子の命令を無視して、どこかを見ていた。
「何を見て……」
王子と共に、私もそちらを見る。
「女?」
「……まさかっ!?」
瞬間、王の血族という言葉から受けた違和感が言語化された。
アルスの言葉を信じるなら、シャロはお師匠様の娘。
父親は誰だ?
もしもそれが国王ならば──
思考が加速する。
ユニコーンが今になってシャロを気に掛ける理由。
王子が魔物を制御した方法。魔道具の使い方。そしてこの状況を好転させる方法。
「シャロ!」
私が叫ぶのと、魔物が動き始めるのは、ほぼ同時だった。
咄嗟の判断で眼前に結界を作る。
それは残っていた私の右腕を引き裂いたが、どうにか他の部分を守った。
「……ぐっ」
勢いを殺せず顔面から結界に衝突する。
私は唇を撫でる鼻血の感触に不快感を覚えながら、右肩からの出血を止めるため回復魔法を使った。
……なぜ、こちらの動きに。
混乱する頭でアルス達に顔を向ける。
私の目に映ったのは、直前に見た時と同じ姿勢で動きを止めたアルスと、無傷の王子達だった。
「言ったはずだ。あの女を喰わせたと」
再び静寂を得た祭壇に、邪悪な声が響く。
「ユニコーンは喰らった相手の力を使える。どうして結界魔法が無いと思った?」
王子は今もまだ硬直しているアルスに言う。
「アルス。やはり貴様は不要だ。頭が悪すぎる。故に餌となれ。その力、正しく使ってやる」
「アルス何をしている!? 逃げなさい!」
私は咄嗟に叫んだ。
あいつが喰われることだけは絶対に避けたい。
「くっ、やらせない!」
私は叫び、アルスとクソ王子達の間に結界を展開する。
もはや後には戻れない。ならばアルスと共闘する他に生き残る術は無い。
「アルス! 早く動け!」
しかし、しかし、どうすればいい!?
何だあの黒い雷は!? それにお師匠様の結界まで使えるだと!?
「アルス!!」
頭に浮かぶ雑念から逃れるため再び叫ぶ。
混乱している暇は無い。今は生き残ることだけ考えれば良い。
彼の協力が欠かせない。
だから後先など考えず、ありったけの魔力を注いで結界を維持した。
もちろん攻撃も試みている。
アルスと戦った時のように、極小の結界で王子の首を落とそうとしている。
しかし、お師匠様の魔力がそれを拒む。
そもそも相手の皮膚を引き裂くような干渉など、アルスのような防御を全く考えていない相手か、魔法の心得が無い相手にしか通用しない。
結界魔法は身を護るための魔法だ。
私のような運用方法は邪道であり、格上には通用しない。
「アルス!!!」
三度目の絶叫。
「さてノエル、待たせたな」
返事をしたのは、クソ王子だった。
「貴様は遺物を求めていたようだが、何をするつもりだった?」
彼は目の前のアルスを無視して、私に問いかける。
「……ルカ、あなたこそ何が目的なのですか?」
「ノエル、あまり不快にさせるな。質問しているのはこちらだ」
「今人類は魔物と争っている! 他国を侵略するなどありえない!」
この会話に意味が無いことは分かっている。
ただの時間稼ぎ。私はクソ王子が油断している間に、次の一手を見つけなければならない。
しかし、どうすればいい?
あの雷の干渉能力は異常だ。私では防げない。
その上、攻撃も通らない。お師匠様の結界で防がれる。
頼みの遺物は、黒い雷に包まれており触れることができない。
「ノエル、もはや魔物は驚異ではないのだよ」
「……首にある魔道具でしょうか?」
「ああ、そうだ。これには我が血を混ぜてある。王の血族だけが、これを操れる」
王の血族という言葉が妙に引っかかる。
何か、何か閃きを得たような気がするのに、言語化できない。
「この力の前では不死身の騎士も聖女も無力だと分かった。そしてユニコーンは人を喰う度に強くなる。この意味、分かるだろう?」
「辺境の天才ラノウルを知らず。侵略を続ければ、いずれ英雄に滅ぼされますよ」
「ラノウルの英雄。貴様の好きな作り話だったか?」
「現実の話です。私達が知る常識など、あの国では通用しない」
時間は稼げている。
しかし案は浮かばず、アルスも動かない。
「仮に過酷を極めるとしても、止まる理由にはならない。国を大きくすることが、王の使命だ」
「嘘ですね」
「何?」
「あなたは、悲鳴が聞きたいだけでしょう?」
ならばもう、戦うしかない。
「私がマーリカを唆した理由はふたつあります。ひとつは婚約を解消して国外へ出ること。もうひとつは、あなたのような異常者と結婚するなど、絶対に嫌だったからです」
息を吸い込み集中する。
私はあの魔物には勝てない。
そもそも勝つ必要は無い。
クソ王子を殺し首輪を壊せば、それで助かる。
「……異常者、だと?」
「何か違うとでも?」
王子は顔に手を当て、俯いた。
怒りに震えているような姿だが、雰囲気で違うと分かる。
「なんだ、知られていたのか」
彼は顔を上げる。
そこには、反吐が出る程に醜悪な笑みが有った。
「その通り。悲鳴が好きなんだ。国など、どうでもいい」
彼は私から目を逸らし、魔物を撫でる。
それから私を見て「やれ」と心底楽しそうな声で言った。
私は雷を警戒して周囲に魔力を展開する。
しかし──
「どうした? 何をしている?」
ユニコーンは王子の命令を無視して、どこかを見ていた。
「何を見て……」
王子と共に、私もそちらを見る。
「女?」
「……まさかっ!?」
瞬間、王の血族という言葉から受けた違和感が言語化された。
アルスの言葉を信じるなら、シャロはお師匠様の娘。
父親は誰だ?
もしもそれが国王ならば──
思考が加速する。
ユニコーンが今になってシャロを気に掛ける理由。
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