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ユニコーン聖女は勝利を確信する
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鼓膜が破れるような轟音と共に足元が揺れる。
アルスを取り囲むように紫電が落ち、その合間から漆黒の線が迸る。
線の正体は高密度の魔力。私が全力で結界を展開しても防げなかったそれは、しかし王子と魔物の前に落ちた純白の雷によって消し去られた。
一方でアルスは、人間離れした動きで紫電を回避している。
見てからでは間に合わない。恐らく魔力の流れを感知しているのだろう。
……私の時は回避などしなかった。
彼は無抵抗で突っ込んできた。四肢を千切り首を落としても止まらず、一瞬で身体を再生させながら迫る化け物の姿は、思い出すだけでゾッとする。
あれが不死身と呼ばれる所以。
圧倒的な回復魔法が可能にさせる唯一無二の戦い方。
しかし今の彼は回避に徹している。
それは私に紫電の脅威を再認識させた。
……何か、弱点は無いか?
あの魔物は間違いなくユニコーン。
生娘には危害を与えないものの、男か娼婦が近寄れば襲いかかり、最後はペロリと食べてしまう。何より恐ろしいのは、食べた相手の力を奪うことである。
あれは間違いなくお師匠様を食った。しかし、お師匠様がユニコーン程度の魔物に遅れを取るわけがない。間違いなく隣に立つクソ王子が何かしている。許せない。
……憤るのは後にしましょう。
唇を噛み、観察を続ける。
ユニコーンの首、何やら妙な魔力を感じる首輪がある。十中八九、魔物を従わせる類の魔道具だろう。
……首輪を破壊するか?
本来のユニコーンが私とシャロを襲うことは無い。
あの魔道具を破壊すれば、攻撃されるのはアルスと王子だけになるはずだ。
アルスは気の毒だが、まあ大丈夫だろう。王子は死ね。
しかし確実に破壊できる手段が無い。仮に攻撃が失敗したならば、その先にあるのはシャロの死だ。軽率な行動は許されない。
「ノエル何をしている!? その方を連れて早く逃げろ!」
アルスの声。
私は「できるならそうしている!」という感情を込め彼を睨む。
出入口はクソ王子に塞がれ、どうにか外へ逃げられたとしても城壁を超えることは難しい。私がシャロと共に生き残る道は、ここであの魔物を仕留める他に無い。
「そちらこそ! さっさと仕留めなさい!」
「できるならそうしている!」
あの野郎ッ、私が言いたくても言わなかったことを!
「──やめだ」
クソ王子の声。
私は咄嗟にシャロを強く抱き締め、彼に目を向ける。
「不死身のアルス。やはり殺すには惜しい」
彼は退屈そうな様子で言って、隣に立つ魔物の頭を撫でた。
「我が右腕の攻撃を耐え凌いだ褒美だ。無礼は水に流す」
攻撃が止まっていた。
一方でアルスは臨戦態勢を解除しない。
彼は足元に高密度の魔力を展開したまま、敵を睨み付けている。
「返事はどうした? 慈悲を与えると言っているのだぞ?」
どこまでも高慢な態度。
対するアルスは長い息を吐き、返事をする。
「ひとつ聞きたい」
「許す。言ってみろ」
「その魔物に、シャルロッテ様を喰わせたのか?」
「またそれか」
「いいから答えて頂きたい!」
声を荒げるアルスに対して、王子は溜息まじりに言う。
「その通りだ。あの女はこれに喰わせた。これで満足か?」
「……理由を、問うても?」
「邪魔だった」
一瞬、不気味な静寂が生まれた。
アルスは俯き、ふらふらと移動する。そして床に落ちていた剣を拾うと、これまでとは比較にならない程に高密度の魔力を展開した。
「我が主の仇、ここで斬る」
その声を聞いた瞬間、私も行動を始めた。
間違いなくアルスはクソ王子に突っ込む。防御を捨てた全身全霊の一撃。防ぐにはあの魔物とて全力を出す必要があるはずだ。
──今、この瞬間しかない!
祭壇の中央、今も神秘的な光を放ち浮いている遺物。
私はアルスが深く腰を落とした直後、自らの身体に結界魔法をぶつけた。
痛い程の空気抵抗。
目だけ動かしてアルス達を見る。
見えたのは紫電。
そして王子と魔物の前に立ち、水平に剣を振る寸前のアルス。
……読み通り!
