ユニコーン聖女は祈らない

下城米雪

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ユニコーン聖女は静観を決める

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「ノエル。貴様は何をしようとしている?」

 最悪だ。時間を掛け過ぎた。目覚めた瞬間に祭壇を起動するべきだった。

「そう警戒するな。私は血肉で汚れた祭壇を浄化したに過ぎない。貴様なら防ぎ、その騎士が死なぬことも分かっていた」

 最大限に警戒しながら周囲を見る。
 彼が言った通り、あれだけあった戦闘の跡が消えていた。

「王子、その魔力、どういうことですか」
「控えろアルス。私は今、その女に質問している」
「いいえ答えて頂きたい」

 アルスの声を掻き消すかのように雷が落ちる。
 それは彼の右半身を焼き、内側にある肉を露出させた。
 
 当然、彼は直ぐに傷を癒す。
 それを見ながら王子は退屈そうな声を出した。

「控えろと言った。次は無いぞ」
「断る。その魔物は、なぜシャルロッテ様と同じ性質の魔力を使うのですか」

 アルスは一歩も引かず問い掛けた。
 クソ王子は溜息を吐き、軽く指を鳴らす。

 隣に立つ魔物が吠えた。
 その白い角が紫色に染まり、アルスと角の間が紫電で結ばれる。

「次は無いと言ったはずだ」

 アルスの腹部に穴が空いていた。
 さらに傷口を焼くように紫電が明滅して、彼の肌を黒く変色させる。

 ……なぜ直ぐに癒さない?

 不思議に思っていると、アルスが自らの首を落とした。私との戦闘で使ったのと同じ黒い魔力の塊を自分に向けて飛ばしたのだ。

 シャロが小さな悲鳴をあげ、私の身体を強く抱擁した。そして二重の意味で驚く私の前で彼の身体が再生する。相変わらず目に毒な不死身っぷりだった。

「ノエル、あの紫電は死んでも避けろ」

 アルスは私に向かって言う。

「猛毒だ。俺にも癒せなかった」
「……っ!?」

 バカな、アルスにも癒せない毒だと!?

「ほう、興味深い」

 驚愕する私を他所に、クソ王子は淡々とした口調で言う。

「魔力は心の臓から生み出されると学んだ。しかし貴様の場合はクビから上が残れば良いのか。ならば次は頭を狙うことにしよう」
 
 アルスが魔力を放出する。
 私は次の戦闘が始まったことを理解した。

「ノエル、貴様は後だ。大人しくしていろ」

 加勢を考えた時、白い雷が眼前に落ちた。
 
 ……どうする?
 私は一瞬の間に思考する。

 戦った場合、シャロを守れる気がしない。だが、どちらにせよ戦うことは変わらない。ならばアルスと共闘した方が良い。

 だが私にアルスのような再生能力は無い。一撃でも被弾すれば終わる。その場合、彼の魔法を頼る。即ち負担を増やすことになる。

 加勢か、静観か。
 それとも隙を見て祭壇を使うか。

 距離は大股で三十歩ほど。
 二秒だ。二秒の隙があれば届く。

 しかし、あの魔物は瞬間的に雷を生み出す。
 距離など関係無い。怪しい動きを知られたら終わり。

 雷を防げる可能性は?
 今のところ防げているが、手加減されている可能性もある。

 私ひとりなら試す価値はある。
 しかしそれはシャロを危険に晒す。

 アルスと戦って今も私が生きているのは彼女のおかげだ。重々承知している。それでもやはり連れてくるべきではなかったかもしれない。

 ……しばらく様子を見るのが最善、でしょうか。

 唇を噛み、シャロを抱き寄せる。
 そして動きを止めた私の前で、激しい戦闘が始まった。
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