敵はアルスの攻撃を防ぐ必要がある。
今この一瞬だけは、私に気を遣う余裕など無い。
シャロから離れるのは苦渋の決断だったが、遺物の力を得れば問題にならない。
私は遺物に向かって手を伸ばす。
確実に触れられる距離。私は勝利を確信した。
──それを嘲笑うかのように、
闇よりも深い黒色の雷が、遺物を灰に変えた。
しかし私の手は止まらない。
雷に触れた指先は、痛みを感じるよりも先に消滅した。
引き延ばされた時間。
私は何が起きたのか理解できないまま、その雷に右手を飲み込まれた。
アルスを取り囲むように紫電が落ち、その合間から漆黒の線が迸る。
線の正体は高密度の魔力。私が全力で結界を展開しても防げなかったそれは、しかし王子と魔物の前に落ちた純白の雷によって消し去られた。
一方でアルスは、人間離れした動きで紫電を回避している。
見てからでは間に合わない。恐らく魔力の流れを感知しているのだろう。
……私の時は回避などしなかった。
彼は無抵抗で突っ込んできた。四肢を千切り首を落としても止まらず、一瞬で身体を再生させながら迫る化け物の姿は、思い出すだけでゾッとする。
あれが不死身と呼ばれる所以。
圧倒的な回復魔法が可能にさせる唯一無二の戦い方。
しかし今の彼は回避に徹している。
それは私に紫電の脅威を再認識させた。
……何か、弱点は無いか?
あの魔物は間違いなくユニコーン。
生娘には危害を与えないものの、男か娼婦が近寄れば襲いかかり、最後はペロリと食べてしまう。何より恐ろしいのは、食べた相手の力を奪うことである。
あれは間違いなくお師匠様を食った。しかし、お師匠様がユニコーン程度の魔物に遅れを取るわけがない。間違いなく隣に立つクソ王子が何かしている。許せない。
……憤るのは後にしましょう。
唇を噛み、観察を続ける。
ユニコーンの首、何やら妙な魔力を感じる首輪がある。十中八九、魔物を従わせる類の魔道具だろう。
……首輪を破壊するか?
本来のユニコーンが私とシャロを襲うことは無い。
あの魔道具を破壊すれば、攻撃されるのはアルスと王子だけになるはずだ。
アルスは気の毒だが、まあ大丈夫だろう。王子は死ね。
しかし確実に破壊できる手段が無い。仮に攻撃が失敗したならば、その先にあるのはシャロの死だ。軽率な行動は許されない。
「ノエル何をしている!? その方を連れて早く逃げろ!」
アルスの声。
私は「できるならそうしている!」という感情を込め彼を睨む。
出入口はクソ王子に塞がれ、どうにか外へ逃げられたとしても城壁を超えることは難しい。私がシャロと共に生き残る道は、ここであの魔物を仕留める他に無い。
「そちらこそ! さっさと仕留めなさい!」
「できるならそうしている!」
あの野郎ッ、私が言いたくても言わなかったことを!
「──やめだ」
クソ王子の声。
私は咄嗟にシャロを強く抱き締め、彼に目を向ける。
「不死身のアルス。やはり殺すには惜しい」
彼は退屈そうな様子で言って、隣に立つ魔物の頭を撫でた。
「我が右腕の攻撃を耐え凌いだ褒美だ。無礼は水に流す」
攻撃が止まっていた。
一方でアルスは臨戦態勢を解除しない。
彼は足元に高密度の魔力を展開したまま、敵を睨み付けている。
「返事はどうした? 慈悲を与えると言っているのだぞ?」
どこまでも高慢な態度。
対するアルスは長い息を吐き、返事をする。
「ひとつ聞きたい」
「許す。言ってみろ」
「その魔物に、シャルロッテ様を喰わせたのか?」
「またそれか」
「いいから答えて頂きたい!」
声を荒げるアルスに対して、王子は溜息まじりに言う。
「その通りだ。あの女はこれに喰わせた。これで満足か?」
「……理由を、問うても?」
「邪魔だった」
一瞬、不気味な静寂が生まれた。
アルスは俯き、ふらふらと移動する。そして床に落ちていた剣を拾うと、これまでとは比較にならない程に高密度の魔力を展開した。
「我が主の仇、ここで斬る」
その声を聞いた瞬間、私も行動を始めた。
間違いなくアルスはクソ王子に突っ込む。防御を捨てた全身全霊の一撃。防ぐにはあの魔物とて全力を出す必要があるはずだ。
──今、この瞬間しかない!
祭壇の中央、今も神秘的な光を放ち浮いている遺物。
私はアルスが深く腰を落とした直後、自らの身体に結界魔法をぶつけた。
痛い程の空気抵抗。
目だけ動かしてアルス達を見る。
見えたのは紫電。
そして王子と魔物の前に立ち、水平に剣を振る寸前のアルス。
……読み通り!
敵はアルスの攻撃を防ぐ必要がある。
今この一瞬だけは、私に気を遣う余裕など無い。
シャロから離れるのは苦渋の決断だったが、遺物の力を得れば問題にならない。
私は遺物に向かって手を伸ばす。
確実に触れられる距離。私は勝利を確信した。
──それを嘲笑うかのように、
闇よりも深い黒色の雷が、遺物を灰に変えた。
しかし私の手は止まらない。
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